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36話 村へ

神獣黒猫は、ゾンビを殲滅する時、他の誰もが気付かなかった生物の存在に気付いていた。


高みの見物を決め込む三つ目のカラス。


黒猫は、その鳥も何食わぬ顔で灰にしていた。




「何なのよ!」


持っていたワイングラスを床に叩きつける。


ミランダは珍しく荒れていた。


「何なのよあの黒猫は!あの桁外れの魔力!あの魔力はワタクシよりも…!」


ギリギリと歯をきしませ、ミランダは部屋にある物を手あたり次第滅茶苦茶に破壊した。


「あれは神獣だわ…。神獣はそもそも召喚出来る類の存在ではない…。でも、あの黒猫は彼らを助けた…、どういう事なの…!?」


ハアハアと、息を切らせていたミランダは、深呼吸すると、おもむろに分厚い(ナタ)を取り出した。



「はぁ。気分が優れないから、あの人狼の家族を拷問しようかしら」




◇                 ◇





空が白み、森にはかすかに霧が掛かっていた。


あれから、シャナとオズワルドは3人の騎士団員を回復させた。


3人共大した傷は無く、どうやら人狼は我々を殺す気など無かったようだった。


皆、不眠不休で朝を迎え、ようやく全員そろって焚火の前で一息ついた。



すると、昨夜戦った人狼が突然、焚火を囲む皆の前に現れたのである。


「何!?何このでっかい人!?オオカミ!?顔怖いんだけど!!表情分かんないし!!」


ハナビは独特の感性で人狼を警戒する。


回復した3人の騎士は抜刀し身構えた。


「ちょっ!待ってくれ!敵意は無え!俺の話を聞いてくれ!!」


両ひざを地面に付け、両手を上げ、態度で示す。


シャナは3人に剣を収めさせると


「オズワルド、その人狼の傷を治せ」


と命じた。


「え?宜しいんですか??」


「構わん。その人狼が危害を加える気が無い事くらい分かる。それに気づいていたからこそお前は人狼に止めを刺さなかったのだろう?」


「あ、ばれてました?ハハ…」


オズワルドは苦笑すると人狼に回復魔法をかけた。


皆、敵ではないと理解すると、再び焚火を囲みそれぞれの会話に集中し始めた。


「悪いな、曲芸師」


「止めてくださいよ。僕はオズワルドという名前があるですよ人狼さん」


「そうかいオズワルドか。いい名前だ。俺も人狼って名前じゃねえ。俺の名はサイラスだ」


すると人狼のサイラスは、ハナビとくっついて焚火にあたるソラをチラリと見た。


2人は、何やら深刻な顔をして話し込んでいる。


「サイラスとやら、あの包帯の呪術師を倒した力を持つ彼が気になるのは分かる。しかし、こちらも今は色々取り込んでいるんだ。お主の話、聞く事は出来ても手を貸す事は出来ないかもしれん。それでも良いか?」


シャナはサイラスのそばに寄り、尋ねた。


「ああ、構わねえ。あんた達の用事が済んでからでいいから、俺の話を聞いて欲しいんだ」


そう頼むと、サイラスは険しい顔で暫く黙り込んだ。




◇                 ◇



朝。


太陽が昇り、昨日の大雨でぬかるんだ道を乾かす。


ソラとハナビは、しっかりとした足取りで親父さんの村に向かっていた。


「ハナビ、大丈夫か?」


ソラは、ハナビの様子が気になって数分に一度、同じ質問をした。


「もうっ!子供じゃないんだから!アタシはもう大丈夫!」


ハナビは、我慢できずにとうとう、怒り出した。


「いや、ハナビ子供じゃん!心配するの当たり前だろ!?」


「見た目はそうだけどっ!子供じゃないもん!」


「え!?ハナビ何才なの!??」


そう聞くと


「レディに年齢聞くなんて最低じゃん!」


と、ますます怒って、スタスタと先に歩き出すのであった。


「ちょっと!ごめんハナビ!待ってくれよ!」




遠くに村が見える。


「ソラ、もうすぐだよ?」


ソラとハナビは、昨日の親父さんの死から、まだ奥さんとメルと、ちゃんと話をしていなかった。


「ちゃんと謝ろう。俺たちに出来る事はそれしかない」


「うん…」


村に近づくと、村人たちは村の広場に集まっている。


ソラとハナビは、離れた場所から様子を伺った。


村人たちは、簡易的な木の棺を取り囲み、両手を胸の前で組み、黙とうしていた。



そこには泣き崩れる奥さんと、状況を理解できずに退屈そうにキョロキョロするメルがいた。


「さすがにこんな状況じゃ、奥さんに会えないな…」


ソラとハナビは、顔を曇らせ、引き返そうとした。




その時。


「あーっ!おにいちゃん!おねえちゃん!」


メルが、2人を見つけ、こちらへ駆け出した。


村人全員がこちらを見る。


その眼は、あまりにも冷ややかだった。


メルは、嬉しそうに、ソラとハナビと手を繋ぐ。


「もお、どこ行ってたの?お父ちゃんも、お出かけしたままなの」


その言葉が、2人の心に突き刺さる。



「メルちゃん!その人たちから離れなさい!」


村人の数人がこちらに近づき、メルを呼び戻そうとした。


メルは理解できず、キョトンとしている。


「よくも、戻って来れたもんだ!疫病神!お前たちのせいでこんな事になったのに…!!この村から出ていけ!!」


ハナビは必死で涙を堪えていた。


ソラは歯を食いしばり、ハナビに優しく


「行こう」


と、手を握った。


すると、異様な空気を感じ、メルが泣き出した。それにも構わず、村人の1人はメルの腕を引っ張り、連れ帰ろうとした。


「いやぁ!おにいちゃんとおねえちゃんと一緒に遊ぶの!」


メルはその場から離れようとしない。


「メルちゃん、ごめんね…」


ハナビはぽろぽろと涙をこぼしながらメルの頭を撫でた。



その様子を全て見ていた奥さんは2人の近くまで来て


「待って!話したいからあんたらは帰って!」


と、強い口調で、村人たちを帰した。



「メル、ごめんな。お母ちゃん2人と話あるから、ちょっとだけみんなの所行っといて?」


奥さんはメルを抱きしめる。


メルは泣き止み頷くと、小さな歩幅で向うへ走って行った。




「奥さん、俺のせいで親父さんが…」


重たい気持ちを振り払い、ソラがそう言いかけた時。




奥さんは、2人を力強く抱きしめた。


「ごめんね…。あんたらは何にも悪くない…。気にしちゃいかんよ…。本当に辛い思いさせてしもうたね…」



奥さんは優しく包み込むように、傷ついた2人の心を癒す。



その言葉は、ソラとハナビの心の奥にずっと居座っていた〝しこり〟を氷解させた。




泣きじゃくるハナビと涙を堪え謝り続けるソラ。



そんな2人を、奥さんはまるで我が子のように、いつまでも優しく抱きしめていた。













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