始まり
その日は、いつも通りに平和だった。
いつも通りに食事の後は、勇者君を探して会いに行こうという事になっている。
プラズマの元に来た後の勇者君の様子は聞いたけど、こっちの進行度は伝えてないからな。
武器の宝石が透明になった事も気になるし、精霊を交えて一度情報を交換したい。
ぼんやりと今後の予定を考えつつ、いつもの城の食堂で気の知れた仲間と、思い思いに好きなものを食べる。
今日の俺のお昼ご飯は野菜をソースで煮込んだモノと白いふわふわのパンだ。
しかもサラダ付き。
俺の前ではニホン人3人組が、皿に盛った白い粒々の野菜を幸せそうに頬張っている。
それ、そんなにおいしい?
「まさか西の国で稲作やっとったとはなぁ」
「うーん甘いごはんもっちもっちですね・・・」
「やっぱこれだよね。稲作してる事は早い段階から気づいてたんだけど、ここまで味を近づけるのに苦労したよぉ」
ほっぺを押さえつつ幸せそうに感想を述べる3人。
俺も味見させてもらったけど、パンより味気ない。
よくそれだけを一杯食べられるなぁ。
「そっか、白米の良さが分からないか・・・。
ニルフはきっと、パン文化だったんだね。これは俺達の故郷の主食なんだよ」
口に出してなかったはずが、ピンキーには表情を読まれてたらしい。
ちなみに横に居る銀は白米を一口頬張ると、「腹持ちが良さそう」と感想を述べていた。
確かにパンよりはズッシリ来る。
ピンキーの横ではレモンちゃん達ピンキー親衛隊が同じように米料理に舌鼓を打っている。
「某、白いご飯は食べ慣れぬが、キラ子の作ったピラフや炊き込みご飯なら食べやすい」
「この味なら、この国の城下町でも通じそうじゃない?」
「ありがとうございます。私の国の田舎でよく作られてる料理を、このお米に合わせてアレンジしてみました!」
俺も一口それをもらったけど、やっぱりパンが一番落ち着く。
ってことで1人でパンをモサモサ齧ってた俺にレモンちゃんが一言。
「アンタの齧ってるそれも、米から出来てるんだからね?」
まじか。なんかいつもよりモッチモチだと思ったんだ。
俺はジャムを塗り付けて更に齧り続ける。
「あらあら、どんどん食べちゃって。気に入ったのかしらニルフちゃん」
そういいつつ柔らかく笑ったライムさん。俺を見つめて小首をかしげた。
なんですか? 見つめられるとドキドキします。
「ねえ、このお米って甘いモノとも合うのかしら」
その一言で俺達のテーブルが静寂に包まれる。一拍後、ピンキーと女性陣が一気に盛り上がり始めた。
俺はそれを横目で見つつ、残りのおかずやサラダを米粉パンと一緒にかき込んだ。
と、目の前でユーカが呆れた様に俺を見ている。
『どしたの?』
「なんで米の味見しよって言って集まったのに、がっつりオカズかき込んでるんかなって」
『いやだってさ・・・。城の料理って石が入ってなくて食べやすいじゃん。さすが城の食堂だよな』
「分かりますそれ! 最初に城下町とか外で食べたとき驚きました!
野菜とか料理に結構砂とか石とか混ざってるんですよね」
俺の言葉に黒蹴が身を乗り出して同意した。
「あああ分かる! あと虫とか、明らか雑草やろって奴も混ざってるよな! 最初嫌がらせかと思ってめっちゃ驚いたわ。
さすが平和が続いてるだけあって料理のレパートリーも多いし味もおいしいけど、あれは中々慣れんかったー」
「あの、それのどこが不思議なのでしょう」
意外なことに2人の言葉に異を唱えたのは貴族出身のポニーさんだった。
ポニーさんの言葉に、黒蹴兄妹が「えっ」って顔をする。
「ポニーさんって確か貴族の出でしたよね。貴族の食事でも石とか入ってるんですか?」
「はい。というかこの城ほどに異物が入ってないというのが珍しいんですよ」
「2人の話からすると、ニホンというのは食べ物に異物が入るのが稀なほど清潔という事だろうな」
ポニーさんの話に、銀も加わった。
俺も銀の言葉にうなずく。
『そういや、この国に来たころピンキーと黒蹴が城下町の料理を食って吐き出してたな。あれも石か?』
「あの米料理、米っぽい石が結構混ざってました・・・」
「だから米料理ってこの世界じゃあんま人気ないんかな・・・」
なんか兄妹が遠い目になってる。
俺は2人を励まそうとして、言葉を切った。
腹の調子がおかしい。
『ちょ、ちょっと行ってくる・・・』
「大丈夫か?」
「パン10個も食べるからや」
「先に出発の準備整えておきますよ~」
腹を押さえて食堂を走り出る俺の背中に、口々に声がかけられる。
てか心配してくれてるの、銀だけじゃねえか!?
トイレでしばらく籠って気づく。
食堂に木刀忘れた・・・。
*
思った以上の腹痛と戦ったのちに爽やかになった腹を撫でつつ食堂に戻ると、なんかめっちゃ騒ぎになっていた。
何があった!!!
人だかりの中心には俺の木刀があった。
しかも何故か床に転がされていた。
何なん!?
次回メモ:宝石
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