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魔王の魔引き、始めました  作者: 忠源 郎子
第一章 旅立ち
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首謀者


「……!? イリサキ!」


「ぇ、うわっ!?」



 呼びかけに対する返事よりも、リルフィリアが俺を引っ張る方が速かった。何事かと聞こうとするも、彼女はただ一点に視線を送っている。同じようにその方向を見ると、知らない男性がそこにいた。



「…………」



 深い青の長髪に細身の体躯。同じく濃い青を基調にしたその服装、所々に龍をあしらった金の刺繍、どことなく男性用のチャイナ服を連想させる。姿嫋やかに佇むその姿はまるで穏やかな水面のようであり、今の惨状の中で恐ろしく浮いていた。



「……誰、ですか?」



 もしや村の生存者か? 俺達が会ってないだけで、その可能性は十分にありえる。リルフィリアは警戒した様子で相手を見てはいるが、当の男は変わらず虚空を見ているような状態だ。瞬きの一つもせずに立ち尽くすだけ。しかし村の惨状を目の当たりにしてしまったらそうなるのも無理はない。勿論、相手が生存者であればの話になるが。



「……ん」



 パチパチと、男は瞬きをした。まるで眠りから覚めたかのような、拍子抜けな雰囲気を覚えてしまう。大丈夫かと近寄ろうとした時、相手は言葉を発した。



「先刻よりも30秒、思念接続に遅れが生じた。懲罰を心しておけ」



 ……? なんだ? 何を言っているんだ? 視線も俺達を見ていない、発言も明らかにこちらに向けられたものではない。得体が知れないその男、しばらくしてようやく俺達に気がついたようで、ゆっくりと視線を向けてきた。



「……お前達、村の人間ではないな。まあ良い、強化の魔王を知らないか」



 その発言の瞬間、俺達は武器を構える。村の人ではない、リマトさんをそんな呼び方する奴は、この村には居なかった。



「なぜ武器を構える。尋ねただけだ」


「不審者を警戒するのは当然だろ」


「そう警戒するな。お前達に危害を加えるつもりはない」



 彼は自身が言う通り、攻撃の意思を見せていない。ただこちらを穏やかに見ているだけだ。こいつが村の人たちを殺したのか、まだ判断しかねるのが現状だった。


 その時、彼の背後から一つの影が躍り出た。ここまで来る途中に見た、あの熊だ。大口を開けたまま男を一飲みにしようと飛びかかる構えだ。



「あ、危ない!」



 思わずそう声を掛けたが、助けに行くのは間に合わない距離。凄惨な結末になってしまうかと思ったが、男は実に落ち着いた様子で人差し指を背後に向ける。



「白泡」



 彼が何かを呟いたかと思うと、指先から一滴、紫の液体が発射された。雫はそのまま熊の口の中に入っていく。その瞬間熊は動きを止め、徐々に後退を始める。



「ガァアアアアァアアァ!?」



 最初は叫ぶだけの熊だったが、徐々に悲鳴のような鳴き声をあげ、もがき苦しみ始める。そして遂には泡を吹きながら倒れ、動かなくなってしまった。


 次の瞬間、俺は無意識のうちに男に斬りかかっていた。



「てめぇえええええええ!」



 風で瞬時に最高速に達し、火を纏わせた剣を首を狙って振り掛かる。しかし、その剣はいとも容易く止められてしまった。それも、人差し指と親指でつまむようにして。



「なっ!?」


「危害は加えんと、言った筈だが」



 男は空いた右手に魔力を込める。そしてリルフィリアのように水を手に纏ったかと思うと、それは竜巻のように渦を描き始めた。まるでドリルのようなその攻撃、すぐさま来てくれていたリルフィリアが弾かなければ、避ける暇なく直撃していたところだった。



「やああああ!」



 そのまま転じて攻撃に移るが、男はつまんでいた俺の剣を投げるように離し、彼女の攻撃を相殺してのけた。攻めきれない、不本意ながらそれが分かり、俺達は一度距離を取る。



「何故来る、風火の魔王に水の魔王よ。貴様らの魔力に特段用はない。去れば今のは不問にする」


「なんで殺した!」


「そんなにあの熊が大事だったか」


「この村の人達をだよ!」


「? 何をそんなに憤る事がある。お前達はこの村の人間ではないのだろう?」


「聞いてんのは俺だ!」


「……強化の魔王、その魔力を手に入れる為だ」


「だったら、リマトさんを狙えばいいだろ! 村の人達は関係無いだろうが!」


「ある。強化の魔王を堕王にする為にな」


「な、なんでそんな事を!?」


「堕王に変化したての者は、基本的には魔力が増大するが、技術面に大きく支障をきたす。繊細な技術を持つ者が、その技術を捨てた攻撃しか出来なくなる。強化の魔力は少々特殊だ、当の本人に大きく影響を及ぼすようなものではない、どれだけ魔力を増大させたところで恩恵は少ない。今の強化の魔王はその欠点を東国の武術で補っていたようだが、堕王にしてしまえば問題はない」


「……お前そんな理由で、罪のない人を殺したのか」


「再度聞くが、何をそんなに憤る必要がある」


「お前のような卑怯者に、怒らない理由がないだろうが!」


「卑怯者か。その言葉の方が余程に卑怯だがな」


「なっ!?」


「持てる力、策をすべて用いて生き残る。全力を持ってこの乱世を生き残るのは当然の理だ。それを卑怯の言葉で制限しようとする。それこそ卑怯と言わずに何と言うのか」


「……今ので分かった、話し合いは無理なんだなお前とは!」


「当方も理解した。この村の人間とお前達は多少なりの繋がりがあったようだ。となれば、お前達が強化の魔力を継承したと見るべきだ。前言を撤回する、お前達を殺し、強化の魔力を奪わせて貰おう」



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