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魔王の魔引き、始めました  作者: 忠源 郎子
第一章 旅立ち
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特訓の詳細

 自分の気配を消す。これが出来るか出来ないかで今後の旅にかなり影響が出るだろう。心して習得に励まなければ。



「今より教える気配の消し方。端的に感覚を述べるなら、息を止める行為に近い」


「息止め、ですか」


「普段己の身から出るものを止める、そういう点も似ていると言えよう」



 そういう点、も。つまり息苦しさの方も似ているって事なのか。



「魔王の魔力の独立性。それを従えるでなく、無理矢理押し込める。そして少しの流出も許さぬ事で、気配を消す事が可能となるのだ」


「押し込める……そんな事が?」


「基礎技術の魔纏。その応用を用いる」



 魔纏……全身を覆う魔力の層。これを応用するとなると……



「魔纏を蓋にするんですか?」


「その通りだ。その勘の良さなら習得も早いだろう」



 やることは分かった。しかしやり方が分からない。魔纏をそういう風に応用するなんて考えがあまりなかったものだから、どうしてもイメージが湧きづらい。



「心情の読みやすい顔色だな少年。どうやるのか分からないと思っておるな?」


「え、ええ、そうです」


「少年は魔力を眼に見える形で纏った経験は?」


「えっと、あります。腕だけですが」



 毒の魔王との戦いの際に身に付けたファイアーガントレット。言った通り腕だけの物だったが、あれを全身でやるとなると骨が折れそうだ。



「ならば今それをやって見せよ」


「わかりました」



 指示通りに腕に火を纏わせる。あれから再挑戦していなかったので少し不安だったが、問題なく腕は燃え上がった。



「なるほど。ならばその燃え上がる火を極力抑え、固めて纏うイメージを練るがよい。腕だけでよいからな」


「固めて……やってみます」



 言われた通りに、魔力を固めて腕に纏ってみる。しかし俺の意思に反して腕は燃え上がっている。抑えようとすればその分燃え上がる。



「意識を向ければ向ける程、魔力は応えるものだ。此の身が言った事を意識せず出来るようになって初めて気配を消すことが可能となるのだ」


「……意識せず息を止める、ってことですか?」


「その通り。一聞で矛盾と分かる所業、それを行うのは至難と言えるな」


 

 それって滅茶苦茶に難しいのでは? 習得までたどり着くことが俺に出来るのだろうか?



「そう気負うな少年。一朝一夕で身に付く物ではない。長い旅の中で自ずと身に入る」


「そうなるように、頑張らないといけませんね」


「とは言え感覚を僅かでも掴むか否かで、習熟速度に雲泥の差が生まれる。ここで入りを掴むとよい」



 彼女はそう言って指を鳴らした。その音に合わせて二人、風の、いや、疾風の精霊が現れた。二人共に何やらポーズを取っている。



「これより、この者たちには魔力を感した際に軽く叩くように伝える。かなり鈍感になるよう言っておくが、それでも気を引き締めねば感づくぞ」


「かなり鈍感に……どのくらい?」


「湯浴みの際に背後に誰か居ても気付かぬ程度だ」



 純粋に状況が嫌。



「……二人って事は」


「そこの伴侶も同じように修練してもらうのでな、一人に一人だ」


「だから伴侶じゃないと言ったでしょう」



 いや、そうなんだけど。そうなんだけど、そんな語気を強めて言わなくっても、いいじゃん。



「そうかそうか、悪かった。では、早速取り掛かると良い。腕に気配を消すための魔纏をしてみよ。出来たと思えば告げよ、精霊達が判断を下すだろう」



 俺は早速腕に魔纏を張り巡らせた。先程よりも火は弱い。これはどうだろうか?



「出来たぁあ!?」



 出来たという短い言葉すら言い終える事も出来ずに、ペシンと平手が打ち下ろされた。疾風の魔王が言う設定がそのままの通りなら、ちょっとショックが隠せない。



「っ!」



 俺がショックを受けていると、横から同じようなペシンという音が聞こえる。見れば、不満そうな顔をしたリルが居た。



「……何」


「いえ、何も」



 うまく行かない事に彼女も不服なようで、鋭い目線が返ってくる。しかしリルですら上手く行かないなんて、もしかしなくてもこの技術、かなりの難易度だ。



「言ったではないか、一朝一夕で身につく技術ではないと」


「それはそうですけど……」


「その様子だと、気配を察知する心得は早くに会得したようだが、こちらはそうはいかぬだろうな」


「言われてみれば確かに、思いの外早く出来ましたね」


「大地の魔王の作り出した状況の緊迫感。それが良い引き金になったと見える。その状況を此方でも作りたかったが……」



 大地の魔王も緊張感のある方が良いと言っていた。その状況を作ろうとしてくれていたのに、わざわざ水を刺してしまったのか……



「……すみません、そこまで考えてくださっていたのに」


「ああ、よい。今のは責めるつもりの言葉ではない。気に病むな」



 ありがとうございます、そう言おうとしたのだが、疾風の魔王の目線は俺を見てはいなかった。遠くを、険しい表情で見据えている。一体何なのかを聞く事も出来ないくらいに集中した様子だ。ああ、すまぬな。なんてこちらに視線を戻したが、その表情に険しさは残ったままだ。



「どうしたんですか」


「よい。今は事に専念せよ」



 リルも彼女の様子に気がついてはいるが、続きに取り掛かっている。仕方ないがひっかかりを抱えたままに、俺も修行を再開した。

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