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魔王の魔引き、始めました  作者: 忠源 郎子
第一章 旅立ち
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魔王の巣窟


 しばらくして、俺達は村の人達の墓を作った。本当は一人ひとりの墓を作りたかったが、長居は危険とのリルフィリアの助言を踏まえて共同墓地とした。アドスの掘った穴に、村の人達を一人ひとり丁寧に弔っていく。埋めた上に全員の名前を刻んだ板を建て、祈りを捧げる。



「…………」



 何か弔いの言葉を言おうとしたが、何も出て来ない。自分が招いてしまった悲劇に、なんの言葉を掛けたら良いかなんてわからなかった。



「……イリサキ。帰りましょう」


「……うん」



 立ち上がり、返事をした瞬間、ふっと意識が切れた。完全な電池切れだ。最後に聞こえたのは慌てた様子のアドスの声と、リルフィリアの駆け寄る足音だった。







 ところ変わり、リュウヤ達の居場所から遠く離れた某所。淡い光のみが刺す室内の中心、置かれた椅子に座す一人の男。青い髪に中華を連想させる服装に身を包んだ、水界の魔王。眼を閉じ瞑想するかの如く沈黙を保っていた彼は、その眼を見開いた。



「お! 戻ったか大将!」



 暗がりの奥から姿を見せた一人の大男。逆立つ黄色の髪に、破けた加工の目立つ服。荒々しい雰囲気を放つ男は部屋に響き渡る声で水界の魔王の帰還を歓迎した。



「雷か」


「おうよ。んで、首尾は? サクッと手に入れて来たんだろ?」


「失敗した」


「あぁ?」


「失敗した。そう言ったのだ」


「はぁあ?」



 バチリ、と大男の周囲に稲妻が走った。表情から困惑と怒りが見て取れる。



「大将が失敗しただぁ?」


 

 彼の眼の色は怒り一色になり、ある一点に視線を向けた。行く先は水界の座した椅子の傍ら。楕円のような黒い塊が小さく蠢いている。それは耳を澄まさねば聞こえぬ程のか細い声で、うめき声を出していた。



「てめぇが手ぇ抜いたんだろこのグズがぁ!」



 閃光の如き素早さで男はそれを蹴り飛ばす。黒い塊は空箱のように容易く壁に打ち付けられた。



「うっぁ!」



 ろくな受け身も取ることなく壁、そして地面へとぶつかる。蹴り飛ばされたのは一人の少女だった。黒い髪を無造作に伸ばした彼女は、痛みをどうにか和らげようと蹲ったまま動かない。先程よりもうめき声が小さくなった。



「およしなさい雷殿。そんなのでも使い所はまだまだ沢山あるんですよ」



 いつの間に居たのか、水界の横に立つ男が諌める。紫のウェーブのかかった髪に、薄汚れた白衣を着た男。薄ら笑いに蛇の如き眼つきが印象を深める。



「わかってらぁ。だから手加減してんだろうが」


「我々と違い闇念殿は戦闘能力がないのですから。雷殿の手加減も致命傷になり得るのですよ?」


「うるせぇな毒野郎。指図が出来る程偉くなったのか? あぁ?」


「やめよ」



 まさしく鶴の一声。水界の一言は一触即発の雰囲気を消し去った。



「三人の魔王に阻まれた。強化の魔力は先に奪われていた」


「三人? 俺ら以外に固まって動いている奴らが居んのか」


「土、水、そして風火。この風火が強化の魔力を持っている」


「そんな魔力の奴らが大将を倒したってのかよ」


「今回生成した魔人形は良く見積もったとしても、御大将の10分の1にも満たない出力。水界の魔力の真価に耐えうる性能はありません。加えて遠隔操作で生じる遅延。そんな状態で三人の魔王を相手取った事は、流石と言うべきでございましょう」


「くだらん慰めは無用だ。これほどの乱入を想定していなかった当方の落ち度。それ以外にない」


「失礼をば。出過ぎだ発言、お許しください」


「うし、なら俺が今からそいつら殺してくるぜ。待ってな」


「待て」



 雷を纏い走り出そうとする男は、首根っこを掴まれたように立ち止まった。



「なんだよ大将」


「お前の足でも今からでは間に合わん。移動はもう済ませたと見るべきだ」


「じゃあどうすんだよ」


「あの近辺で拠点とするなら場所は限られる、そこを突けばいい」


「あの周辺……なるほど、城下町バロフですか。しかしそこを拠点にしているとなると、その魔王達はバロフの手下である可能性が高いですね」


「おぉ! 遂にバロフに喧嘩を売るのか!」


「先に風火の魔王だ。出来るならば、風火は生け捕りが望ましい」


「ん? なんでだ?」


「風火の魔王は泰平の世を築くべく活動している。当方と思想は同じだ。是非とも迎え入れたい」


「ほーぅ、大将がそこまで入れ込むたぁな」


「加えて二つの魔力を有している点も合わせると、なかなかの手練であると言えるでしょう。油断は禁物というわけですか」


「その通りだ。心してかかれ」


「かしこまりました。して、城下町バロフの襲撃は私と雷殿。どちらが努めましょうか」


「その任、是非とも我らにお任せを!」



 暗がりより5人の男女が姿を見せ、片膝をつく。背丈、髪色、纏う雰囲気。どれもバラバラの集団ではあったが、水界の魔王へと向ける忠誠に満ちた視線だけは一様であった。



「……五の従者か」


「我々でその風火の魔王、必ずや討ち取ってご覧に入れましょう!」


「あぁ……まぁ良いんじゃねぇか? たまにはこいつらに活躍させてやっても」


「良いだろう。ただし、命じるのは風火の魔王の確認、可能ならば生け捕りだ。違えるな」


「承知しました」


「闇念の魔王が回復し次第、思念連結を行い四方から襲撃せよ。撤退の判断は早急に下し、命を落とす事なく帰還を行え」


「仰せのままに!」


「闇念殿の準備が整いましたら声を掛けます。それまでは研鑽を積んでおいてください」


「はっ!」



 命令に揃えた返事を返し、五の従者は闇の中へと消えていった。



「あいつら……生きて帰ると思うか?」


「十中八九死ぬでしょう。所詮は魔力に適合があるだけの核を持たない者たちです。多少の情報でも得られれば御の字といったところですね」


「……やはり行かせぬ方がいいか」


「いえいえ、ここで少しでも約に立つ事ができれば彼らも本望というもの。バロフ達の情報を少しでも掴ませ、泰平の世の礎になって頂きましょう」


「おっし、なら俺は稽古でもつけてやるか。一秒でも長く生きてもらわねぇとな」


「私めは闇念殿で実験、いや治療しておきましょう。思念の精度を上げて貰わねばいけませんからね」



 雷の魔王は勢いよくその場から消え去り、毒の魔王は少女を引きずりながら暗闇へと消えてく。後に残った水界の魔王は一人天井を見上げ、静かなため息を吐いた。

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