プロローグ
一緒に迎えた三度目の春、私達は、高校生になった。
満開に咲き開いた桜の木の下で、
彼女は黒い瞳を輝かせて、笑っていた。
手のひらを上に向けて、彼女は、
風で舞い散る花びらを必死に捕まえようとしたが、
手で捕まえる前に、一片の花びらが
彼女の頭の上に落ちた。
「ほら、頭についてるよ」
私は、彼女の頭の上についた花びらをとってあげて、それを彼女の手の上に置いた。
彼女は、私にに向かって
「ありがとう」と言うと、嬉しそうに
手の中の花びらを眺めていた。
彼女が、桜が大好きだということを知ったのは、あの日だった。
私が、彼女のことをいろいろと知ることができたのは、出会ってからずいぶん経ってからのことだ。
彼女は、その境遇から、“本当の自分” を隠して生きてきた。隠すことが、自分を守る為の唯一の方法だと信じていたからだ。
彼女の容姿は、はたから見れば、ごくごく普通の日本人のものに見えただろう。
彼女、橋本紫の黒くて長い髪と黒い瞳は、
とりわけ珍しくはない、
一般的な日本人の容姿そのものだ。
眼鏡をかけており、
制服のスカートは、膝丈であった。
そんな彼女の姿は、時に、
「地味」「ダサい」などと蔑まれたりもしたが、
人が笑ったその容姿は、
橋本紫としての仮の姿に過ぎなかったのである。
これから話すのは、
この物語の主人公である「彼女と私」が
共に過ごした四年余りのお話である。






