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魔王の魔引き、始めました  作者: 忠源 郎子
第一章 旅立ち
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目的


「殺して奪う? やってみろよ!」


 

 啖呵を切りながら俺は風の刃を吹き付ける。勢いよく二つの刃が敵に向かったが、左手の振り払いでかき消されてしまった。



「なら、これは!」



 魔力を練り、螺旋状の風を生み出し、そして押し出した。自分でも感じる程の暴風を撒き散らしながら、風のドリルは進んでいく。



「援護するわ。ヴァダ・ヴィエ!」



 俺の魔法に合わせるように、リルフィリアは水の魔力を撃ち出した。すると螺旋は水の刃を取り込み、そのまま刃を振り回しながら突進を続行する。離れた今の位置からでも十分に命中が見込める速さ。当たればただでは済まない。のに、男はその場から一歩も動こうとはしない。その代わりなのか、両手に魔力を溜めているのが分かった。



鏡面・八咫(きょうめん・やた)



 そう呟いた男は両手を合わせ、そして離した。するとその手の間に水の膜が現れる。手を広げた大きさだけ広がる膜は、まるで鏡のように光を反射している。そんな薄い水で防ぐつもりなのか? その疑問に対する答えはすぐに目撃することになる。


 水膜に触れた俺達の合体魔法は、水の中にスルスルと入っていったかと思うと、勢い変わらず俺達の方に飛び出してきた。



「なっ!?」



 反射させられた!? この離れた位置でも十分に当たってしまう速度、それこそ当たればタダでは済まない。想像になかった対処の仕方、俺達は急いでその場から離れた。しかしお互いが別の方向に飛んだその瞬間を、男は見逃さなかった。



手毒・銀杯(しゅどく・ぎんはい)



 いつの間にか距離を詰めた男は、右の手刀を俺に向けて繰り出した。その攻撃に反応出来ていた俺は咄嗟に盾を構えるが、どうも相手の攻撃の軌道がおかしい。そのまま振っても俺には届かない距離だ。なんのつもりなのかと一瞬考えた俺を他所に、男は手を振りぬく。すると銀色の液体が俺に飛散してきた。盾の範囲を超えて広がるそれを空いた右手で防ぐ。しかしそれは罠、間違った対処だった。



「な、んだ!?」



 突然襲い来る右手の痺れ。どうやら左足にもかかっていたようで、そこも同じく痺れを感じる。特段痛みはない、例えるなら正座の後のような痺れだ。しかしその痺れはその部位だけに収まらず、次第に広がっている。どうやらどちらも、頭部を目指して広がっているように感じる。これが頭部に達するのは不味い、根拠はないがそういう確信が持てる異常事態。でも、どうすれば……。



「っ、もしかしたら!」



 この痺れが魔力によるものなのは間違いないだろう、そして今俺は魔纏で全身を覆っている。とすると、この魔纏を伝って痺れが回っているんじゃないか? なら魔纏を解けば、この痺れも解くことが出来るんじゃないか!? その結論を編み出した俺はすぐさまに魔纏を解いた。すると痺れは跡形もなく消え去った。読み通りの結果だ!



「イリサキ!!」



 リルフィリアの声を聞いた時には遅かった。敵の眼前で魔纏を解けば恰好の餌食。



襲脚・界雷しゅうきゃく・かいらい



 声を上げる暇も無かった。光の如き蹴りが、強烈な威力をもって突き立てられた。魔纏もなしに直撃した結果、遥か後方にまで俺の体は宙を舞い続けた。



「ぐっ、ああっ、がっ」



 幾度となく地面に叩き付けられ、痛みで碌な受け身も取れず、棄てられたボロ雑巾のように横たわる。地面が雪で覆われていたこと、加えて駄目元で構えていた盾がどうにか機能したお陰で、俺の胴体は二つに分かれずに済んでいる。だが盾はもう完全に砕けてしまった。しかも体に強い痺れが残っているせいで余計に動けない。さっきのとは違う、体に電気を通されたような痺れだ。いくら動けと言っても、体は応えてくれない。



「銀杯が魔纏を伝う性質を見抜き解除した判断、褒め置こう。その後の瞬時の盾による対応も良い物だった。伊達に火と風、二つの魔力を有している訳ではないのはよく分かる」



 いつの間にか、俺の横に男は立っていた。追撃を加えるでもなく、ただ立って俺に話しかけてくる。



「惜しい。殺してしまうには惜しい。風火の魔王よ、当方の輩となれ。世界を築く、その道程を共に歩め」


「世界を……築く?」


「戦乱の世を終わらせる。新しい世界を、泰平の世を築く」


「泰平の世……時代劇……みたいな……セリフ、だな……」


「お前の目的はなんだ、魔力を集め、なんとする」


「……戦いだらけの世界を、終わらせる」


「ならば当方と風火の魔王、志は一つだ。来い」



 横たわる俺の体の痺れが消える。男は俺に手を差し伸べている。俺は……その手を取り、立ち上がった。



「……お前が平和な世の中を作るって言うなら、俺はそれに賛成だ。協力だってする」


「ならば歓迎しよう」


「でもな、俺は、無実の人達にこんなことをするような、そんなやり方には反対だ! 誰かを犠牲にして作るような平和なんかクソ食らえだ!」



 至近距離、火を纏わせた渾身の拳を男の顔面に叩きつける。痛みが体中に響くが、そんなことなど気にもならない。吹き飛ばされたのと同じくらい吹き飛ばすつもりで、拳を撃ち出した。



「……そうか。残念だ、風火の魔王よ」



 しかしその全力も、男は片手でいとも容易く止めてしまった。



「お前の力はしかと受け継ごう。泰平の礎となる、その道程を浄土より見届けよ」


 

 拳を止められ、それを掴まれ、抜け出せない。男の空いた左手には、細く鋭利な棘が、水によって象られている。それがいよいよ俺に突き立てられようとしたその瞬間、男の視線が後ろに移った。



「はぁあああああ!」



 槍を構えたリルフィリアが猛然と迫っている。胴を刺し貫く勢いで突き出された切っ先。俺の手を離し回避に移った男の顔に、一瞬の困惑が見えた。



「……ふむ」



 完全に避けるかと思ったが、槍は男の脇腹を引き裂くことに成功した。男の体から薄い紫の液体が漏れる。血、じゃないのか? そんな俺の疑問を他所に、男は瞬きの間に距離を取った。



「……三秒の遅延か。まあいい、こちらで調整する」



 手を握ったり開いたりして、男は意味深な事を呟く。だが距離を取ってくれたのは好都合だ。ポーションを飲み、体に鞭を打つ。



「しかし存外に魔力を消費したようだ。次で幕を引く」


 

 男は静かに両手を合わせ、呼吸を整える。魔力が際限なく高まっていくのが見て分かる。



雷乃発声かみなりすなわちこえをはっす



 瞬間、轟音が鳴り響く。何事かと辺りを見回す前に、轟音の主が俺達の横に着弾した。



「か、雷!?」


 

 それは一発に収まらず、次々と辺りに降り注ぐ。決して俺達を狙っている訳ではないようだが、いつ当たってもおかしくはない。



「っな、ぐぁあっ!?」



 落雷に気を取られている隙に、男が目にも止まらぬ速度で接近、掌底を打ち出してきた。反応できず直撃を貰う。だがそこまで大きなダメージではない、反撃を!



「うわぁあああ!?」



 そう思った矢先に落雷の直撃。抜かりなく離れていた男は、そのままリルフィリアに向かう。



「くっ、ぐぅっ!」



 迎撃の槍を突き出すも、容易くかわされてしまい、蹴りを受けてしまうリルフィリア。そのまま大きく吹き飛ばされてしまった先には、図ったかのように落雷。



「きゃあああああああっ!」


「リ、リルフィリアァ!」



 魔力を振り絞り、風の速度を以て助けに向かう。だが、男はそれを許しはしなかった。眼にも止まらぬ速度で回り込むと、掌底と蹴りを連続して浴びせてくる。意識が彼女に向かっていた俺は、それに対応する事が出来なかった。



「がはぁっ!?」


「もういい。抗うな。せめてもの手向けだ、悦楽を伴う毒で、息を引くがいい」



 地に成す術無く伏せる俺に、男は慈悲を与えるかのように歩み寄る。そして拳を振り下ろそうとしたその時、辺りが急に暗くなった。まるで夜になったかのように、急に影が降りたのだ。不審に思った男が上を向くと、そこには巨大な巨大な拳が迫っていた。男は構えた拳でそれを受け止める。まるで地震が起きたかのような衝撃に、男の足元は耐え切れず陥没する。彼自身も脇の傷口から、血のような物を勢いよく噴き出している。



「……何者だ?」



 巨大な拳を弾き、男は距離を取る。拳の主はゆっくりと立ち上がり、こう答えた。



「オレ、アドス。リュウヤ、タスケニ、キタ!」

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