7話 ポミュイとググ爺
「んあ?何だ何だ?何か変な気配がするよ?」
男の子は不可解な気配を感じた。
黒いウサギの着ぐるみを纏い、顔だけが丸い枠の中にひょっこりと出ている。
愛らしい顔立ちではあるが、瞳の奥は氷のように冷たい。
着ぐるみは細かな装飾がほどこされた大きなベッドの上でじたばたと腹を立てていた。
「僕の領地に勝手に入って来た奴がいるんだけど!ググ爺!ググ爺!」
すると黄金で飾られた荘厳なアーチ状の扉が開き、2メートルを超す大男が現れた。
大男は執事の身なりをしていた。
頭は禿げ、しわくちゃの顔に長く白い髭をたくわえているが、老人とは思えない筋骨隆々さで、数々の修羅場をくぐり抜けてきたであろう鋭い眼光をしていた。
「坊ちゃま、どうされましたか?」
しゃがれた声で大男は尋ねた。
「ググ爺~、何かね、僕のね、領地のね、中にね、何かね、来たの」
ググ爺と呼ばれる大男は、着ぐるみの男の子の前でひざまづき
「おいたわしや、ポミュイ様。しかしながらこのググにお任せ下されば、即座にその憂いを取り除いて差し上げましょうぞ」
と、ポミュイと呼ばれる男の子を諭した。
「うんうん、これだから僕はググ爺が好きさ!僕は今日はミランダさんとチェスの勝負で忙しいから、テキトーに片づけといてよ!」
「おお、ミランダ様がいらっしゃるとは!ポミュイ様、男子たるものレディには常にジェントルマンであらねばなりませぬぞ」
「んもう!わかってるよ!早く変な何かを処理してきてよっ!」
ググ爺はハッハッハッと豪快に笑うと、急に真顔になって訊いた。
「ところでポミュイ様、その何かが人間の場合、殺してもかまいませぬか?」
「うんいいよ。あれ?バウムクーヘン入った缶どこやったかな?」
ポミュイはその何かにすでに興味を失ったかのように、ベッドの下をのぞき込みながら答えるのであった。