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魔王の魔引き、始めました  作者: 忠源 郎子
第一章 旅立ち
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協力の仰ぎ方

 氷の彫刻からそのまま戻りおおよそ半日。正直迷うかと思ったが、リルフィリアの案内ですんなりと村に辿り着くことが出来た。姉の場所が分かるから、それを起点として覚えていた、という要領らしい。


 村に着くと皆がそれぞれ移転の荷支度を行っていた。ゲルタもおおよそ半分程になっている。



「お! リュウヤ! 帰ったか!」


「戻りましたよマバラさん」


「おかえりなさいリュウヤ君」


「ありがとうございますサルドさん」


「あー! ソフィアねーちゃんおかえりー!」


「リューヤにーちゃんもー」


「ただいま。良い子にしてた?」


「「してたー!」」



 俺達の顔を見るなり笑顔を弾ませてくれる人々。良い人達だ。しかし一日も経ってないのに、リルフィリアの偽名の事を忘れていた。子供たちの呼ぶ声がなければ危なかった。



「戻ったかイリサキ君」



 一つのゲルタから、リマトさんが姿を見せてくれた。



「はいリマトさん。……あの、お邪魔でしたか?」


「そんな事はない。明日荷造りの予定だったが、雪が思いのほか治まったから早めただけだ。気にすることはない。遠慮なく今日は泊まっていくといい」


「そうだったんですね、ありがとうございます。それとリマトさん、一つお願いがあるんですが……」


「聞こうか。立ち話で済む要件ではなさそうだな、あちらで話そう」



 リルフィリアと共に、案内されるままに一つのゲルタに入っていく。中はもう片付けが済んでいて、荷物が綺麗に整えられている。あとはテントを畳むだけと言った雰囲気だ。



「それで、頼みというのは」


「まず、私の目的を話すわ」



 水の魔王であるリルフィリアがそう口を開く。そこからの彼女の話す目的は、俺の知った通りの内容だった。そして、助ける為にリマトさんの力が必要かもしれないという事も包み隠さず話していた。



「姉を助ける為に……なるほど。確かに私の力を使えば、イリサキ君の火の魔力を付与する事もできる。付与する魔力の持ち主には直接触っている必要があるが、今回の場合はそれがイリサキ君だ。付与される側には触れている必要はない。実行には問題はないだろう」


「それじゃあ!」


「だがすまない。行くことはできない」


「え……」


「付与をして、それで事態が解決するとは限らない。氷の魔力は、恐らく水の魔力の上位に位置する。水と同等である火では、付与したところで打ち勝つのは難しい」


「そんな……」


「何度か外から試して、それで瞬時に修復された、完全に打ち負けている証拠だ。弱った体ではなお、解決は難しいとみるべきだ」


「火じゃ、ダメなのか……」


「そしてなにより、ここを私が長時間開けるわけにはいかない。片道で半日の距離、君はそれだけと思うかも知れないが、この世界は油断ならない世界だ。何が起こるか分からない。家族を守る為にも、ここを開ける事は出来ないんだ。すまない」


「いえ、そんな……リマトさんが謝ることなんてないですよ」



 口ではそういうものの、内心はまさか、という感情で埋まっていた。心のどこかでリマトさんなら快く引き受けてくれるだろうという、そんな甘い考えがあった。最初に出た、え、という一文字がその証拠だ。それに対して、リルフィリアの表情はそこまで驚きの色が見えない。この回答が分かっていたかのようだ。



「一先ず今日は泊まっていくといい。今は休ん「なに水臭いこといってんすかリマトさん!」



 入口から。リマトさんの言葉に割って入ったのは、マバラさんだ。その表情は自信に満ちた顔。その横にいるのはサルドさん。やれやれと言った表情でこちらを見ている。



「リマトさん、一日の留守すら、私達には守れないと思っているんですか?」


「その通りだぜ! ちったぁ頼ってくれよ!」


「いや、しかし……」


「近くに魔王の気配があるんですか?」


「そういう訳ではない。だが何が起こるか……」


「この辺りで警戒するべきは熊とオオカミくらいのもの。その程度なら私達だけでも十分対処出来ますよ」


「……だが」


「「リマトにーちゃーん!」」



 年少組の二人が、入口の二人の間を縫って勢いよくかけ込んで来る。そしてそのままリマトさんに飛びついた。



「お前たち、どうした、なにかあったか?」


「ソフィアねーちゃんのおねーちゃんたすけてあげてよー!」


「お前たちも聞いていたのか……」


「かぞくのために、がんばってるんだよ? たすけてあげてよ!」


「…………」



 暫く困惑と苦悩の入り混じった顔をしていたリマトさんだったが、最後に大きなため息を吐き、サルドとマバラさんの方を向く。



「……明日、半日。朝に出て昼には戻る。それまで留守を頼むぞ。サルド、マバ

ラ」


「応よ!」


「任せてください!」


「まったく……お前たちも、今回は許すが、盗み聞きはよくない事だ。覚えておきなさい」


「「はーい!」」


「リマトさん……ありがとうございます」


「ありがとう、無理を聞いてくれて」


「いいんだ。私も君達の力にはなりたいと考えていた。……私は極力、他人に責任を押し付けたくはなかった。すべて責任は、私が負うべきだと考えていた。だが、私が思う以上に、お前たちにはもっと頼るべきなのかも知れないな」



 微笑みかけるリマトさんに、二人は照れくさそうに笑っている。自分達に良い方に進んだことよりも、みんなが協力してくれた事実の方が、嬉しかった。



「さて、今も話した通り、明日の朝に出る。私の強化で全力で走り続け、昼には戻る予定でいく。氷の姉はこの村までは私が担ぐが、それ以降は任せる。いいな?」


「はい。お願いします!」


「では私達は荷造りを再開しよう。君達はゆっくりしていてくれ」


「俺も手伝います」


「客人に手伝わせる訳にはいかない、気を遣うことは無い」


「いえ、協力して貰うんですし、泊めて貰う恩も返したいです」


「そうか、助かる。ではサルドやマバラ達に指示を聞いてくれ」


「おし、やるかリュウヤ!」


「はい!」


「私も手伝うわ」


「じゃあねーちゃんはこっち!」


「がんばるよー!」


「ええ。頑張りましょう」



 そこからは暗くなるまで、引っ越しの手伝いをした。意外にも役に立ったのは、行きがけにバストルから貰ったフライパンだ。雪に囲われたこの地域なら飲み水が作り放題、この村で少なくなっていた飲み水を作るのに重宝した。リルフィリアの作る水はどうかと尋ねたが、魔王の魔力で作られたものは毒になってしまうらしい。俺がやったように氷を火で溶かすような間接的なものなら大丈夫だそうだ。



「助かったわリュウヤ君。これで当分お水に困らないわ」


「偶然役立てる物を持っててよかったです」



 夜の席、昨日と同じように夕食を振る舞ってもらった。今日は肉の串焼きだ。野菜で包んでじっくり火を通し、うま味を閉じ込める調理方。これも熊の肉とのことだが、昨日とはまた違う味わいだ。



「ごめんなさいね、簡単なものしか出せないで」


「いえいえそんな、十分すぎる程です」


「明日出発ですから、なるべく食器や器具を使わない方法を取っているんですよ」


「ナターシャさんが本気で飯作ったらマジでうまいぜ? 当然今もうまいけどな」


「前に話したかも知れないが、私達は南に向かう。君達も南に向かう事があれば会うだろう。その時は存分に料理を振るまおう」


「リマトが作るんじゃなくて、私が作るのよ? なに自分がやるみたいな言い方してるの」


「あ、いや、すまん」


「リマトさん料理だけはダメだからなぁ」


「……面目ない」



 言葉の弾みだったんだろうが、そこを家族に突っ込まれたじろぐリマトさん。意外な一面を見る事が出来たのはちょっと嬉しい。無骨な第一印象が強いが、この二日でもわかるくらいに優しく、人間味に溢れた彼。慕われるのもよく分かる。


 その夜は子供たち三人とリルフィリアと一緒に眠りについた。少ないゲルタを快く使わせてくれたお陰で、よく休むことが出来た。もっと言えば、少ない故に子供たちと一緒に寝る事になり、冷静さを保つ事が出来たと言うべきか。昼間にあんな体験をしてしまった後に二人で寝床を共にするとなったら、十分に寝られなかったかも知れない。何というか、自分でも単純な奴だとは思うが、男の性だ、しょうがない。そんな誰に聞かせるわけでもない言い訳が、意識が落ちるまで頭の隅に残り続けていた。


 そして翌朝。子供たちを起こさないように支度をし、外にでる。既にリマトさんは準備万端の様相だ。



「朝食は渡しておくが、今はまだ食べない方がいい。今から走り続けるのに、物を入れておくと妨げになるからな」


「わかりました」



 気付けば、マバラさんとサルドさんが見送りに来てくれている。



「みなさん、お気をつけて」


「留守は安心して任せてくれよリマトさん!」


「ああ。行ってくる」



 信頼の笑みを持って、リマトさんは出発する。俺とリルフィリアも、二人に手を振り出発した。

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