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花人  作者: 味醂味林檎
第三章 遺跡攻略

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第十話

 バンクシアの案内に従って奥へ進む。施設はやはり壊れている部分もあるが、それさえ無視してしまえば、これが旧い時代の遺跡なのだということは言われなければわからない程度には小奇麗だ。壁も床も金属素材でできていて、足音がよく響く。

「五階は昔の人の指令室? 作戦室? とかがあったっぽいのよね。偉そうな勲章みたいのがあったりしてさ。あとは歴史の教科書に載ってそうな古典風のモニターっつーの? 何映してたのかなあ」

「作戦室なら資料や戦地の様子を偵察した記録なんかを見ていたんじゃないのか。昔は機械の斥候を使って敵を攻め滅ぼす計画を立てていたというだろう」

 オレたちにもそういう道具があれば少しは楽ができるんだが、とイキシオリリオンが呟いた。

「なんで戦争とかしてたのかなあ。人間にとって妖精ってそんなに怖かったのかしら。だってアタシたち人間と妖精の混ぜ物でしょ? 仲よくできる人たちもいたはずなのに」

「先祖が少数派だったんだ。全員が全員賢い選択をできるわけじゃあない。ものがわからん馬鹿もいれば、馬鹿なこととわかっていても後に引けない状況に陥ったやつだっていただろうさ。人間も妖精もな。集団と集団が対立したとき話し合いで解決できないなら、あとは武力に頼る他あるまい」

「そっかー。アタシたちだって考えが違うと喧嘩するもんね。人数が増えたらもっと大変だよね」

「勉強になります……!」

 バンクシアとアイリスが解説の続きを期待していると気付いたイキシオリリオンは、ふいと目を逸らした。

「……オレを教科書にするな。その辺りの記録ははかせが何か持ってるだろうから帰ったら聞け」

「えーお兄さまのお話好きなのになー。ねーアイリスー」

「え、えっと、はい! 好きです!」

「アイリス。別にバンクシアに付き合わんでよろしい。大体オレは教師には向かん」

「あっ待ってよ、道もそんなしよくわかってないくせに一人先走らないー! 行くよアイリス、お兄さまったら足速いから置いてかれちゃうわ!」

「は、はいッ」

 バンクシアに急かされつつ、前を進むイキシオリリオンを追いかける。彼の話を聞くのが面白いのは本当だったが、今はこれ以上ねだることは難しそうだ。

 話に聞いていたとおり、遺跡の内部は広く、そして入り組んでいる。バンクシアの持っている地図がなければ迷ってしまいそうだ。それも完全なものではなく、遺跡の壊れてしまった部分は道が塞がれているので、必要に応じて迂回する必要もある。

 ふと、金属同士の擦れる音をアイリスの聴覚が拾う。この音には聞き覚えがある――鉄蛇のそれだ。

 バンクシアとイキシオリリオンも気がついたようで、道を変えることになった。

「見つかるとしつこく追いかけてくるからね。なるべく避けていこう」

「そうだな。遺跡の中は自動修繕システムが働いている。ここで鉄蛇を壊しても直されたら厄介だ」

 確かにそうなってはきりがない。こちらは使えるものが限られているのだ。物量で攻められては対応しきれなくなる。

「アイリス」

「は、はい、お兄さま」

「鉄蛇と真正面からぶつかってしまったら、無理に戦おうとしなくていい。とにかく自分が生き延びることだけ考えろ。いいな」

 アイリスが頷くと、イキシオリリオンは「良い子だ」と言って頭を撫でてきた。身長はあまり変わらないが、つい手が伸びてくると頭を下げて膝を少し曲げてしまう。

 役に立とうと気負いすぎて邪魔をするよりは、できる範囲のことをきっちりやるほうが良いとはっきり言ってくれるのは、アイリスとしてもありがたいことだった。手伝えることだけを手伝う、それ以上の期待は受けていないということでもあるが、それ以上のことはアイリスも恐らく背伸びしても手が届かない範囲である。

 そんな未熟者であってもこの任務に同行を許されているということは、たとえ素人でも全くの無意味な存在ではないと判断されたのだろう、と前向きに考えることにして、アイリスは先を行く二人についていく。遺跡の通路はどこまで進んでも似たような道が続いていて、地図があってもバンクシアのように慣れていないと迷ってしまいそうだ。

 しばらく奥へ進んだところで、バンクシアが鍵のカードをかざしながら壁際を触ると、隠されていたドアが現れた。

「ここから下の階に降りましょ。下のほうは土で埋もれちゃってるけど、三階まではこれで行けるの。一階から三階までぶち抜いてる実験室みたいなのがあって、機械がまだ動いてるから、音だけじゃ鉄蛇を感知しにくくなるから気を付けてね」

「はい。えっと……非常通路……です?」

 現れたドアには何か字が書いてある。ところどころ掠れているが、アイリスには非常通路と読めた。

「古代語バッチリじゃない、おべんきょしてるのねえ。偉いわ~。アタシしばらくこれ読めなかったのよね。文字とか日常的に使う言葉しかインストールされてなかったからさあ、はかせによく見かけるやつ教えてもらってやっとよー」

「その辺りの知識って、バンクシアさんも後から勉強したんです……?」

 基本的にカヒトという種は、アイリスを除いてエーテルツリーを介して製造される生命だったという。本来であれば、必要とされる知識、技能は最初から遺伝子に組み込まれているはずだ。だが、ナデシコのように有用とされていた一部の知識しか持たずに生まれてくる例もある。

 その辺りはイキシオリリオンが返事をくれた。

「バンクシアも元は防衛のための戦士だからな。古代語が必要になる事態が想定されていなかった。寒波のことがなければ探索へ出ることはなかったろうからな」

「そうそう、そういうの、古代語も読める子のほうが向いてるもんね。結局魔法の燃費とか戦闘の適性とかで、アタシのほうが残ったんだけどさ」

 ドアの向こう側は下へ続く階段が伸びていた。造りが大きく感じるのは自分たちがカヒトだからだろう。この建物は人間を基準に作られている。

「非常通路は鉄蛇が出ないのよ。狭いからかしら?」

「ここはそういう用途じゃない」

「そっか、これって施設の人が逃げ道に使うところだったんですね。表の通路で敵を迎え撃つから、ここには鉄蛇が必要ないんだ……」

「へえー二人ともかしこーい」

「ガイド役のお前がそんな調子でどうする……」

「遺跡の歩き方は知ってるから問題ありませーん」

 そんな雑談を交わしつつ、目的の三階のドアへ辿り着く。下は自己修繕システムでも間に合わなかったのだろう、壁に穴が開き、土砂が流れ込んでいた。確かにこれでは通れない。

 ドアを開けようとしたバンクシアは、しかし触れる直前に動きを鈍らせた。

「……お。アイリス、お兄さま、ちょいと下がっといて」

「ん」

「は、はい」

 言われたままに一歩下がる。バンクシアはそれを確認してから、鍵を使う――まもなくドアが開く。その瞬間、バンクシアは勢いよく飛び出した。

「やあっ!」

 そのまましなやかな足が、物陰から飛び出してきた鉄の獣を蹴り飛ばす。

「て、鉄蛇!」

 大きさ自体は居住区を襲いに来たものと比べれば随分と小さいが、脅威は脅威だ。バンクシアは魔法によって強化した体で、先程蹴り飛ばした鉄蛇の上に立ち、そのまま頭部を踏み砕いた。

「出待ちご苦労さ~んっと。もういいよー!」

「バンクシアさん、最初から気づいていたんですね」

「まあね。ほら、アタシの魔法は身体強化だから。筋力を強くするだけじゃなくて、感覚を鋭敏にするーとかいうのも可能なんだなあ~」

 フフン、とバンクシアは胸を張った。要するに、アイリスやイキシオリリオンが耳で聞き取れない音を、バンクシアは自らの体の感覚を研ぎ澄ませて、鉄の動く振動を感じ取って索敵していたわけだ。

「これも魔法の使い方ってやつよ。目的をしっかり持つこと。それで力を制御すんのよ」

 わかりやすい具体例だ。一口に強化するといっても、その方向性はさまざまで、バンクシアはそれを上手く使い分けている。

「アイリスに指導するのは良いが調子に乗り過ぎないように。油断大敵と言うだろう」

「わ、わかってますよーだ! とにかく行こう、さくさくっと!」

 破壊した鉄蛇が修繕される前に進まなければ。いよいよここから先は、バンクシアがまだ探索しきれていないエリアになる。


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