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魔王の魔引き、始めました  作者: 忠源 郎子
第一章 旅立ち
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魔王バロフの真意


「彼は、バロフは先代のような善王を目指し、日々奮闘していました。ですが、それが身を結ぶ事はありませんでした」



 どこか遠い眼をしたシルベオラさんが、ぽつぽつと語り始める。



「先代が倒れた後、その王座をバロフが継ぎました。疲弊した世界は他に王が現れる事が無く、バロフが実質世界の実権を握った状態でした。それからバロフは、先代、善王の跡継ぎに相応しい王となるべく心血を注ぎました。彼の努力の甲斐あって、長きにわたる戦いの傷跡は、徐々に薄れて行きました」



 バロフの半生を語る彼女は、優し気な表情をしていた。懐かしむような、慈しむような、温かい表情だった。しかしその顔色が、ここから次第に暗いものへと変わっていくこととなる。



「しかしそれは長くは続きませんでした。先代魔王の魔力、今で言う魔王の魔力が蔓延し始めたのです。それに適合した者達が各地に現れ、世界は混沌に飲まれ始めました。初めは私達の指示に従ってくれた適合者達も、やがては勝手な行動をするようになりました。今思えば、あれは本来の物とはかけ離れた性格になる現象、堕王の影響だったのでしょう。バロフは世界を駆けずり回り鎮圧、抑制に努めました。しかしそれでも被害は増える一方。民衆達もやがてバロフではなく、各々が思う魔王達の元へと離れて行きました。そして遂に、魔王達は連合軍となり、バロフに反旗を翻しました。自分たちの行動を邪魔するバロフを排除したかったのです。バロフは最後まで説得を試みましたが、届く事はありませんでした。最早狂気の暴徒と化した群衆を抑えきれず、民衆含めた魔王達をバロフは灰に返しました。人間も魔族も含めたその数は、当時の半数を占めていました。それからバロフは、表舞台から姿を消しました。そうして姿を消している間、魔王の魔力について研究を重ね、それらを元にリュウヤ君を呼び出したのです」



 言い方は比較的ざっくりとしたモノだが、どうにか事実だけを言おうとしているのが分かる。でも、シルベオラさんの苦悶の表情が、語られていない彼女たちの苦悩を代弁している。バロフ達は価値観の違いこそあるだろうが、それを加味しても悪い人たちではないのは理解出来たつもりだ。そんな彼らが民衆を殺める決断を下す事が、どれだけ重い決断だったかなんて、言葉に出来る筈もない。


 空気が重い。語る内容と語り部の顔色が、嫌でも辺りの感情を重くする。彼らの経験を受け止めきれる程の経験が、今の俺にはない。失った記憶よりも、奪ってしまった記憶の方が重いのだと思い知らされる。なんと言うべきか、言葉を見つけられない。俺だけじゃなく、リルフィリア達も同じ。声を出すことを躊躇っている。そんな静寂を打ち破ったのは、語り手のシルベオラさんだった。



「リュウヤ君。貴方を呼び出した理由、貴方にして欲しいと私達が思っている事、分かりますか?」


「……魔引き、ですか」


「それもですが、真の目的は他にあります。バロフからは本人の意思に任せたいと口止めされていましたが、話しておくのが誠意というものでしょう」


「真の目的……」


「私達は、リュウヤ君、貴方に王になって欲しいのです」



 王。それも彼女の意味するところは一国の王ではなく、世界を統治する王になれと、そういう意図だろう。先代魔王やバロフの出来なかった事をやって欲しいと、そういう意味だろう。



「それは、先日の用に先代魔王に成った状態で、という話ですか」


「いえ、あれは完全に私達の思慮が足りなかった結果です。私達はリュウヤ君にはリュウヤ君のまま、王になって欲しいのです」



 問う事をした反面、まだ内容を呑み込み切れていない。随分と自分の身の丈に合わない要望をされている。そんなことを言われても、それが正直な感想。しかしそんな中、一人理解したように頷く男がいた。



「なるほど、合点がいった」


「バストル?」


「常々思っていた。リュウヤが苦労して魔引きをせずとも、バロフ達が魔王を捕らえて来ればいい。リュウヤが取り込むのに時間を要したとしても、最終的にはそれで魔引きは完了する。連れてくる事はバロフの実力ならばそう苦労するような事でもないだろう」


「それもそうよね。魔王の魔力を持った大勢の反乱軍に打ち勝てるくらいだもの、出来る筈よ」


「そうしないのは、リュウヤを名実共に王として世界に認めさせるためだ。力をただ与えられた状態ではお飾りの王に等しい、従う者は多くないだろう。そうならない為にリュウヤに自らの手で魔引きをしてもらっているという訳か」


「ええ、その通りです。それに貴方の言った方法は一度試しました。無論、失敗に終わりましたが」



 バストルの言う疑問は、俺も思うところがあった。そうしないのはそんな意図があったからなのか。でも、俺が王、王? この世界に来るまでは俺、ただの高校生だったんだぞ? それが王? いくら何でも話が飛びすぎじゃないか?



「リュウヤ君」



 もう一回バロフが王になればいいんじゃないか? 俺が魔引きをした後にでも、もう一回なれば良いじゃないか。半分には裏切られたと言っても、半分は慕ってくれたんだろ? なら十分に王の素質はあるじゃないか。そもそも……



「リュウヤ君」


「え、あ! はい」


「いきなりこんな事を言ってすみません。先に言った通り、王になるか否かは貴方に任せます。今日は一先ず体を休めて下さい」


「ま、待って」



 ください! それを言い切るよりも速く、目の前の景色が一変した。そこは宿屋、アンさんが少しびっくりした顔をしている。



「……」


「リュウヤ、今日はもう休みましょう」


「リルは、俺が王になれると思う?」


「……そんな無責任な事は言えないわ。でも、もしリュウヤがなったとしたら、優しい王になるのでしょうね」


「…………そっか」



 あまりにも入ってきた情報が多すぎる。頭を回そうにも物が多くて回せない。なにはともあれ、彼女の言うように休息を取ろう。今日はもう、それしか出来る気がしない。

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