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魔王の魔引き、始めました  作者: 忠源 郎子
第一章 旅立ち
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黒煙渦巻く


 意識を回復し、傷をポーションで癒したバストル=ベアレス。彼が戻ったころには、状況は一変していた。


 見知らぬ男が二人、リュウヤと対峙している。リルフィリアは男たちに捕らえられ、疾風の魔王はリュウヤの傍で倒れている。そしてリュウヤはというと、片膝で、苦しそうなうめき声をあげている。その体からは黒煙のような魔力が、まるで火事のようににじみ出ていた。



「なっ……リュウヤ!? 堕王に……いや、違う?」



 一度彼が堕王になったのを見たバストル、彼はいち早くその異変に気が付いた。以前の時とは明らかに様子が違う。まるで違う何かになろうとしているような、言いようのない恐怖と不安。それが今のリュウヤには感じられた。



「……なあ、大将。あれ堕王か?」


「当方も初見の事象だ。堕王となる過程で、このような現象に覚えはない」


「大将、今殺した方が良くねぇか」


「やむを得んか」



 静観していた二人が動く。雷を纏った拳を放つ大男と、水を纏った手刀で突く優男。その二人の攻撃は、リュウヤから出る黒煙が手を模り、容易く防いでしまった。



「な!? かてぇ!?」


「下がれ雷の」



 魔力のみによる防御で防がれ、一時距離を取る二人。それと同時に、リュウヤはゆっくりと立ち上がった。苦しそうな声は止み、黒煙が彼の周りを渦巻いている。落ち着いたとも、冷めたとも言える表情を携えて、彼は敵に視線を送る。ただそれだけで、二人の魔王の背中に死を予期する悪寒が駆けた。


 反射的に構えを取る二人。だが彼らが気づいた時には、リュウヤは視界から消えていた。



「どこに、!?」



 慌てて雷が辺りを見回せば、自らの傍らにリュウヤの姿。いつの間にやら、その腕にはリルフィリアが抱えられている。



「は? てめぇっ!」



 驚いた彼が咄嗟に裏拳を放つも、その姿は陽炎のように消え失せた。




「なんだ、リュウヤの身に何が……うぉっ!?」



 遠くからでも分かるほどのリュウヤの異変。胸騒ぎを覚えるバストルの目の前に、瞬きの内にそのリュウヤ本人が現れる。その腕にはリルフィリア、そして疾風の魔王の姿があった。



「な……」



 呆気に取られるバストルの傍に、リュウヤは二人を優しく降ろす。そして彼はバストルに視線を送る。二人を頼むと言いたげなリュウヤ、バストルは息を飲んだ。



「リュウ……いや、お前は、誰だ?」



 彼を渦巻く黒煙。老境と錯覚する程の落ち着いた振舞い。銀に変わりつつある頭髪。そして血を溜めたような赤の瞳。付き合いが特別長い訳ではないバストルでさえ、一目瞭然の変化であった。


 彼の問いに答える事無く、リュウヤは二人の魔王の元に戻った。既に水界、雷両名は魔力を纏わせ臨戦態勢にいる。対してリュウヤはと特に構えという構えは取っていない。しかしその状況でも、二人は踏み込めずにいた。



「おいおい、なんだよこいつ」


「まさか……いや、あり得る、か」



 眼前に立つこと、それすらおこがましいと言いたげな視線。周囲の空気が泥のように重い。少しでも気を抜けば地面に伏せてしまいそうな重圧。構えも何もない立ち姿には、僅かな隙間すら見出せない。


 来ないのか、とでも言うかのように首を僅かに傾けるリュウヤ。瞬きすら許さぬ程の間をおいて、彼の拳は二人を捉えた。



「ぐぉわっ!?」


「ぬぅっ」



 防御が間に合わず直撃を食らう雷の魔王と、どうにか左腕を割り込ませた水界の魔王。しかしいずれにしても、両者共に大きく吹き飛ばされる結果は変わらなかった。


 距離の空いた敵に対して、リュウヤは人差し指を向ける。そこから赤く、小さくも禍々しい水滴が撃ち出された。


 

「鏡面・八咫!」



 いち早く体制を立て直した水界の魔王。遠距離の攻撃を跳ね返す水鏡を作り出し、水滴を跳ね返した。だが跳ね返した先には次の雫が既にあった。反転した一発目と、遅れて撃ち出された二発目は正面衝突の形となる。二つがぶつかり合った瞬間、噴火と見紛うほどの天を突く火柱が、そこに突如現れた。



「うぉおおおおおおお!?」


「ぐぉおおおお!」



 火柱の直撃を受けた二人の困惑交じりの怒声が響く。距離をおいているリュウヤは、眉をひそめて、自らの手を見ていた。



「どらああああああ!」



 火柱から勢いよく飛び出したのは雷の魔王。全身に帯びた電撃を打ち鳴らし、神速のラリアットをリュウヤにかます。しかし手ごたえは無く、直撃したはずのリュウヤは霧のように消えてしまった。



「消え!? ぐぁあっ!?」



 本物のリュウヤは上から現れた。狼狽する雷の魔王を踏みつけ、うつ伏せの状態に地面に叩きつける。そしてその状態で、手のひら程の小さな火球を作り出した。先ほどの小さな雫で凄まじい威力が出たことを考えれば、その火球がさらなる威力を爆発させるであろうことは、想像に難くない。


 その火の玉を彼は滑らせるように落とす。しかしその直前。水界の魔王がリュウヤを蹴り飛ばした。



「立てるか」


「おうよ!」



 全身に焼けた跡が見えるが、二人の闘志は未だに消えていない。仲間の助けに応えるように、雷の魔王は立ち上がる。


 それに対するリュウヤ。水界の蹴りを難なく防いでいた彼は、その手に魔力で生成された武器を握っている。身の丈を超える程の長さの、棒。片手で無理なく掴める太さのそれを、他でもない彼自身が、怪訝な表情で見ていた。

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