少年の決意
翌朝。早々に朝食を済ませた俺はバロフの城に向かっていた。食欲は回復し、存分にエネルギーを吸収した体に力が籠る。やる気に似て非なる感情が自分の中に沸き上がっていた。あんな優しい人達がなぜそんな目に合わなければならないのかと考えると、この感情がふつふつと湧き出てくる。
一刻も早くバロフにこの決意を伝えなければ。そう考えると体は自然と駆け足になっていた。町を抜け出した頃、あの瞬間移動する感覚が全身を包む。見渡せばそこはバロフの城内。正面にはいつものように城の主が鎮座していた。
「おはよう。意思は固まったようだな」
「だから来た」
「聞かせてもらおうか」
バロフの放つ威圧感の中に、こちらを品定めするような視線が混じっているのが分かる。だが知ったことではない、自分の意志を伝えるだけだ。
「俺は最初、この世界をのどかだと思った。だけどそれはこの町の人々が優しいからそう感じただけで、本当は過酷な世界だと知った。魔王達の争いで、あんな優しい人達が苦しむのは間違っている。俺はこの世界を変えたい。理不尽な悲劇を、この世界から無くしたい!」
意図せず声が荒げる。未だ得体の知れないバロフに対して、後で思えば軽率な態度に思える。だがこの時はそんな配慮は頭の片隅にすらなかった。
「……分かった。魔引きの役目を背負う意思があると判断する。励むといい」
俺の言葉にバロフはそう答える。困惑の色の表情が、わずかに伺えた。
「だがそれを決意したところで、お前は弱い。それは自分がよく知っているだろう」
確かに彼の言う通りだ。決意を固めたはいいが、魔王達に勝つ算段はなにも立っていない。
「そこで、お前は今一度魔力の使い方を学んで貰おうか」
「使い方……先日あなたとやったあれですか?」
「アレは一般的な魔力の使い方だ。お前がこれから学ぶのは魔王の魔力の使い方だ」
「魔王の……魔力」
盲点だった。一般的な魔力と魔王の魔力は、使い方が違うのか。それを身に付ければ風の魔王に対抗できるという事……なのか?
「今回の教育係は外で待っている。さあ行け」
「ちょっ、待っ」
まだ聞きたい事があると言うのにバロフは聞く耳を持たない。俺の心の準備が整わない内に城から飛ばされてしまった。
「彼が戦いを選ぶ事、見通していたのですか?」
柳埜を送り出したバロフの傍ら、一人の女性が口を開く。
「そう見えたかシルベオラ」
「昔のようにシーラとは呼んで下さらないんですか? 二人だけですのに」
「……からかうなシーラ。まあ、ある程度は見通していた。予想通りの展開だ」
「ある程度、というのは」
「適合した者としてある程度見定めはしたが、あいつは赤の他人の為に命を投げる事が出来る奴だ」
「それが原因でこの世界に来たのですから」
「その行動は正義感故の行動だと考えた。だからこの魔引きも正義感で受けると思っていたが……」
「あれは正義感と言うよりは、怒りでしたね」
「会った事すらない赤の他人の為に怒る。価値観がここまで違うとは、正直想定外だった」
「ですが自分の意志で役目を引き受けたのは事実。予定通りだと前向きに捉えましょう」
「予定通りを通り越して、時期尚早やも知れん。だがいい機会だ。怒りを乗り越えられるか、見定めるとしよう」




