2話
「全くこの大人は…」
ハナビはあからさまに、やれやれ、という仕草を見せた。
「え?管理人さんのお子さんじゃないの?え?じゃあやっぱ不法侵入じゃん。人の事言えないけどあえて言わせてもらけどね。いややっぱりダメでしょ。子供だからって犯罪だよ?わかってるよねそれくらい。ちょっと顔がめちゃくちゃ可愛いからってやって良い事と悪い事があるよ。ほんと顔が可愛い過ぎるからってさ。マジで天使かよってレベルのカワイイ顔してるからってさ…」
「後半可愛いって褒めまくるから、ツッコミづらいんですけど!!」
ハナビは顔を紅潮させて、しっかりとツッコんだ。
うーむ、芸能界デビューすれば天下を獲れそうな女の子だなあ。
照れながらむくれる器用な表情をするハナビを、俺はまじまじと見つめていた。
肩まで伸びたブロンドの髪、真っ白な透き通る肌、ふっくらとした輪郭にキラキラと輝く大きな瞳、思わず指で触れたくなるようなピンクの唇、そして少女にしては余りにも豊かな膨らみの胸。彼女は白一色のまるでメルヘンの世界のような美しいドレスを纏い、その清潔感を更に際立たせていた。
こりゃ、ロリコンだったら一撃で惚れるレベルだな…。
俺は顎に手を当て、眉間にしわをよせながら、きわめて真剣にハナビという少女を品評していた。
「ちょっとアンタ!何ジロジロ見てるのっ!?」
「いや、ハナビちゃんが可愛いから、おじさん君に惚れちゃいそうになってたのさ」
割と適当に答えるとハナビはさらに顔を赤くして
「は、はあ!?キモッ!まじでキモッ!アンタ変な気起こしたらタダじゃ済まないわよ!キモ!」
ほほうこの子、押しに弱いタイプだな…。
「ところで」
俺はおもむろに話題を変えた。
「ハナビちゃんは一体何者なんだい?それにこの部屋はどこの誰の部屋なの?」
その問いに、ハナビは「それよ!」と俺に指さすと、さっきの自信に満ち溢れた表情で話し始めた。
「アタシはさっきも言った通り、この部屋の管理者。そしてこの部屋は、この世とあの世の狭間に存在する死者の念が生み出した部屋よ」
その答えに
「なるほど全部理解した、どうもありがとう」
と礼を言うと、甘いコーヒーをすするのであった。
「ちょっ、もう理解したの!?これまでたったこれだけの情報で理解できた者はいなかったわ!アンタ一体…!」
焦るハナビに俺は返答した。
「分かってるよこれ、テレビ番組のドッキリだろ?素人の俺にドッキリかけるなんて全く悪い冗談だよ。ちなみにギャランティーは発生するのかな?いつ放送?」
ハナビは、死にかけた小動物を見るような憐れむようなまなざしで
「あの…全然理解してなかったんだね…なんかごめん。勝手にすごい奴って思ってしまったけど、ホント常識に毒されてる有象無象の大人たちの1人だったんだね…。ごめんね…」
と謝罪した。
むむ、謝られたが侮辱されてるような気がするけどそこは大人なのでこれ以上考えないでおこう!
ポジティブ思考に無理やりハンドルを切った俺に、ハナビは話を続けた。
「この部屋は、既に死んだ人間の、まだ生きていたいという念が生み出した部屋よ。その人間が生前暮らしていた部屋に限りなく近い形に再現されてるの」
「てことは、この雰囲気だと男性が住んでた部屋って事だよな?」
「ええその通り。ここは若い男性が住んでいた、というより生み出した部屋よ」
「えーと、そもそも死んだこの部屋の男と俺に何の関係があるんだよ?」
まだ理解できず戸惑う俺にハナビは説明を続けた。
「今回は、とても特殊な案件なの」
「案件?」
「そう、アタシはこの案件を解決するために派遣された者よ。この部屋の住人は死んだけどほんの少しだけ生きている。この部屋が存在する事が、少しだけ生きている証。そして死にかかっているこの部屋の住人は本来死ぬべき人物ではなかったの」
咀嚼できないまま次々と新しい食べ物を口に入れるように、俺にはハナビから出てくる大量の情報を理解することが出来なかった。
険しい顔で考え込む俺に同情するような苦笑を見せ、ハナビは続けた。
「本来死ぬべきではない人が死ぬっていう事は、死ななければならない人が生きてるって事」
理解力の無い俺にも、その言葉だけは理解できた。
「その死ななければならない人って、俺の事だな…?」




