95話 祈る
プアは死亡したソラの座る椅子に近づき、ただれて判別の付かないその顔を覗き込んだ。
チャギムは満足げな表情でプアの反応を待っている。
「おい、チャギム」
プアはゆっくりと振り返るとチャギムの胸倉を掴み持ち上げた。
「え?え?」
チャギムは褒められると思っていたのか予想外のプアの反応に戸惑っている。
「本当にどうしようもない野郎だなテメーは。こんな簡単に殺しやがって。もっと深く調べる事が出来たはずだ。ちゃんと拷問できないなら殺すって言ったよな?」
プアの不気味な仮面の無数の瞳がチャギムを睨みつけた。
「そ、それはその…!気持ちが昂まっちまってつい…!」
プアはチャギムの額に思い切り頭突きする。
「ぐえっ!」
チャギムはそのまま床に落ち、噴き出す額の血を押さえ苦悶した。
「フン、まあいい。おい神父!さっさと祈りを捧げてシモンに報告しろ!」
プアは床に落ちたソラの指を拾うと暫くじっとそれを見つめていた。
「は、はい。さあマリアン、ルーン。彼の為に祈りを捧げましょう」
気分を悪くしたマリアンは辛そうに立ち上がるとキンブリーの後に続き、ソラの傍まで歩み寄った。
「俺はオメガさんに処刑完了の報告をする。後の処理は頼んだぞ」
プアは衛兵の1人にそう言うと、さっさと処刑室を出て行ってしまった。
「ああ、我らが父なる神ファランよ!この哀れなる青年の暗き魂に安らぎを与えたまえ!神の息吹を与えたまえ!」
キンブリー達はソラの前で膝をつき、胸に手を当て祈り続けた。
「ファランよ…!どうか彼に慈悲を…!」
マリアンとルーンは涙を流し、ソラに祈りを捧げている。
その様子にチャギムは額を手で押さえながら、フンと鼻で笑った。
しかし暫く続く祈りを、多くの衛兵たちは邪魔する事無く黙って見守っていた。
余りの凄惨な処刑に衛兵たちも感情を揺さぶられていたのである。
「ああ、全能なる神ファランよ!彼に慈悲を!彼に安らぎを!そして彼に…」
キンブリーは少し間を置く。
「奇跡を!」
3人の祈りは終わりを迎えた。
キンブリーは衛兵に目配せし頷くと
「さあ、帰りましょう…」
と、マリアンとルーンに声をかけた。
衛兵たちがソラの死体を撤去しに集まる。
肩を落とすマリアンをキンブリーとルーンが優しく励まし、トボトボと3人は処刑室の出口へ歩いていった。
唐突に。
前触れも無くそれは起きた。
突然ソラの胸元が青く輝く。
目が眩みそうな眩さに、皆目を開けていられない。
暫くすると光は収まる。
皆何が起きたのかと、ソラの方を見た。
と、ソラのすぐそばに微笑みを湛えた表情の、凛とした美しい女性が立っている。
「皆さま初めまして。私の名はエリザベス、創造主ソラ様の知能の結晶でございます」




