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魔王の魔引き、始めました  作者: 忠源 郎子
第一章 旅立ち
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邂逅



 先に広場で待つ事数分間。しかし感覚的には何時間も経ってしまったように思える数分間だった。何かを決意したような彼の表情。なんだか死を覚悟したようにも思えるあの表情。もう死ぬような真似はしたくないと言ってくれたバストルを疑う訳ではないが、やはり心配だ。


 

「っと……この移動は慣れがいるな」


「バストル!」



 少しよろけながら、バストルは姿を現した。彼が完全に出たと同時に、ワープホールは姿を消す。



「大丈夫か!? フラフラしてないか?」


「大丈夫だ。この転移に慣れていないのと……まあ、緊張の糸が解けたのもあるな」



 そういう彼は笑ってはいるが、どこか無理をした笑い方に見えてしまう。俺がいなくなった後、一体何をしていたんだろうか。



「何をしていたか、聞きたそうな顔だなリュウヤ」


「え、あぁ、そんなに顔に出てた?」


「ハハ、心配するな。元魔王の私が本当にこのままリュウヤに協力していいのか、確認を取っていただけだ」



 なんてことはない、とでも言いたげに話す彼の手は震えている。心配を掛けまいとしている彼の心遣い、ここはありがたく貰っておくべきだろう。



「……わかった。じゃあちょっと休憩してから始めようか」


「いや、もう始めよう。早いほうがなにかといいだろう」


「そういうなら、やろうか」



 彼の了解を得て、両手の平を向け強く念じる。彼から魔法を吸い上げるように……



「ルベル「ぁすまんちょっと待てリュウヤ!」


「しぇ?」



 唱える途中で止められたもんだから、なんとも間抜けな声が出た。恥ずかしい。



「え? どうした、やっぱりやめとく?」


「いや、確認なんだが、今リュウヤは何の魔力を持っている?」


「火の魔力、だけだけど」


「他はないのか」


「ない、もしかしてなにか問題があった?」


「……あるにはある」



 神妙な顔をしている。言い方は弱々しいが、深刻度はかなり大きいようだ。



「過去に何人か、魔王の魔力を複数取り込もうとして失敗した奴がいた」


「……失敗って、どうなるの」


「全身が破裂するか、溶けるか、裂けるか。私が知っている失敗例はこのくらいだ」


「…………」



 失敗すなわち死、そう取るしかないらしい。



「それは……なんで失敗したのかは、分かる?」


「素質がなかったからだ。複数魔王の魔力を持てるような素質が。……複数取り込むのは、これが初めてということだろう?」


「そうだね、バストルの魔力で二つ目だ」


「複数持つ素質、失礼な言い方になるがリュウヤは持っているのか?」



 素質が無ければ死ぬ。そう考えると多少なり恐怖は込み上げてくる。でも、多少だ。足を止める程の恐怖は感じない。



「生憎だが私はそう言うのが分からない。だがバロフならきっと分かる。今からでも念のために確認しておくべきだ」


「大丈夫、俺は素質があるからこの世界に呼んだんだって、バロフが言ってた」



 両手の平をバストルに向け、強く念じる。



「それに魔引きをやっていくと決めたんだ、素質が無くたって抑え込んでみせるよ」



 魔力を吸い上げ、自分の物にするように……



「ルベルシフ!」



 バストルから腕を通して、風の魔力が染み込んで来る。荒々しくも心地よい、なんとも奇妙な感覚だ。台風のようでもあるし薫風のようでもある。様々な風が一度に全身を包み込んだように錯覚してしまう。



「これが風のま"っ!?」


「リュウヤ!?」



 突然腹をぶん殴られたような痛みが襲った。それも外からじゃない、内からだ。鈍く強烈な痛みに、意思に反して体が蹲る。魔纏でなんとかしようにも、その魔力自体が言う事を聞かない。魔力同士の拒否反応とでも言うのだろうか。体の内側で抗議するように猛り狂うそれらを、制御する術がなんなのか分からない。



「くそっ……元は同じ持ち主だったんだろ……仲良くしろっ!」



 今度は逆に自分が腹を殴りつけた。両手を組んで思い切り。ドボッと自分でも引いてしまうくらいの音が嫌でも耳を揺さぶる。こんな奇行とも言える対処でも多少なり効果はあったのか、徐々に魔力達の勢いが弱まっていくのが分かる。それと同じように自分の意識も薄くなりつつあるのが分かる……思った以上に……良いのが入ったらしい……バストルが俺を呼ぶ声も…………だんだん遠く………………



「……っは!?」



 勢いよく体を起こし、辺りを見る。心配そうに俺を見るバストルと、やっと起きたかと言いたげなバロフがいる。そこで漸く、自分は気絶していたのだと理解した。



「おはよう。よく寝たか」


「……どのくらい気を失ってましたか」


「もう夕日が落ちかけている。ざっと半日と言ったところか」


「そんなに……自分で自分殴ってそれとか、笑えますね」


「それも多少はあるが、原因は火と風の魔力だ」


「……それは、その、素質が無かったってことですか?」


「ないならすぐさま死んでいる。今回のは単純にお前の力量不足だ」


「俺の、力不足、ですか」


「そうだな。魔力操作の力量が十分なら、すんなりと体に馴染んだ筈だ」



 そうか……結構力を付けた気になっていたけど、まだまだ力不足なんだな。そりゃそうか。



「まあ、それでも半日で大人しくなったんだ。一年経っていないのを考えれば、及第点をやってもいい」


「…………そうですか」



 なんて言うか、自分であんなカッコつけた事言っといてこの様なんて、しまらないなと思ってしまう。もっと力を付けないとこの先立ち行かなくなってしまいそうだ。



「そんなことより風の……バストルに感謝しておけ。お前が倒れた時血相を変えてオレを呼びに来たんだからな」


「あ……ごめん、バストル。心配かけたね」


「いい。私は当然の事をしたまでだ」


「まあ色々聞きたい事もあるだろうが無理は禁物だ。取り込んだ際のひと悶着で体も魔力も弱まっている。今日は英気を養い、明日からまた励むといい」



 そう言ってバロフは指を鳴らす。瞬きする暇もなく景色が一変し、気付いた時には宿の前。彼の言うように、風の魔力の特訓は明日からにしておこう。



「大丈夫かリュウヤ。歩けるか」


「大丈夫、ありがと」



 少し全身の埃を払い、店のドアに手をかけようとすると、触れるより速くドアが開いた。



「ぉっと、すいません」



 誰かが出て来た。アンさんではない、全身をフード付きのマントで覆った人物だ。衣服の線から女性である事が伺えた。その人の邪魔にならないように道を開ける。フードの女性は俺を見て、軽い会釈をして去っていった。



「あら、二人ともお帰り。ご飯出来てるわよ」


「ただいまアンさん。今のは?」


「お客さんなんだけど、昼に泊まっていったの。その後晩御飯を食べて出発していったんだけど……女の子一人で夜を歩くのは危ないって言っても聞かなくって」


「まあ制止を振り切る程の急ぎの用事か、腕に自信があるかだ。我々がとやかく気にする事でもないさ」


「…………」


「リュウヤ?」


「ああごめん、いま入るよ」



 自分で聞いておきながら、その実耳にはほとんど入ってはいない。フードから覗く顔に、少しだけ姿を見せた彼女の頭髪。妖精かと思う程に可愛いくも美しい顔立ちに、穢れ無い湖を思わせる澄んだ蒼の髪色。その全てが、俺の眼に焼き付いて離れなかった。

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