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魔王の魔引き、始めました  作者: 忠源 郎子
第一章 旅立ち
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渡り鳥の村


 どれだけ歩いただろうか。雪も吹雪となって暫くたった頃、ちいさな建物がなんとか見えた。



「着いたぞ。私達の村だ」



 村。とは言っても、さっき見えた建物が十個程建っているだけの、仮居住区といった印象だ。建物をしっかりと見てみると円形のテントのような形、寒さ対策として藁の様なものを沢山巻き付けてある。藁を除けば、どこかで見た事があるような外観だ。



「……ゲル? だったかな?」



 既視感の答えはすぐに思い出せた。モンゴルの遊牧民が使う移動する住居、ゲル。異世界でもこういったものは存在するのか。



「知っているのかイリサキ君」


「はい、俺の世界にもあったんです。実物は初めて見ましたが」


「こちらの世界ではダルタと言う。という事は私達が移民というのも説明は不要か」


「やっぱりそうなんですか。という事は、バロフの街に?」


「いや、違う。ここから更に南の地に、安息の森があるとの情報があった。そこは守護者に守られ、魔王達の戦いとは無縁の楽園があるという。私達はそこを目指している」


「安息の森……」



 これは初耳だった。そんな場所があるなんて思いもしなかったが、本当にそんな場所があるんだろうか。



「リマトにいちゃーん!」



 安息の森について聞こうと思ったら、住居から子供が何人か飛び出してきた。小学生の低学年から高学年くらいの、まだまだ幼い子達が三人。



「帰ったぞ。トバル、ニーシャ、レタラ」



 膝を地に付き、子供たちの高さに合わせるリマトさん。その表情はとても朗らかだ。



「トバルねトバルね! にいちゃんたちがいないあいだみはってたんだぜ! わるものがこないように! すごいだろ!」


「おお、頼もしいなトバル。お前に留守を任せて正解だった」


「ニーシャはね、ごはんのおてつだいしてたの!」


「そうか。夕食が楽しみだな」


「こら二人とも! リマト兄さんは疲れてるんだから、休ませてあげなさい!」


「いいんだレタラ。お前も二人の世話に疲れただろう。礼を言う」


「お礼なんて……兄さんの苦労に比べたら」



 柔らかい表情のまま子供たちと会話を弾ませるリマトさん。短い会話でもどれだけ彼が慕われているかがよく分かる。



「あの子たちはリマトさんの兄弟なんですか?」


「血は繋がってねぇけどな。みんな孤児だ、それをこの村で拾い育ててる。俺もサルドも、他のみんなも似たようなもんだ」


「この村の人はみんな、家名はレイオナックです。みんなが家族として、助け合っているんです」



 義理の家族、だけど血の繋がりに負けない硬い絆がある。彼らの朗らかな笑顔を見ればよく分かる。



「このひとたちだれー?」


「わるものー?」


 

 彼らの絆を感じていたら、子供たちの視線がこちらに向いた。



「紹介しよう。今晩泊まることになった二人の友人だ」


「圦埼柳埜です、よろしくね」


「ソフィア=アヴェリアよ」



 水の魔王が名乗った瞬間、思わず彼女の顔を見てしまった。マバラさんも同じように驚いた顔だ。少し苛立ちを混ぜた顔で、偽名よ馬鹿、と小声で返って来る。そうか、魔王なんて名乗れば子供たちを怖がらせてしまうのは確実だ、それを避けるための偽名。リマトさんの言った通り、彼女はこの世界の生き方を十分に身に付けている。



「なあリュウヤ」


「なんですか?」


「ここでは偽名なのに俺らには偽名使わないのってなんでだ?」


「……なんででしょうね」


「俺らには偽名を語る価値もな「やめましょう、それ以上は悲しくなる」


「……おう」



 依然として冷たい視線を向ける彼女に悲しみながら男二人で慰め合う。そんな中、子供たちの後に続いて女性が一人姿を見せた。



「おかえりリマト。大丈夫だった……って、その子達は?」


「急で悪いが、今日泊める事になった友人達だ」


「あらお客さんだなんて珍しい。ナターシャよ、よろしくね」


「圦埼柳埜です、よろしくお願いします」


「ソフィア=アヴェリア。お世話になるわ」



 若い見た目だが落ち着いた雰囲気の女性。リマトさんより少し年下程の年齢だろうか。アンさんよりは上に見える。ナターシャさんが近くに来ると、子供たちは一斉にナターシャさんに駆け寄った。その気を許した行動を見るに、彼女が母親代わりのようだ。



「加えて頼みなんだが、彼らの夕食を用意できるか?」


「大丈夫よ」


「え、そこまでお世話になる訳には……」


「遠慮しないでイリサキ君。二人分増えたところで問題ないわ」


「じゃあ、お言葉に甘えます」


「ふふ、それでいいのよ」


「夕食まで時間がある、少し話でもしようかイリサキ君」


「はい」


「えー!」



 魔王の魔力についての話をしようと提案したリマトさんに、子供たちからのブーイングが飛んで行く。



「にーちゃんあそんでよー」「やくそくだったじゃんー」「こら、二人とも!」


「リマトに迷惑かけないの。わがまま言う子はおやつ抜きよ」


「そんなー!」「やだー!」



 子供たちのわがままも尤もな言い分だった。あれだけ慕われているリマトさんを、いきなり来たよく知らない奴に取られては面白くもないだろう。後にしましょうと言おうとしたその時、水の魔王が子供たちの元に歩み寄っていった。何をするのかと思ったが、彼女はそのまま近寄り、しゃがんで子供たちの目線に合わせて口を開く。



「代わりになるかわからないけど、私と一緒に遊びましょ」


「いいのー?」「あそぶー!」「え、でも……」


「遠慮はいらないわ。さ、行きましょ」


「やったー!」「おままごとがいいー!」「じゃ、じゃあ私も……」



 はしゃぐ子供たちに微笑みかけながら、水の魔王、もといソフィアは子供たちとダルタの中に入っていく。……正直意外だ。彼女がああも進んで子供たちの世話を受けてくれるなんて。



「意外だな、子供には甘いってか」


「失礼ですよマバラ。まあ、私も意外には思いましたけど」


「ここは彼女の厚意に素直に感謝しよう。行こうかイリサキ君」


「はい」


「俺ら村のみんなをみてきまっす」


「夕食出来たら呼ぶからね」


「頼んだ」



 じゃ、あとでな。そう気さくに手を振るマバラさんに手を振り替えし、俺はリマトさんについて行く。そのままひとつのダルタの中に案内された。中にはいると意外な程に暖かさを感じる。藁の他にも何か細工があるのだろうか。



「一先ず腰を下ろそうか」



 そういって彼は一つクッションを出してくれた。元の世界の座布団が脳裏を過る。床には藁が敷いてある、雪で濡れた様子はない。貰ったクッションを置き、その上に座った。少し硬いが、直に藁に座るよりはるかに心地いい。



「さて、魔王の魔力に関してだが。知りたいのは譲渡の件でよかったか?」


「はい、お願いします」


「基本、魔王の魔力は譲渡出来ない。だが相手に適正があれば出来る」


「適正ありなら、可能」


「ただしその魔力に完全な適正があるのが条件だ」


「完全な適正?」


「火の魔力、水の魔力、風の魔力。魔王の魔力の適正とは別に、それぞれ完全な適正者がいる」


「ひとつひとつに個別の適正があるんですか」


「そういうことだ。だが、完全な適正がなくとも魔力を手に入れることは出来る」


「その方法は?」


「相手を殺す事だ。殺せば問答無用で手に入る」



 相手を殺す事で力を手に入れる事が出来る。この特性が、この世界を魔王達の戦国時代に仕立てている要因の一つとみて間違いない。



「……あの、俺は」


「分かっている、君が殺しなどしていないのは分かる。先程話してくれた、ルベルシフとかいうバロフの魔法のお陰だろう」


「そうです」


「これでも人を見る目はあるつもりだ。君は殺しをしてないのは信用できる。ちなみに譲渡だが、少量かつ一時的なものならどの適正者でも出来る。慣れていないと眩暈は起きるがな」


「じゃあ、俺の火の魔力を一時的にリマトさんや水の、ソフィアが使えたりするって事ですか?」


「そういう事だ。そして恐らく私の魔力だけが、非適正者にも譲渡が出来る。とは言っても、魔纏を出来るようにするだけだが」


「なるほど……」



 色々とルールというか、特性というか。魔王の魔力とはかなり特殊なものだと再認識する。



「せっかくだ、少し私の魔力を味わってみるか」



 そう言って彼は俺に手のひらを突き出してきた。そして何かを念じるように力を込める。瞬間、俺の中に力が湧いて来た。自分でも感じたことのない程の魔力が渦巻いている。しかも俺自身のだ。なるほど、これが強化の魔力。



「感じたか」


「それはもう、自分の実力以上の力を今感じてます」


「これを君も、適合者が相手なら出来る。試しに私で練習するといい」


「試しに? えっと……」


「力を切り取り、ゆっくりと、押し出すような感覚だ」



 言われた通りにやってみる。が、全然渡せた感覚がない。変わらず俺の中にある感覚が拭えない。



「これは慣れだ。繰り返しやってみるといい」



 様は練習あるのみ。ひたすら念じて念じて念じまくる。モナムさん達との修行を思い出しながら、頭の中にイメージを築き上げる。全然進歩が見えないが、何か、何かを掴めそうな感覚が……



「ごはんよー!」



 何かを得る事が出来そうだったが、ナターシャさんの声で我に返る。夢中になり過ぎて、時間が過ぎていくことを気に留めていなかった。



「先に夕飯にしよう」


「そうですね、ご馳走になります」

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