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魔王の魔引き、始めました  作者: 忠源 郎子
第一章 旅立ち
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解き放て


「おい、ここらでいいか」


「ああ。ありがとな」



 相手の提案を呑み、適当な所で地面に降りる。先ほどの場所よりかなり離れた場所についた。ここならリルやモルバに影響は出ないだろう。



「んじゃ、再開といくか、風火の魔王さんよ」


「……そう呼ぶなら風炎だ。お前はそう呼ぶ義務がある」


「そういやそうだったな。んじゃ、風炎の魔王を倒して、さくっと魔力を貰うとするか!」



 軽々しい宣言と共に、瞬時に迫った雷の魔王。肘を突き出し胴を狙ってくる。それに合わせるように拳を突き出し、顎へのカウンターを繰り出す。



「ぐぅえっ」


「おわっ?」



 胴体に入った俺とは違い、脳を揺らす一撃を受けた相手は思わず膝をついた。好機、痛む体に鞭を打ち、渾身の力を足に込める。



「フレイム、シュートォ!」



 炎を纏った右足で、相手の胴体を力の限り蹴りぬく。ガードをしていたのは流石だが、それでも殺しきれない勢いに乗せ、相手を大きく吹き飛ばす。そのまま体制を立て直す隙を与えず、距離を詰め拳の連撃を繰り出した。



「フレイムゥ、ラッシュ!」



 辛うじて立ち上がったものの、ガードが間に合っていない。拳の一発一発を敵に打ち込んでいく。確実に相手にダメージが蓄積されていく。圧している。筈なのに、何故雷の魔王は笑みを浮かべているのか。その思考に入ったと同時に、彼の頬が大きく膨らんだ。


 次の瞬間に雷の魔王は、緑色の霧を吹いた。咄嗟の事に思わず眼を瞑る。僅かながらも体に痺れを感じる、しかし雷のそれとは違う、この覚えのある感覚。これ、毒の魔力か!



「おぉらよっ!」



 霧の毒に気を取られていた隙に、体制を立て直した雷の魔王がドロップキックをかまして来た。防御なんて間に合わず、今度はこちらが大きく吹き飛ばされてしまう。そしてその吹き飛ぶ最中、俺の真上に瞬間移動した雷の魔王が急降下。落雷の如き一撃を繰り出した。



「フレイム、ウォール!」



 上空の敵に向けて炎の壁を燃え上がらせる。と同時に風の魔力を使い横に飛び退く。あれで勢いを完全に消せたとは思えない、念の為の回避を挟み、雷の魔王が落ちた炎に向けてもう一度突進する。壁に飲まれるように落ちた相手はそこにいる筈。そして炎による足止めを受けている筈。そこに連撃で追い打ちを叩きこむ!



「フレイ……」



 炎の籠手を勢いよく振ろうとした瞬間、炎の壁の揺らめき、その隙間から、相手が中指を立てているのが見えた。まずい。そう思った時には遅かった。



「エレキディテイン」



 雷が体全体を走る。俺の意思に反し、直立の動きを取らされてしまう。回避不可の攻撃が来る! 魔纏の強度を上げ、耐えなければ!


 炎の壁から勢いよく飛び出した雷の魔王。俺の胸部目掛けて横薙ぎの手刀を走らせる。着弾地点に意識を集中し、魔纏をより濃く厚くしていく。雷鳴が男の腕に纏わりつく。眩いばかりの光がけたたましく鳴っている。



「ツゥ、プラ、トン!」


「ぶはぁっ!?」



 避けようのない衝撃、胴に穴が開くかと思う程の威力と雷撃。それが、何故か俺の正面と、背後から同時に炸裂した。まるで二人に同時にぶっ叩かれたような感覚に、全身の骨が砕けたかと錯覚する。意識が遠のき、そのまま前にフラリと、俺の体はバランスを崩していく。



「水界と雷の合わせ技だ。お前はよくやったよ。安心しろ、後の奴に手は出さねぇよ」



 よくやった。なんだお前、そのセリフは。もう終わったような事言いやがって。勝手に終わった気になりやがって。まだだ。まだだ、俺が倒れるのはまだ先だ!


 足に意識を、力を! 倒れようとするふざけた体に喝を入れろ!



「なっ!?」



 倒れる寸での所で、足を一歩踏みしめた。地面に深く跡をつけるくらいに力強く。そのまま全身に力を行きわたらせ、グイと体を起こす。表面は焼け焦げ、中はバキバキ、それでもどうだ、俺はまだ立ってるぞ!



「へっ……最高じゃねぇか!」



 喜々とした表情を全面に出しながら、雷の魔王は拳を構える。倒れたい衝動をすり潰し、構えに応えた。乱れた息を整え、ただ衝突の瞬間に備える。



「…………お前、あの力は使わねぇのか」


「あの……先代の力か」


「おうよ。アレにリベンジ出来ると思ったのによ」


「お前こそ、水界の魔王を呼ばなくていいのか」


「……どうやら、お互い言いたい事は同じみてぇだな」


「そうだな……お前には」


「オレで」


「「十分だ!」」



 閃光と熱風の激突。お互いの全てを絞り出すような肉薄の衝撃が巻き起こる。無理矢理に体を動かし拳を動かし、敵に打ち込み、打ち込まれていく。お互いの肉を切らせる殴り合いが巻き起こる。


 

「ぅおおおああああ!」



 こちらがバランスを崩した隙に、雷の魔王が渾身の手刀を繰り出す。疾風の魔力を使い、無理に動かした左腕の拳でそれを弾く。その際、僅かな爆発が起こった。敵の魔力じゃない、今のは俺の魔力だ。これだ。これしかない。一か八か、口から大きく息を吹きかける。



「!? なんだ?」



 今の行為自体に危険性はない。俺がやったのは、空気の塊を幾つか相手の体に纏わせただけ。それを、この炎の籠手でぶっ叩く。



「はああああああ!」


「ぐぁあああ!?」



 拳の着弾と共に巻き起こる爆発。小規模だが、確かな破壊力を秘めた爆撃を、幾度も幾度も打ち込んでいく。



「フレイムラッシュ、エクスプロージョン!」


「ぐぉおああああああ!」



 気が遠くなる程に拳を突き、空気を炸裂させ、追い込んでいく。相手が大きく仰け反った、ここだ!



「フレイム、タイガァアアア!」



 両腕を突き出し、魔力で描くは炎の虎。かつてこの雷の魔王にやった、ファイアータイガーの上位互換。残った力の全てを振り絞り、虎を檻から解き放つ。躍り出た虎はその大口を開き、眼前の敵へと食って掛かった。



「ぐあああああああああ!」



 虎に飲まれた魔王、黒煙を口から吐きながら、その場に仰向けに倒れ込んだ。頼む、立ってくれるな。もう俺も限界なんだ。弱音とも言える俺の言葉、それをあざ笑うかのように、雷の魔王は、ゆっくりと立ち上がる。



「ぜぇ……ぜぇ……どうよ、立って、やったぜ、なあ、おい」



 強気な言葉に似合わない息のキレ。肩が大きく揺れ動くそのさまは、とても戦いを続けられるものとは思えない。だが、それは俺も同じ事だ。もうお互い魔力もない。拳を少し、上げる事しか出来やしない。それでも立っている限りは、お互い戦うんだ。



「はぁあああああああ!」

「うぉおおおおあああ!」



 前に倒れる勢いに任せ、拳を振り上げる。そうしてお互いの拳がお互いの頬に、炸裂し合う。バランスを崩し、重力に力が圧し負ける。



「……っだぁああ!」



 倒れるな。倒れるな! ここで勝つ、俺が勝つ! 無意識と言っていい程に一心に思い、足に力を入れる。今日一番と思えるほどに力を込めて、大地を踏みしめる。倒れるなという命令を無理矢理に聞かせていく。


 息も絶え絶えだが、俺は立った。確かに立った。まだ、まだ立っている。満身創痍の眼を開き、しっかりと相手を見る。……いない。どこだ、どこに行った。辛うじて動かせる眼球を頼りに周囲を探る。そして見つけた相手は、地面に倒れ、天を仰いでいた。

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