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魔王の魔引き、始めました  作者: 忠源 郎子
第一章 旅立ち
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気絶


 脅迫。その単語に嫌な予感が全身を走った。水界の魔王が歩を進める。その先にはリルフィリアの姿。先ほどの電撃で半分意識を失っており、逃げることなど到底出来はしない。



「虫の息。されど息をしていることに変わりはない」



 水界の魔王がリルの腕を掴み上げる。引き上げられぶら下がった状態になったが、今の彼女にはそれすら辛い。


 男は空いた手に魔力を込めた。それが雷の魔力である事は一目瞭然。そしてその手の魔力は、リルを死に至らしめるには十分過ぎる量だった。



「てめぇ! やめっガハッ!?」



 走ろうとした瞬間、血が口から飛び出した。俺の意思に反して出た出血は、手で受けきれない程に多い。興奮で分からなかったが、内臓が派手に傷ついている証拠。



「臓腑が傷ついている状態でよくあれだけ動いたと褒めおくが、交渉に手心は加えん」



 飛びそうな意識をなんとか食い止めつつ、水界の魔王を睨む。



「お前が当方に協力するなら、この娘の無事は約束しよう。しかし拒むなら、直ぐにでも命を奪う。他の二人も同様だ」



 そう聞いてくることは分かっていた。俺の頭はこの問への回答ではなく、状況を打破する為に回転していた。しかしいくら考えても思い浮かばない。助けを呼ぼうにも手段は限られているし、それで好転出来る局面とも思えない。



「考え込むのはいいが、この娘の治療がいつ手遅れになるかも、思考に加えておくといい」



 悔しいがアイツの言う通りだ。このまま引き延ばし続けても、リルの体力がもつとは限らない。



「重ねるが、要望はあくまで協力だ。仲間になれとは最早言わぬ。望むならこの娘の同行も許可しよう」


「……おい大将」



 譲歩に譲歩を重ねた申し出に、雷の魔王が痺れを切らした。俺でも不自然に思う程に条件を緩くした対応、彼が苦言を呈するのも頷ける。



「人手がいる。五の従者を失い毒の魔王も失った。兎にも角にも人員は必要だ」


「それはそうだけどよぉ……」


「両者の溝は時間が埋める」


「……大将がそうしてぇなら止めねぇけど、そう上手くは行かないと思うぜ」



 彼の言う事は尤もだ。人員確保ならもっとすんなりと賛同してくれる人間を選ぶべきだ。俺みたいにいがみ合う人物を引き入れるメリットは弱い。水界の魔王が言う事も呑み込めなくはないが、やはり引っかかる。



「さて、熟考の間は十分に与えた。答えを聞こうか、風火の魔王」



 確かに十分時間はあった。だがそれでも全員を助ける作戦は思いつかない。都合の良い展開など起こりえない。今の俺に出せる答えは、一つしかなかった。



「……わかった、お前たちに協力する。だから、だからみんなを殺さないでくれ」


「勿論だ。約束しよう」


「ま……待て!」



 その声の方を全員が一斉に見た。正体は疾風の魔王。膝を付いた状態で声を絞り出している。



「この身の魔力を使え少年! この身は弱いが、魔力そのものは強い! 少年なら使いこなせる筈だ!」



 確かに風の上位である疾風の魔力が手に入れば、太刀打ち出来るかもしれない。だが使いこなせるかは分からないし、なによりそれをこいつらが見逃すとも思えない。


 だが、やらずに終わる事は出来ない! どうにか隙を作りだし、力を、みんなを救える力を手に入れるしかない!


 そう意気込んで再び戦闘態勢を取る。体の内側から来る痛みも堪えて、敵を見据える。だが、敵の対応は予想外のものだった。


 傍観。二人が取った行動は傍観だった。妨害に来る気配もなく。それが油断を誘う作戦、という気配もなく。本当にただただ静観の姿勢を見せている。



「魔力を奪う前に傷薬があれば服用しておくといい。強力な魔力は取り入れるだけでも体力を消耗する」


「おら、さっさとしろ」



 助言をする水界に、早くしろと急かす雷。意図が良くわからず、少し固まってしまった。だがやれというならそうしよう。ポーションを飲みつつ。疾風の魔王の元に急いで駆け寄る。





「大将、いいのかよ」


「何がだ」


「ほっといて良いのかって聞いてんだ」


「推測だがあの女の持つ魔力は風の上位。その程度なら手に入れたところで当方の相手ではない」


「もう一回のめしてやるってか」


「そうだ。そうすれば歯向かう気も完全に消えるだろう。それにあの少年が力を得る、仲間にする事を考えれば利点とも言える」


「そうかい」


「そしてあの魔力を取り込んだ際には、少年は堕王となるだろう。まだ、強力な魔力に耐えきれる程の器ではない。戦闘力は上がるだろうが、たかは知れる。加えて堕王となれば、風火の考えも変わるだろう」


「まあ、さっきよりは楽しめるってことか」


「油断は無しだ。次は当方も加わる」


「あいよ」





 物見を決め込む相手を気にしながらも、疾風の魔王のところにたどり着く。一瞬強化の魔力で彼女を強化し、共闘をお願いする案も浮かんだが、今の彼女はとてもそんなことを出来る状態には見えなかった。



「さあ、一思いにやれ少年!」


「え、ああ、殺さずに貰えるので大丈夫です!」


「む、そうか。情けない話だが安堵したぞ。さあ遠慮なく受け取るといい。元よりそのつもりだ」


「はい! ルベルシフ!」



 掛け声と共に両手を突き出し、魔力を吸い上げるイメージを湧かせる。相手から自分へと、強力な魔力の塊が流れ込んでくるのが分かる。そうして疾風の魔力が完全に流れ込み、俺の持つ魔力と一体になった。俺の意識は、そこでブツリと途切れてしまった。




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