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魔王の魔引き、始めました  作者: 忠源 郎子
第一章 旅立ち
57/98

注意点


「おっしゃ二人とも構えや」


 

 そう言ったクセして構える前に攻撃を仕掛けてくる魔王。伸ばした腕は2つに、その2つがまたそれぞれ2つに別れ、ついには数え切れない程の手数となり襲い来る。



「うおおおおお!?」


「くっ!」



 あまりの手数に必死に武器を振る。どうにか弾き続けていいるが、とても抜け出せるものではない。リルも弾いてはいるが押され気味だ。と、迫る一つが突如殺気を放つ。受けてはいけない攻撃の気配。しかし後退ばかりでは反撃の余地は無い。



「はぁああああ!」



 火の噴射で押し返し、そのままの勢いで他の無数の腕を焼き払う。リルは俺の妨げにならないよう下がってくれたようだ。



「あかん、焼けてまうわ、せっかくの美白がお釈迦になってまう」



 どう効いても余裕綽々のセリフを言いながら土の壁を展開する魔王。魔力の無駄使いを避ける為に放射を止めて様子を伺う。……しかしどこからも来る様子がない。こちらから行こうかと思ったその時。



「間一髪やったでぇ」



 回り込むでもなく、飛び込んでくるでもなく。壁からぬるりと通り抜けるかのように現れる魔王。思わぬ登場に一瞬体が硬直する。



「奇想天外だまし討ちなんて茶飯事や。あらゆる可能性を想定せんといかんで」



 僅かなスキを晒した俺に魔王の蹴りが飛ぶ。なんとか反応の間に合った盾がそれを防ぐが、体勢の立て直しを許さない猛攻が続く。



「忘れてない?」



 俺に集中した大地の魔王の背後をリルが突く。しかし大地の魔王の背後から突如としてもうひとり分の上半身が生え、リルフィリアの攻撃を受け止めた。



「忘れるわけ無いやろこんな別嬪さん」



 そのままよっこいせ、とでも聞こえそうな緩やかな動作で、もうひとりの大地の魔王が這い出した。そしてそのままリルフィリアへと攻撃を仕掛けていく。



「分身なんて基本やで、ニ対一なんてそんなん有利に入らんと思っとき」



 二人に同様の解説をしながら圧倒を続ける大地の魔王。やはり魔王としての桁の違いを思い知らされる。



「あと、最後の注意点や。魔王の魔力の発動には呪文がいらんのはもうよう分かっとるな?」


「わかってっ! ますっ!」


「せやけどな、中には呪文を唱えて魔法を発動してくる奴もおる。元々魔法が使えた奴とかがそういうのをしてくる事があるんや」


「それはっ意味がっ何かっ」


「あるんやで。唱えるスキがある分、強力なんが飛んでくる」


「そうなんですかっ!」


「あんな感じでな」


「えっ」



 突如攻撃が止み、大地の魔王が少し離れた場所を指差す。そこにはいつの間にかもうひとりの大地の魔王。手を合わせ何か念じているように見える。



「ほな、気張りや」



 一言だけ残し、二人の魔王が溶けるように消える。俺とリルは急いで大地の魔王に向かうが、もう間に合わない。



「そうやなぁ……。弱者の怨嗟、食らうは強者。連鎖の命、葬るは牙。人呼んで、大地の咆哮!」



 接近から切り替え迎撃の為に足を止めた俺達が見たのは、地面からせり上がってきた巨大なライオンの頭部。その大きさたるや、俺達はもちろんのこと、アドスすらも容易く飲み込んでしまいそうな程。その巨口から無数に除く牙の一本一本が、明確な死の気配を纏っている。



「……っ!」



 逃げよう、一瞬過るその考えを、両頬を叩き振り払う。剣に風の魔力を纏わせ、槍を作り出す。牙からは魔力を濃く感じるが、喉奥はそうは見えない。そこを突けば打破出来るかも知れない。



「……突っ切るの?」



 俺のやろうとする事を理解し尋ねるリルに、俺は頷き返した。



「なら、援護は任せて。ヴァダ・タルナード!」



 彼女が手を突き出せば、そこから水による竜巻が展開される。人一人を超える大きさの竜巻は一直線に獅子の口へと進み、その進行を止めてみせた。しかし打ち破るまでは行かず、拮抗した状態が生み出される。



「っ……早く。後は任せたわよ」


「ありがと!」



 竜巻の入り口へと飛び込み、そこから風の魔力で一気に駆け抜ける。槍を前に構え、渾身の力で握り締める。



「うぉおおおおお!」



 全力の風のブーストと水の螺旋の力を合わせ、全力で突き進む。すぐさま壁に突き当たるが、勢いを止める事なく力を振り絞る。



「おらぁあああああああ!」



 壁にヒビ。押している。その事実が更に力を籠めさせる。そしてついには、獅子の喉元を食い破った。



「おぉ~」



 咆哮をかき消し現れた俺に、称賛するかのように拍手を送ってくる大地の魔王。俺はそのままの勢いで魔王に突きを繰り出した。



「合格や」



 刃の切っ先を苦も無さ気に掴み止めた大地の魔王は、短く俺にそう告げた。



「……合格?」


「せや。あれの危険性を分析して真っ向から打ち破った時点でもう合格や。そんだけできれば当分は大丈夫やろ」


「今こんなにあっさり攻撃を止められたのにですか」


「止めなあかん攻撃ってこっちゃ。それに今回は魔力の気配、危機の察知の仕方が重点やからな」


「……」


「なっはっは! 不満そうやなイリサキクン。まあいつかはワテにも勝てるようにならんといけんけど、今はまだええ。そう焦ることないで」


「……わかりました」


「それに自分、さっきワテがやろうと思えば君ら瞬殺出来るとかゆうてたやろ」


「はい」


「それは間違いや。殺ろうとしたらだいぶ骨が折れると思うでぇ。世辞やなくてマジの話や。もうちょい自信もってええでイリサキクン」


「……ありがとうございます」



 励ましの言葉と共に俺の頭を撫でる大地の魔王。人の手じゃないのに、人のように暖かかった。



「イリサキ!」


「リュウヤ、ダイジョウブ!?」



 そうこうしている内に、離れた場所にいた二人が駆け寄ってくる。



「大丈夫。二人ともありがとね」


「ま、疲れたやろ。一先ずポーションでもあるなら飲んどき」


「そうします。はい、リルの分」


「ありがと」


「なにはともあれ、大地の魔王特別レッスン無事終了や」


「ありがとうございました」


「ありがとう。いい経験になったわ」


「自分ら伸びしろあるで。アドス共々精進しいや」


「アドスモ、ガンバル」


「そういえばあの呪文の詠唱の事なんですけど」


「ん?」


「あれは俺がやってもなるんですか?」


「んー、イリサキクンは元々魔法は使えんのやったっけ」


「そうです」


「なら難しいやろなぁ。まあワテもあれ適当に唱えただけで、ほんまはいらんのや。せやから詳しくはよう分からん。ひょっとしたら効果が出るかも知れんけど、あまり重くは考えん方がええで。一まずは相手の呪文にだけ気をつけとき」


「そうだったんですか。わかりました」


「ワテでも魔王の魔力は分からん事がまだまだある。ほんまよう分からん力やで」


「謎の多い力、なんですね」


「オレモ、ヨクワカッテナイ」


「私もよ。不思議な力ね」


「全くもって、その通りで御座いますね」


「ほな、今日のところは解散としよ゛っ」



 自然と、眼を見開いた。今目の前で話している大地の魔王、その頭部から、人間の手刀が突き出ている。刺された魚のように全身を痙攣させる大地の魔王。何が起きているのか理解が追いつかない。



「あ、あかん、気ぃ、抜いてもっ」



 大地の頭部を突き刺す手はそのまま上へと上がり、頭を2つに裂く。そして今度は手がそのまま下へと一直線に移動し、同じように大地の魔王の胴体をふたつに切り裂いた。



「ダ、ダイチ?」



 困惑の色をありありと纏ったアドスの言葉に、もう大地の魔王が返す事はない。2つに別れた体は力なく倒れ込み、泥のように溶けていく。そして地面には薄ら笑いを浮かべた白衣の男が一人。



「はじめましては言っておきましょう。私は毒の魔王。突然の事で心苦しいのですが、皆様方には死んでいただこうと思うのです」

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