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魔王の魔引き、始めました  作者: 忠源 郎子
第一章 旅立ち
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炎の魔王


 街に戻ってから翌日の朝。俺達はバロフの元に報告をしに向かった。城にはバロフとシルベオラさんの二人だけ。後の三人は遠出しているようだった。



「報告ご苦労。まずは炎の魔王に打ち勝った事を褒めておく。よくやったなリュウヤ」


「いえ、皆さんのお陰です」


「その事だが、隠していて悪かった」


「謝る事なんてないですよ、俺を鍛える為にやってくれたんですから」


「そうは言えど、苦難の道を歩ませた。恨むのは当然、許せとも言わん」



 変に意固地と言うか、どこか自傷的なところがバロフにはある。先代魔王の魔力の、言ってしまえば後始末。それを正当後継者である彼が行えない事に負い目を感じているのだろうか。



「許す許さないは、取りあえず置いといて。リルフィリアの姉の、氷の魔王の件なんですが」


「昨日の内に行ってきたんだろう。結果はどうだった」


「それが、居ませんでした」


「居なかった?」



 そこから俺達は事の経緯を話した。忽然と姿を消してしまった事。そして恐らくは生きているが、どこにもその気配がない事。それらを話した上で、心当たりがないかを尋ねてみた。



「……実は、シルベオラがな、定期的に氷の魔王の様子を見に行っていた。リュウヤ達が赴く数日前までは確かにいた。生命反応もしっかりと確認している。変わらず自力での脱出は不可能な点もだ。それが消えたとなると……」


「誰かが移動させた。そしてそれは恐らくは魔王の一人。数日の内にあの大きさの物を消せる魔王の魔力に心当たりが無いか。そういう事ですねリュウヤ君」


「はい、知りませんか? そういう魔力の持ち主」


「……あるにはあるが、あれはここまで来るような奴じゃない。そんなことをする意味も持たないだろうからな」


「逆にリュウヤ君には、心当たりは無いのですか? 例えば、水界の魔王とか」


「水界の魔王……」



 言われて見れば、確かに俺はあいつの魔力がどんなものなのかよく分かっていない。水を使った攻撃をしたり、俺達の攻撃を反射させたり、そういう事はしていた。しかしそれが全力の能力なのかと言えば、どうも疑わしい。あいつの、水界の魔力の全力がどんなものかがまるで分かっていない。そもそも水界ってなんだ?



「この近辺で残っている魔王と言えば、その水界の魔王ぐらいのものです。その一行に話を聞いてみるのはどうでしょうか」



 話を聞くなんて間柄ではないけれど、確かにあいつぐらいしか候補はいない。しかし問題はあいつらが一体どこにいるのかだが……



「水界の魔王、どうやって探そうか」


「そこが問題ね、いつもどこからともなく現れるから、どこを探せばいいかが分からないわ」


「そんなに遠くじゃないとは思うけど……」



 どうしたものかと思案していると、部屋の扉が勢いよく開け放たれた。そこには血相を変えた一人の男。あれは、ついこの間に会った元火の魔王、モルバ=クレナトスだ。



「イ、イリサキ! 助けてくれ!」


「火の、いや、モルバ、どうしたんだそんなに慌てて」


「アニキが、アニキがヤバい! とにかく来てくれ!」


「リュウヤ、私も」


「うん、任せて」



 言葉を選んでいられない、そんなひっ迫した状況であることが伝わった。疾風の魔力をリルに付与し、入口に向かって翔ける。



「ほら、乗って! 話は道中で聞くから!」


「お、おう!」



 モルバを背中に抱えると、そのまま俺達はそのまま空へと飛び立った。ある程度上空に来たところで、モルバに方向を尋ねる。



「南だ、ずっと南に飛んでくれ!」



 その言葉が終わるよりも早く、移動を開始した。背中で呼吸を乱すモルバ。飛ぶ恐怖によるものではなく、不安から来るものだというのがすぐにわかった。



「何があったんだ?」


「突然、金髪の大男が現れて、炎の魔力を寄越せって言って来やがったんだ! それで、アニキはお前は逃げろって、オレを逃がしてくれて!」



 いつもの不遜な態度など欠片もない慌てた口調だが、言いたいことは伝わった。金髪の大男、恐らくは雷の魔王。そして炎の魔力を欲しがっているという事は、氷の魔力を狙っている可能性が高い! 急いでヤゴウさんを助けて、雷の魔王から水界の魔王の居場所を聞き出す!



「……モルバ、ヤゴウさんが見えたら、遠くにモルバを降ろすよ」


「は、ふざけんな! オレも連れてけ! 魔力が無くたって戦えらぁ!」


「雷の魔王は魔力無しで戦える相手じゃない。奪った俺が言うべきじゃないけど、魔力無しでは到底戦えない」


「ふざけんなよお前! なら火の魔力を返せよ!」


「悪いけど、俺はまだそこまで出来ないんだ」


「なら、なら火の魔力を分けろ! そこの女にやってるみたいに出来るんだろ!」


「ずっとは無理だよ、一時的にしか出来ない」


「それでいい! やれ!」


「……わかった、近づいたらやる」



 戦わせるのは良い判断とは言えないが、アニキと慕う人が危機に陥ってるのに、それを遠くで見ていろと言うのは、確かに酷な話だ。自分がどれだけ気を回せるかが問題だが、やるしか、な……



「? リュウヤ! どうしたの? 何かあった!?」



 俺の流す疾風の魔力が乱れた、それを感じ取ったリルが尋ねてくる。そう、彼女の言う通り何かあったのだ。炎の魔力が今、完全な物になったのを感じる。分けられていた炎の魔力が、全て俺の元に集った、集ってしまった。それは、つまり、ヤゴウさんの死を、意味する。


 思わず眉が顰まる。それを見たリルは察したのか、それ以上何も問いただす事はなかった。しかしモルバはそうは行かない。俺達の雰囲気の変化から最悪の事実を察知してしまった。



「おい、なんかあったのかよ! おい答えろよ!」


「……近づいたら魔力を分けるから、それまで待ってよ」


「答えになってねぇじゃねぇかよ!」



 ヤゴウさんがどうなったかは分かっている。でも、まだ間に合うかも知れないという、妄想じみた希望を捨てきれない。言葉にしたらその事実が確実なものになってしまいそうで、答えられない。


 暴れそうなモルバを宥めながら宙を翔けていく。そしてようやく人影を見つけたが、それはヤゴウさんではない。金髪の巨漢、雷の魔王。その宿敵の傍らに、横たわった人物を見つけてしまった。



「あ、ああ、あに、アニキ、アニキぃ!!」



 腹部に大穴を開け、口から血を零し、肌は黒く焼け焦げ、見るに堪えない状態。僅かに抱いていた、もしかしたら。そんな淡い期待が完膚なきまでに打ち砕かれた瞬間だった。



「うわあああああアニキぃいいいいい!」


「あっ、待てっ!」



 もはや錯乱状態のモルバ、俺が地面に着くよりも先に飛び降り、ヤゴウさんの元に駆け寄った。まだ付与が出来ていないというのに、凄まじい速度で駆けていく。そして遺体に駆け寄ると子供のように泣き、揺さ振る。



「アニキ、アニキぃ! 返事をしてくれよアニキぃ!」



 そんな事が出来る訳が無い。どう見ても分かる事実が受け入れられない。あまりに痛々しい彼に、掛ける言葉が見つからなかった。


 それにしても意外なのは雷の魔王。降り立った俺達に襲い掛かってくるかと思いきや、少し歩いて距離を取り、こちらの動向を窺っている。別れの挨拶くらいはさせてやろう、そんな気遣いでもしているのだろうか。



「そいつからの遺言だ。『あとは頼んだぜ』 だとよ」


「……律儀なんだな」


「毒の魔王も最後を選ばせてやっただろ。その借りだ」


「礼は言わない」


「構わねぇよ。どうせお前らもすぐに後を追うんだからな」

 


 もう良いだろ、とでも言いたげに体に電流を帯びる雷の魔王。それに応えるように、俺は拳に炎を纏わせた。

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