4話
「なあんだ、小説の中の世界で、俺が実際に主人公になって動き回るって事かあ。そんな事かあ」
棒読みの俺に
「アンタ全然アタシの話、信用してないじゃんっ!」
と、鋭くツッコんだ。
「いや、いやいやいや。そりゃそうでしょう、逆に理解する方が難しいぜ」
「でもこの場所だって理解出来ないような場所でしょ?」
俺はその言葉に至極納得し、うーむ、と唸ると
「じゃあさ、どこからその小説の世界に行くんだ??」
と尋ねた。
ハナビは、ふむ、と不敵な笑顔を見せると
「良い質問ね!入り口は、そのモニターよ!」
と、力強く指差した。
「モニターには入れないけど…」
ハナビは得意げな表情で
「アタシの能力で、入る事ができるのさ!」
と自慢げに悦に入った。
「な、なるほど…。ところでこの部屋の男って、一体どんな小説書いてたんだろ?」
「ああ、それも全て調べてる。どうやらストーリーは、主人公は現実世界で死んで、異世界に転生するって話だね。アンタは実際に少し死んでる状態だし、これからこの物語に入るんだから、小説を地で行けるね」
と、ハナビはニヤッと笑いながら答えた。
「異世界かあ、そういう小説って読んだ事無いし、よくわからんなあ。ストーリーはどの辺まで進んでるんだ?」
「現実社会に毒されてるアンタの割には、いい質問ね」
「そりゃ、どうも」
俺はため息交じりに礼を言った。
「物語はおそらく完結してる。でもそれは下書きの段階よ。彼は紙に物語を全て書いていた。それをパソコンで清書し始めた時に、死んだの」
「なるほど、じゃあその下書きを、このパソコンに打ち込めば、話終わるんじゃ?」
「それがそうもいかない、このパソコンを扱うことが出来るのは、死んだ彼だけなの。このアタシと言えども使うことは一切出来ない。これは彼の意思から来る影響みたい。さらに言えばその下書きの文字は全て文字化けして読むことは不可能。唯一読めたのはパソコンに清書した、ほんの数十ページの文章よ。それだけ彼が小説にかける思いは強かったのかもね」
うーん、と唸っている俺に、ハナビは追い打ちをかけた。
「1番重要な事を言うわ。時間がないの。この部屋は死んだ彼の命の灯。その灯は、じわじわと消えかかっている。そして、その灯が完全に消えた時この部屋は消滅し、彼の死が確定する。そしてアンタもその瞬間、命を失う」
「やれやれ、その異世界で物語を終わらせるしかないのか…」
「そう。でも希望のある話をするわ。彼の小説のストーリーを進めれば進めるほど、彼の命の灯は強まる。話を進めるほど時間的猶予は増えていくのよ」
「なるほど!それは嬉しい情報だ!とにかく俺がこの小説を最後まで進めればいいんだ」
しかし、希望を見出し、やる気が出てきた俺に、またもハナビは絶望的な話をし始めた。
「物語の中でアンタが死ぬと、それは本当の死となる。物語の中で誰かに刺されたり毒を盛られたり矢で射貫かれたりして死ぬと、文字通りゲームオーバーね。そうならないようにストーリーを進めて完結させるの。そうすれば彼の命は助かるわ」
「そうか…分かった。最後に訊きたい」
神妙な顔の俺に気付き、ハナビはピリッとした表情で言葉を待った。
「もしゴールまで来れて、小説を完結させる事が出来た時、俺の命は助かるのか…?」
その質問に、ハナビは顔を曇らせた。
瞬時に俺は悟った。
「残念だけどアンタは小説を完結させても、死ぬの。この宇宙の摂理は誰にも変えられない。これから始まる長い長い旅は、1人の人間を助ける為の旅。アンタにとっては辛く苦しい旅になるかも知れないわ…」