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魔王の魔引き、始めました  作者: 忠源 郎子
第一章 旅立ち
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久々の謁見


 城下町まで戻ってきて一週間が経った。5日目からは体を鈍らせない為にリルフィリアと組手をしていた。これがまあびっくりするぐらい歯が立たない。水の魔王らしく流れるような戦い方に、翻弄されるばかりだった。でもそのおかげで体の動きは問題ないほどに回復した。そして今日は久々にバロフの城に入った。様子を見に来てくれたバロフにもう大丈夫だと告げた瞬間。



「よし、なら城で話をしよう」



 とインターバル無しで連れて来られたのが事の詳細だ。城には珍しくバロフとその仲間4人が勢揃いしていた。一応全員と面識は出来たが、未だにプリフィチカさんとシルベオラさんには身構えてしまう。プリフィチカさんは存在そのものが恐ろしく、シルベオラさんは笑みの中になにか含みがあるような気がしてならない。失礼な物言いとはわかってるけど、どうしてもそう思えてしまう。



「傷は癒えたか」



 いつの間にか椅子に深く座った状態のバロフが語りかける。



「おかげさまで。もう全快です」


「そうか。何よりだ。だが無茶はするなよ」


「はい。あと、オセロ。ありがとうございます」


「気にするな。他にも必要なら言うといい。あまり複雑なのは出来んがな」



 そう言いながら背もたれから背を離し、肘を腿に突き前のめりになるバロフ。



「さて、本題に入るぞ」


「西で何があったか、ですか?」


「それに関しては水の魔王から報告を受けてある。問題ない」



 報告してくれてたのか、後でお礼を言っておかないと。



「本題というのは二つ。一つはリュウヤの療養期間に、城下町への襲撃があった」


「えっ!?」


「その際に得た敵の魔王の情報を共有しておこうと思ってな」


「襲撃って……水界の?」


「そうだ。魔王ではなく、その手下達だったがな」


「……どうしたんですか、その敵は」


「殺した。で、敵の能力についてだが」


「殺した……んですか」


「ん、ああ。魔王じゃなかったからな。処遇を任せるのは魔王だけ、そういう話だった筈だ」


「それは……そうですけど!」


「基本、魔王同士の戦いは戦争だ。オレ達も例外じゃない。命を奪いに来たから奪った、当たり前の話だ」



 そう説明するバロフはとても淡々としていた。人間同士で命を奪い合うことが、生活の一部であるかのような物の言い方。初めて会った時とは違う、異質な恐怖感を覚えてしまっていた。しばらく麻痺していたが、彼は魔王で、異世界の存在で。本来なら価値観が全く違う人間。それを、思い出してしまった。


「で、話を戻すが。敵は魔王の魔力の一部を付与されていた。水界、雷、毒、闇。全員でこの4つ」



 頭のどこかで、彼らは違うと思っているフシが会ったのかもしれない。バロフが説明を始めたが、正直あまり頭に入らない。頭に空洞がぽっかりと空き、そこを言葉が通り抜けている、そんな感覚。



「まてまて。頭に入ってねぇよ」


「ん? どうした」


「バカロフ。人死にを沢山見た後でそんな事不用意に言えばそうなんだろ。デリカシーってのがねぇよなバロフは」


「え」



 なにやら話を遮ったモナムさんがこっちに来る。柔らかな表情で歩み寄った彼女は、優しい声色で語りかけてくる。



「色々見た後でオレ達も同じ事してるってなりゃ、そうなるわな」


「あ、いや、そういうわけじゃ」


「怖いか、オレ達」



 言葉に詰まる。普段の顔を知ったからこそ、その一面に対する恐怖が湧いてしまう。彼女の拳も血に染まることが何度もあったのだろうか。



「大事にしろよ、その感覚」



 無言は肯定の証。そうであることを彼女に感じ取らせてしまった。



「よし、もうちょい日を開けるか」



 振り向き、モナムさんがそうバロフに問いかける。再び深く腰掛けたバロフは小さく頷いた。



「いや、待って下さい。話を続けて下さい」



 その提案に乗りかけたが、自分に踏ん切りをつける。ここで日を開けたら、多分もっと溝が出来てしまう。そんな気がしてならない。



「……無理すんなよ」



 ふっ、と優しく微笑んだ彼女は、位置に戻っていった。



「よし、では早速話を続けるが、まずはオレからいこう。オレが戦ったのは雷だが、放電と雷を纏った打撃。基本これだな。リュウヤが対峙した際とあまり変わりはないだろう。速度に飲まれるなよ」


「なら、次は私。私の相手は闇の魔力持ちだったわ。目の前にいても見失うほどに気配を消す魔法だったわね。投擲物の気配も消せるみたいよ。不意打ちにはよくよく気をつけなさい」


「私は毒の魔力持ちと当たりました。基本飛沫には触れてはならない、これに尽きますね。魔纏をした盾などが有効でしょうか」


「オレは水界だったな。なんか、こう、鏡合わせな感じで瞬間移動する奴らだったぜ。消えたと思ったら後ろに気をつけろよ」



 それぞれの人がそれぞれの敵対した相手の特徴を教えてくれた。水界の魔王は確か、水界と雷と毒を使っていたけど、さらに闇の魔力もあるのか。



「今教えたのはあくまでも部下の使っていた力だ。魔王自身はもっと多彩な手を持っていると考えた方がいい」


「わかりました」


「で、本題の2つ目だが。火、風、土、水。四人の魔王の魔引き、見事成し遂げたな。よくやった」


「ありがとうございます」


「本来はこのまま、その上位に位置する四人の魔引きを頼みたい所だったが……水界の魔王の件がある。今後の活動方針はリュウヤに一任する」


「……しばらくはその、上位の魔王に挑んでいきます」


「理由を聞いておこう」


「水界の魔王の居場所がわからないので、情報収集も兼ねた行動をしようかと思って」


「いいだろう。ではその四人の魔王についてだが」



 その彼の言葉に被せるように、部屋の扉が勢いよく開け放たれた。そこには一人の男。逆光でよく見えないが、扉を蹴破ったのは姿勢でよくわかった。



「バァアアアロォオオオフゥウウ?」


 

 全員の視線が一斉にその男に差し向けられる。それでもなお、男は怯むことなく鋭い眼光を輝かせていた。

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