8話
「いてて…」
何かにぶつけたのか膝を擦りむいていた。
いや、全身が痛い。
「どこだ?ここは」
ふと見上げると数十メートルの高さの崖がせり立っていた。
「俺、ここから落ちたの?よく生きてたな俺…」
我ながら呆れて大きなため息をついた。
「てか…」
ハナビいねえ…。
「ハナビー!」
辺りを見渡すと、ここはどうやら森である。そして崖に沿って舗装されていないガタガタの道が続いていた。
ハナビとはぐれた、やばいぞこれは…。
全身が痛く歩くことが困難な為、その場にしゃがみ込んで回復を待った。
すると遠くから馬に曳かせた荷車がゆっくりとこちらに近づいてきた。
「おやおや?あんちゃんエライ傷だな~。それ、死ぬレベルの傷だがや」
荷車を曳く男は、真っ赤な顔で愉快に笑った。
このおっさん昼間っから酒呑んでんな。
「すまないが、街まで乗せてってもらえないかい?歩けないんだ」
「街い~?あんちゃんこの辺の人じゃねーだろ?この辺に街なんて高級なもんはねえ。あるのは村だ村。村でよけりゃ乗っけてってやるよ」
「助かるよ。この辺は初めてでどこに何があるかわかんないんだ」
「あんちゃんどっから来たんだ?変な服着てるなぁ、わっはは!」
この世界じゃジーンズとTシャツは目立つのか…。この世界の服に着替えたいが…、とにかく何をどうすりゃいいのかわかんねえ。ハナビどこ行ったんだっ!
「まあ、あんちゃん乗りなよ。荷台は揺れるけど我慢してくれよ」
こうして俺は、初めて出会ったこの世界の住人に助けてもらい、村へ向かった。
「親父さん、これくらいの背丈のカワイイ女の子見なかった?」
荷車に揺られながら、俺は尋ねた。
「あんちゃん、連れがいたのかい?あいにくそんなカワイイ子は見なかったなあ。3メートルクラスの人食い熊なら見たがの。ひょっとしたらその女の子今頃…」
と、悪い冗談を言うと男はまた楽しそうに笑った。
わ、笑えねぇ…。ハナビ…無事でいてくれっ!
道中、愉快な親父からこの辺りの事を色々教えてもらった。
この辺はラストニア王国という国の外れも外れ、王国の威光が、ほぼ届かない辺境の地だそうだ。
「あんちゃん、何にも知らねえんだなあ。異国の人間かい?ワシも物知らずで母ちゃんにいっつも怒られっけど、あんちゃんにはかなわねえや」
気のいい親父は、特に俺を怪しむでもなく、楽し気に笑っていた。