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魔王の魔引き、始めました  作者: 忠源 郎子
第一章 旅立ち
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「さて、ここに呼んだのは一昨日の件についてだ。順を追って話していく。まずは元魔王の二人だが」



 一昨日? 一昨日って言ったよな今。俺そんなに寝てたのか。



「お前達は十分に義務を果たした。城下町の空き家を一軒用意しよう。今日からはそこに住み、町の一員として励むがいい」


「感謝します」


「そして本題だが、リュウヤ」



 一斉に視線が集まる。緊張が伝わる、俺にとっても彼らにとっても、重大な出来事なのが分かる。



「お前はあの日、先代魔王の化身になろうとしていた」


「先代魔王……」


「そうだ。先代魔王デフィルネル。俺とフィチカの父であり、300年前世界を支配していたかつての王。そういうものにお前はなりかけていた」



 そういえばプリフィチカさんもデフィルネルと名乗っていた。だがバロフの父でもあるというのは初耳だ。



「300年……そんなに前なんですか」


「ああ。そんなに前だ」


「俺はそんな昔の人になろうとしていたんですか?」


「そんな昔の人の魔力が今もこうして残っているんだ、何が起きても不思議ではない」


「それはそうかも知れませんが、なんで俺なんです?」


「他の者も同じ現象になるのではないか、という事か。その考えは尤もだが、オレ達はそういう事例を見たことも聞いたこともなかった。それに同じ現象が起きていたら、オレかフィチカは必ず気づく」



 親子だから気づく、そういう雰囲気や気配があるのだろう。二人がそう言うなら、俺が初めての現象というのは間違いなさそうだ。



「お前がああなってしまったのは、大きく二つの要因があると睨んでいる」


「二つ」


「一つはお前の適正だ。魔王の魔力に対する適正というのは、一くくりに出来るものではない。隣のリルフィリアは水の魔力に適正があるが、火は恐らく取り込む事が出来ない、出来たとしても全力を引き出す事は出来ないだろう。バストルも土の魔力には適正がないと見える」


「……つまり俺の適正が変って事ですか?」


「変というよりは特別だな。リュウヤは他と違い、全ての魔力に適正がある」


「……先代魔王に近い体質?」


「そうだ。先代魔王に変化するのにはうってつけの肉体という訳だ」


「じゃあ、二つ目は」


「強化の魔力。それが要因として大きい」


「強化の?」



 この魔力は単体、単独では効果を発揮し辛い。誰かに別の魔力を付与することで成り立つ魔力。それが大きな要因に?



「先代は単独での戦闘力は勿論類を見ないものだったが、真価は軍を率いての戦いにあった。部隊長から一兵卒に至るまで、全ての仲間に己の魔力で強化を施す事が可能であり、そうなった軍団は誰にも止める事は出来なかった。仲間を強化する事こそが、先代の真骨頂だった」



 仲間を強化する、この強化の魔力で出来る事であり、先代魔王が得意とする事。得意がそのまま魔力として残ったのが、この魔力なのか。



「強化の魔力は、先代の要素が色濃く残る魔力。それを全適正を持つリュウヤが所持すれば、一昨日の出来事も起こり得る、という事だ」



 一部分だけ見れば先代そっくり、それが今の俺、か。



「もし、このまま魔力を集めていけば、いずれ俺は先代魔王になってしまう、そういう事ですか?」


「あくまであれは魔力に乗っ取られただけ、本質は感情の高ぶりによる堕王と変わりはない。お前が感情、そして魔力を抑制出来れば、克服できる」


「それはあくまでも見立てでしょ?」



 割って入ったのはリルフィリアだった。表情こそ変わらないものの、声に静かな怒気が感じられる。



「ああ、あくまで見立てだ」


「このまま魔力を取り込み続けていたら、リュウヤがリュウヤじゃなくなってしまうかもしれない。そんな事、させない!」



 瞬時に取り出した槍を構え、バロフを睨みつけるリルフィリア。今にも飛んでいきそうな形相だ。



「待ってリル!」


「止めないでリュウヤ。貴方が自分を失ってまでするような事じゃない」


「ああ、その通りだ」



 いつの間にか接近していたバロフが、リルの腕を掴み上げた。宙に浮いた状態にされ、痛みに顔が歪むリル。それを見た瞬間、俺は腕に火を纏っていた。



「バロフ!」


「見えるかリュウヤ、この傷が」



 俺の怒りなど見えていなかのように、バロフは話を続ける。



「お前の傷、この娘の傷。お前の弱さが引き金となったモノではあるが、全ては、オレの考えの甘さが招いた結果だ」



 意外な言葉に、眼が丸くなった。俺達の驚きを他所に、バロフはリルを優しく降ろし、口を開く。



「少し考えればこうなる可能性は十分に考えられた。なのに手を打たず、リュウヤならばなんとかなるだろうと高をくくっていた。気休めにしかならないだろうが、いくらでもばっ、ごふっ」



 バロフが突然血を吐いた。え、なに、なに? よく見ればバロフの腹に槍が刺さっている。誰? と一瞬思ったが、槍を持つのは一人しかいない。



「リル!? 何やってんの!?」


「いくらでも罰して欲しいっていうから、そうしただけ」


「まだ、言ってない……」


「言われなくてもやるつもりだったわよ。人をこんなに危険な眼に合わせといて、自分には何もないだなんて通らないわ」



 そんなことしたらバロフの仲間が、と思ったが、誰も来る気配はなかった。モナムさんなんて、そうだそうだと言わんばかりに頷いている。



「まあでも、私の槍でも通るように配慮してた点を踏まえて、一刺しで勘弁してあげる」


「じゃあ私も殴っておくか」



 ちょっとウキウキした声色のバストル。意気揚々と肩を回している。



「そらっ!」


「ぐぁっ!」



 宣言から間髪入れずに一撃。顔面にクリーンヒット。



「あーすっきりした」


「結構思いっきりいったねバストル」


「リュウヤも日ごろの恨みをぶつけておけ、またとない機会だぞ」


「……いや、俺は違う罰をお願いするよ」


「違う罰?」


「先代魔王と、バロフ自身の話を聞きたい」

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