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魔王の魔引き、始めました  作者: 忠源 郎子
第一章 旅立ち
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見送った者、見失った者


「……彼が自分で死のうとしてる事を、知ってた?」


「知ってたで。なんならワテがその薬を飲ませた」


「なんで止めなかった」


「合理的に説明しよか、それとも感情的な説明の方がええか?」


「ふざけてんのか」


「いいや真面目や。至って真面目。どうあっても死ぬのは避けられんかった訳や」


「……なんで」


「毒の魔王なんていつでもその気になれば自分で死ねる、現に自分にも毒打ったの見たろ?そうさせない為には完全に何もかもの自由を奪う必要があるけど、そんな事するんか? 出来るんか?」



 淡々とではあるが納得させる力のある言葉に、俺は首を横に振るしかできない。



「それにな、あいつは仲間に繋げる為に死を選んだんや。次に繋げる死ってのは、正直ワテらも思うところあってな。そういうのはなるべく尊重してやりたいんや」


「……殺さないと、死なせないといけなかったのか」


「そうせんと駄目って話や無い。けど、命を取り合う間柄でイリサキクンの理想は厳しいで」


「甘い、考えって事、なのかな」


「甘いというか、本来持って入ってきていいもんやない。戦いの場にそんなものは持ち込んだらあかんのや」


「…………」


「でも、それでも持って行きたいんでしょ?」


 

 大地の声ではない、女の子の声。普段より弱々しいその声に驚いて振り返る。



「リル!? なにしてるの休んでなきゃ!」


「もう大丈夫、それよりイリサキ、お前の方の問題よ」


「俺の……」


「理想論だとしても、それを貫き通していきたいんでしょ」


「うん……俺は、そうしたい!」


「なら強くならないと。お前も、私も」


「リルの言う通りだ。もっと、もっと強くならないと」


「ええなぁ若いって」



 決意を固める俺達の横で、しみじみと大地の魔王は呟いた。



「そうだ。帰る前に、お願いがあるんです」


「なんや?」


「彼の墓を、作ってあげたいんです」


「ええで。おいアドス! そろそろ起きい!」



 彼の言葉で、なんとかアドスは体を起こした。少しばかり震えたように見えたのは、まだ雷の魔力が残っていたからだろうか。



「墓石は用意出来るけど、名前はどうするんや。毒の魔王とでも刻んとくか?」


「いえ、何も書かずにおいてください。彼の仲間達を連れてきて、刻ませます」


「お人好しなこっちゃ。分かったそうしといたる」



 こうして俺達は墓を一つ作り、毒の魔王を埋葬した。何も書かれていない墓石に手を合わせ、大地の魔王とアドスに別れを告げてから、帰路についた。








 リュウヤ達が毒の魔王を埋葬している頃、遠く離れた場所のとある場所。淡い光のみが刺す室内の中心、置かれた椅子に座す一人の男。水界の魔王は眼を瞑り、祈りを捧げている。そこへ一人の男が姿を見せた。



「……大将」


「……雷か。もう、分かっているな」


「ああ……毒の野郎、勝手に逝きやがった」


「単独の行動をさせるべきではなかった。やはり全員で赴くべきだった」


「もうちょっと……なんつうか、骨のあるやつだと思ったんだけどな」


「死を選ばずとも、捕虜となれば救助に出たものを」


 

 彼の座る椅子、力む彼の拳に肘掛けが悲鳴をあげ、破片と化す。



「……あいつなりに考えての行動だ。汲んでやろうぜ、大将」


 

 雷の魔王は非常に言葉を選んでいた。水界の魔王が怒りを見せる事など、彼の記憶にはない事だった。諌めることはあっても、そこに怒気を混ぜることはなかった。



「……仇を取る、か」


「……おお、おお! そうだぜ! そうしようぜ大将! 弔い合戦だ!」


「そうしたところで、ではあるがな」


「いいや、そうした方が浮かばれるぜ、あいつも」


「…………そうだな」


「おし、じゃあいついくよ」


「まずは休養を取れ。その後、風火の魔王の動向を探り、叩く。次に彼らがどこに向かうかを調べる必要があるが」


「ならオレが調べてくるぜ。念話繋いどいてくれ大将、分かったら知らせるからよ」


「今言ったように休養を取ってからだ。そして深追いを一人でするな、必ずだ」


「わーってるって大将。半日休んだらいってくらぁ」


 

 そう軽い返事を残し、雷の魔王は姿を消す。彼が去った後、水界の魔王は一人空を見上げる。



「当初の目的は潰えたか……」



 小さく呟く彼の元に、一人の少女がおずおずと足を踏み入れる。その正体は闇念の魔王。二人の会話が終わった頃合いを見て、姿を見せたのだった。



「あの、水界の魔王様」


「入るな」


「は、はい、申し訳ありません」


「半日後、雷と念話を繋げ。その後当方にもだ」


「わ、わかりました。……失礼します」



 彼女の持つ思念の魔力は、人との離れた通話を可能にする他に、ある程度相手の考えを読むことも出来る。だから彼女は早々に会話を切り上げた。水界の魔王の声が震えていた事、それが怒りによるものではない事。そうするには十分な理由だった。

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