9話
「親父さん、この荷車。何の仕事してるんだい?」
「ああ、野菜だよ野菜。育てた野菜を、隣の村に持ってって、それと交換した帰りなんだよ」
と荷車の端を顔で指した。
「これ、干し肉じゃん!」
「そうさ、都会じゃ店で買うんだろうが、ワシら田舎の人間はこうやってぶつぶつ交換して暮らしてるってわけさ。たまにおまけでホレ…」
と親父は自分の懐をちらりと見せた。
小さなビンがある。
「あー。酒かあ!」
「そうよ!酒をおまけで貰ったからよ、呑まなきゃ失礼ってもんさ。ハハハ!」
愉快に笑うと親父はチビリと小さなビンの酒を、大事そうに呑むのであった。
「そりゃ、良かったなあ。じゃあ豊作ってやつなのかい?」
気楽に質問したつもりが、急に親父の顔が曇った。
「豊作は変わらねえんだけどよ…。ちょっと厄介な事が起きててよ」
「ほう?」
俺は顎に手を当て、体の痛みも忘れ親父の言葉を待った。
「ワシの会心の野菜がよお、最近やたらと荒らされちまってよ…。冗談じゃねえよ全く…!」
「野生の動物に荒らされてるって事だな?」
うーん、と親父は唸ると
「わからん。動物のような違うような…。まっ!いいや!今は久々の酒呑んでんだ!つまんねえ事話すのはよそうぜ!」
そう言うと、親父は笑って鼻歌を唄うのであった。
夕焼け頃。
「あ!あれ村!?」
俺は興奮を隠さず指さした。
「おうよ!あれがワシの故郷よ!」
夕日は村を紅く照らし出していた。
まばらに立つ茶色い木の家々。
お世辞にも美しいとは言えないその造りが、村の貧困を物語っていた。
「あんちゃん、怪我が治るまでワシの家でゆっくりしていきなよ」
正直、村に着いた後の計画など全く立てていなかった俺にとってその言葉は涙が出るほど嬉しかった。
「でも、悪いよ。この傷が治るのってかなり時間がかかるし…」
「気にすんなって!1人増えたって変わりゃしねえよ!それにその傷放っておけねえしなぁハハハ!」
心優しい親父さんの気持ちは充分伝わった。
「わかった!ありがとう!お言葉に甘えさせてもらうよ!」
こうして俺は、異世界の親父さんの家に泊めてもらう事になったのである。