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3話

「察しが良くて安心したわ」


ハナビは真剣な眼差しで俺に言った。



「で、死ななきゃならない俺が、この部屋にいる意味は何なんだ?」


俺は観念して、ため息交じりに尋ねた。



「全てを元に戻すために、アンタはここに召喚されたのよ。アンタは今、生きているけどちょっとだけ死んでる状態。ここはこの世とあの世の狭間だからね。生きていたアンタをアタシが強制的にここへ呼んだの」


「ってことはハナビちゃんは俺を殺そうとしてるって事か…?」


少し怒気がこもった俺の言葉にハナビは


「まぁ落ち着いて。近いけど違うわ」


と、俺の気を静めようとした。



「元に戻す事がアタシの仕事。そしてアンタは本来死ななければならない人間。それは肝に銘じててね。その上でこれからの話を提案するわ」



「分かったよ。俺の代わりに誰かが死んでるなんて、罪悪感が半端ないからな。どんな話されても受け入れるよ」


そう言うと、ハナビは少し驚いた顔をして


「アンタ、意外とキモすわってるのねぇ。ビックリしちゃった。それに悪い奴じゃなさそう」


と、俺の顔に自分の顔をかなり近づけて、まじまじと見つめるのであった。



「ちょっと、近いよ…!」


今度は俺が顔を赤くして、その赤い顔を急いで背けた。


「あれれ~?何照れてんのかな~?」


ニヤリと笑い、からかうハナビに


「話続けろよっ」


と、俺は照れ隠しのように求めた。


コホン、と咳払いし改まったハナビは、再び話し始めた。



「この部屋は、死んだ住人が生前、1番想いをこめていた場所なの。だから死者の念が、この部屋を形造った。でも、このまま何もしないままでいると、この部屋の住人は完全に命を失うわ。この部屋は、彼の命を守る最後の砦。そして、この部屋で彼が想いを込めていたもの…」


ハナビは、静かな眼差しで、俺のそばにある、パソコンのモニターを見た。


「え?パソコンに何かあるのか?」


ハナビはモニターに手をかざすと、突然画面が切り替わり、何かが映った。



これは…?


「これこそが、彼が生前1番想いを込めていたもの。これの為に、この部屋は造られたの」



画面には、一面、膨大な文章が映っていた。



「これって、小説、だよな…?」


ハナビは、黙って頷くと


「あなた達の世界ではそう呼ばれているわね。物語を創作する事。彼は全力でその小説作りに、日々過ごしてきた。でも、小説を完成させる前に死んだの」


「俺の代わりに…か」



目をつむり少し考えている俺に、ハナビは宣告した。


「このまま何もしないと、彼は死ぬわ。そしてアンタも同じく死ぬの。アンタが死ぬ事は自然の摂理だから。アンタはアタシの提案を受け入れるしかないわ」



「そうか、そりゃ俺が死ぬのは当然か…。分かった。で、その提案って奴は何だい?」


ハナビは再び画面を見つめ、しばらく間を置いてから答えた。




「アンタに、彼が書き終える事が出来なかった物語を、完結させてもらうのよ」



「はい?」


キョトンとする俺を見て、ハナビは急にクスクスと笑い出した。


「うふふふ、アンタいい表情するね」


俺の表情がツボだったのか、まだクスクスと笑っている。



「あの…、ハナビちゃん?一応俺、命かかってるんですけど…」



「ごめんごめん、そうだよね。でも、そんな表情されたら笑っちゃうもん。ふふふ…」



ハナビは深呼吸して、笑う自分を落ち着かせた。



「でもさ、俺、小説なんか書いたことねーんだけど、どうしよ…?」




「あ、違う違う!小説は書かないよ。書くんじゃなくて創るのよ」


「創る???」





ハナビは、胸を張り、再びドヤ顔で俺に言い放った。




「彼が途中まで書いた小説の〝中〟に入り、アンタがその物語の主人公になって、小説を完結させるのよ!」





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