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魔王の魔引き、始めました  作者: 忠源 郎子
第一章 旅立ち
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男の名は


「アドス! 来てくれたんだ! いやでも、なんでここが?」


「ウデワデ、ワカッタ」



 腕輪。思い出し、自分の左腕を見る。これが知らない間に居場所を伝えていてくれたのか。



「イリサキ……その……誰?」



 いきなりやって来た巨人と親し気に話す俺に、おずおずとリルフィリアが尋ねる。そういえば前の時は彼女は気絶していたんだっけ。



「紹介するよ、土の魔王のアドス。友達だ」


「ヨロシク!」


「……随分頼りがいのあるお友達ね」



 気付けば雷は降りやんでいる。アドスも来てくれた、流れは今俺達にある!



響鳴・蚊雷(きょうめい・ぶんらい)



 瞬間、けたたましい轟音が鳴り響く。しかもただ鳴っているだけじゃない、耳の直ぐそばでなるような、直接頭を揺さぶる轟音。思わず耳を塞ぐが、それでも鳴りやまない。そんな隙だらけの状態になった俺達を、男が見逃すはずもなかった。



飛毒・混命(ひどく・こんめい)



 紫の雫が俺達に向けて飛来する。それが分かったのは、雫が避けられない位置に来てからだった。さっきの銀色ではなく見るからに害のある色。



「アブナイ!」



 咄嗟に視界が覆われた。アドスが俺達の前に左腕を振り下ろし、雫を全て受け止めてくれた。だが、それは全ての毒をアドスが引き受けてしまったと言うこと。



「ア、アドス! 大丈夫!?」



 彼の左腕からわずかに煙が上がっているのがわかる。アドスは土で出来ているが、それすらも溶かしてしまうなんて。その恐ろしさに冷や汗をかく暇もなく、男は距離を詰めてくる。



「フゥン!」



 だがアドスは怯む事なく、そのまま左腕で男を打ち抜いた。予想外だったのか、敵は両腕を前にしてその直撃をしのいだ。最初の事を思えば避けていただろう攻撃。やはりダメージは蓄積している。



「……触れれば動く事など叶わぬ毒だが」


「ドク、クスリ。ドチラモ、ダイチノイチブ。アドスニハ、キカナイ!」



 まさかの毒の魔力の天敵。これほど頼もしい事はない。



「ヴァダ・クリェートカ」



 俺が感心していると、リルフィリアが魔法を唱える。それは瞬時にして男を水の檻へと閉じ込めた。円形をしたその檻は、蟻一匹逃さぬ堅牢な牢獄として佇んでいる。



「アドス君、頼んだわ」


「マカセ、ロ!」



 渾身の力を込めた右拳。水の檻より更に大きな拳が容赦なく襲いかかる。そして檻ごと拳が叩き潰した。……かに思えたが、現実は、アドスの右腕が粉々に砕け散る無残な光景が繰り広げられた。



「オオオオオオオ!?」



 攻撃がまるでそのまま跳ね返ったかのような現象に、アドスが悲鳴のような雄叫びを挙げている。気づけば水の檻が消え、男は変わらぬ表情でそこにいた。



「土の魔力に魅力はないが、先に潰しておく方が懸命か」



 男がアドスに向けて走り出す。アドスはまだ腕が再生出来す、体制を崩したままだ。俺が、俺が行かなければ!



「やらせるかぁ!」



 風を纏いトップスピードで駆け、剣を男の首目掛けて振りかぶる。



鏡面・御霊(きょうめん・みたま)



 俺の剣の軌道に合わせ、男が右手を構える。そこにはさっき俺とリルフィリアの魔法を跳ね返したかのような、薄い水の膜。なんとなくだが、これに攻撃を当てるのは危険。俺の第六感がそう警鐘を鳴らしている。



「うぉおおおお!」



 攻撃が当たる直前、剣に纏わせた風を全力で吹かせ、軌道を反対に向け、そしてまた更に反対に吹かせる。風の噴射を利用し無理矢理な剣閃を生み出す。



「Zソードォ!」



 攻撃の道筋になぞらえた技名を叫びながら、男の腹部を切り裂く。しかし、浅い。既の所で後ろに下がられた。なんて反射神経だ! 



「見事な太刀筋だ」



 褒めた言葉とは裏腹に、その右腕に雷の魔力が溜まっているのがわかる。そのまま穿くという意思が嫌でもわかる、そんなのはゴメンだ。防ぐべく俺は両腕を突き出す。無理に動かした反動でこんな動きしか出来ないが、それで十分。



穿孔・急雷(せんこう・きゅうらい)


「エアー……」



 魔力を集中させ、イメージを練る。描くのは、切り取り、ゆっくりと押し出すような感覚。



「エンチャント!」



 俺の使った魔法、腕からは何も出ては来ない。男は違和感からか一瞬手を止めた。そしてその意図に気づいたのかすぐさま背後を見る。だが彼が後ろを見た時は、もうリルフィリアの槍に貫かれた後だった。背後からの、風の魔力で速力を上げた彼女の一撃。男の腹から薄い紫の液体が流れ出る。顔色こそ変わらないが、口からも同じように液体を流している。やがて男の体は、端からドロドロと溶けるように崩れ始めた。



「……相打ち狙いか?」


「いや、さっき剣を無茶な振り方したせいで、ろくな攻撃も防御も出来なくなってた。彼女を強化した方が確実だと思っただけだ」


「そうか。大した判断力だ」


「それはどうも。……どうやってるかは知らないけど、お前はここには居ないんだろ?」


「その通りだ」


「名前を教えろ。次にお前自身と会った時、必ず仇を討つ」


「水界の魔王。それが当方の名だ」


「水界……」


「風火の魔王、その魔力は預けておく。次相対した時、その力確実に貰い受ける」



 そう言い残し、水界の魔王は雪が溶けるように消え去った。勝つには勝ったが、それだけだ。やり切れない思いだけが、強く俺の胸にこびり付いていた。

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