悪魔とフリーター(の)ハンター
俺の名前は氷室修三。二十歳のフリーター男だ。
俺は今までの人生の中で一番劇的な場面に遭遇している。
俺は今、悪魔の契約者になった。
俺だって好きでこんな状況にいるわけじゃない。ただ偶然立ち寄った古本屋で買った本を開いたら、強制的に今目の前で笑ってる悪魔と契約させられたんだ。本を開くと自動で契約する術をかけていたらしい。
この契約で俺はこいつが力を取り戻すことを手伝う代わりに毎月仕事の結果に応じて金塊が与えられることになった。
ただし、この契約を無理やり放棄しようとすると担保として俺の魂を持っていかれるらしい。ふざけんな! どんなブラック企業だ!
「これこれ、そんなに不満気な顔をするでないわ小僧。お前が願ったんじゃろうが、『仕事が欲しい』とな」
「何も願ってないわ! ただそうなれたらいいなって日ごろから思ってただけだ!」
「まあ、潔く諦めて前向きに事をとらえることじゃな」
しっしっしと笑うこの猫が憎らしい。見た目がかわいい分中身がこれだとギャップでなおさらムカツク。
「騙して契約させた我が言うのもなんじゃが、安心しろ、我は一度交わした契約は必ず守る。悪魔誇の誇りにかけてな」
「信用できるか! というかさっき言ってた仕事ってなんだよ仕事って。説明しろ!」
「分かったからそう騒ぐでない。……お前の仕事は我の力を取り戻す手伝い、具体的にはこの世界の闇に潜んでいる怪異、平たく言うと悪霊やら妖怪といったもの共を狩ってもらう」
「……なんでそんなやつらを俺が狩らなきゃならないんだよ」
猫悪魔は少し考えた後、顔を上げて言う。
「我は悪魔の王だった……。同族である悪魔に封印される前はな」
「お前が悪魔の王!? 猫のくせに?」
どっからどうみても猫だ。辛うじて頭に乗っかってる錆びた王冠が王様っぽいことは分かるが。
「再び我が王となるために力が必要であり、力を取り戻すには怪異どもを狩ってエネルギーを取り込むことが効率が良いのが理由だ。分かったか?」
「だとしても、俺は別に強くないぞ? 運動部だったわけでもないし、特別頭がいいわけでもない。……それでもいいのか?」
「構わん、どんな人間であろうが我が知をもってすれば怪異を狩ることなぞ造作もない」
猫悪魔は自信満々にそう言った。その言葉は見た目が猫で強さなど感じない姿であるのに不思議と胸にすとんときた。
「……見た目猫のくせになんか言ってることが壮大だな。しょうがねえ。……分かったよ逃げたら魂をもっていかれるんだろ?」
「そうじゃ、意外と物分かりがよいではないか。素直な人間は好きだぞ」
「けど、その前にまだお互いに名を知らないだろ」
「名じゃと? …………おっと、そうだったな。ここまで話して、まだ互いに名を名乗っていなかったな」
悪魔はその手を俺に差し出してきた。俺は差し出してきた手を握り言う。
「俺の名前は氷室修三。ただのフリーターだ」
「我の名はバアル。知を司る悪魔であり、元悪魔の王だ」
ここに一人と一魔の契約が正式に結ばれた。