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勇者だったのかもしれない  作者: ぷっくん
空に向かって駆け上がれ!
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会議の終わり

『魔族・・・ですか?』


 思わず出した言葉が皆の注目を集め一瞬ビビるが、すぐにピンキーが言葉を拾ってくれた。


「魔族と言えば私たちを襲った、あの?」

「はい、あの魔族です」


 頷く東の王宮魔導士さん。そのまま彼女は後ろに下がる。

 そのあとは、東の王が語り始めた。


「今からワシが語るは、王家に伝わる魔族の話。

 おぬし達には、そろそろ言っておかねばならぬと思っての。

 しかし内容が内容だけに、王族皆に伺いを立てねばならなくなったのじゃ。

 このような場に連れてくることになり、すまんかった」


 東の王は、いつもと変わらぬ優しいまなざしで俺達を見る。

 周りの王もうなずいているので、了承は取れたって事かな。


「では、話そう。王家が市民に隠し続けてきた、魔族の恐ろしさを証明するものを」


 そして東の王は、大臣に何かを指示した。

 王の前に運ばれてきたのは、世界地図。

 街中やギルドにもある、普段見慣れているものだ。


 世界樹島を中心に、3つの大陸が花びらのように広がっている。

 3つの大陸の南半球部分、つまり世界樹島の外側の外海部分は、ズタズタにされたような地形だ。

 それぞれの大陸の周囲はほとんど山脈か、山脈の無い部分は深い渓谷。


「これが何か?」


 地図を見た黒蹴が、不思議そうに大臣に尋ねる。

 俺も分からない、別におかしいところは無いよな?

 と、ピンキーが震える声で「まさか・・・」と言った。

 ユーカが「うそやん・・・」と声を震わせ、銀も少し驚いた表情を浮かべている。

 え、なに?


「ほう、頭の回転は速いようじゃの。そうじゃ、そち等の予想通り。

 これらのいびつな地形は、当時の魔族の王・魔王によって作られた物なのじゃ」


 涼しい顔で西の女王が答えを言う。

 衝撃を受ける3人。

 訳の分からない俺と黒蹴。


「つまりな、南半球の大陸のない部分はな、魔王が消し去ったって事と(ちゃ)う?」

「えっ」


 ユーカの説明で、もう一度地図を見直す。

 世界樹島を中心に、四方に広がる3つの大陸。

 その下部分はズタズタに引き裂かれたような形をしており・・・、南半球に大きな大陸はなく、小島が少数浮かんで・・・。


「『ええええええええええええええっ!?』」


 ようやく気付いた俺と黒蹴の叫び声が、静かな世界樹に木霊した。





 




 その後。

 西の女王とピンキーの他愛無い話がもう一度行われ、俺達は無事にテントから出てこれた。

 2人の話が進むにつれて、各王の付き添い達の顔が気の毒なほど青くなってたな。なんでだろ?


「ピンキーが経済界の魔王だと匂わせたからさ」


 銀が教えてくれたけど、よく分からなかった。

 ピンキー魔族じゃないじゃん。狼にはなってたけど。

 俺達は神官さんから武器を受け取って、麓の白い街に向かう。

 会議はもう少し続くらしく、街で食事をとった後は先に城に戻っておくようにと王に言われた。


「今日初めてほかの王様達に会いましたけど、僕達を保護してくれたのが東の王でよかったですよね」

『だな。なんだかんだいって、あの過保護ぶりは嫌いじゃないし』

「うちも東の王に最初に会いたかった・・・」

「そういえば、魔王が現れた証って地図の事だったんですね」

『地図っていうか、地形?』

「あれやろ? 魔王がめっちゃすごい破壊光線出したら南半球の大陸無くなったって事やろ?」

「そういう事だね由佳。恐らく海岸線沿いが強固な山や世界樹になってるのもそれが理由だと思うよ。

 世界樹や強い地質で守られていない箇所にあった平地は消し飛んだんだろうね。

 東の国の世界樹近くの渓谷も、同じ理由で出来たんじゃないかな?」


 ピンキーの説明に、いつの間にか3人で聞き入っていた。

 なるほど、ようやくちゃんとわかった気がする。


 俺は街に向かう前に、もう一度世界樹に目を向けてみる。

 世界樹には今日もやっぱり世界樹のじいさんは居らず、麓の街で若葉を探してみたがどこにも居なかった。

 おいこらジジイ、俺は強くなったぞ。

 戦闘でってより補助方面でだけどな!!








 *







 

 召喚者達の去った世界会議の間。


「やっと帰ったか」


 西の王女の言葉に、東の王の片眉が上がる。


「そちらから彼らを呼び出しておいて、なんという言い草じゃ」

「だが、これだけの事件が立て続けに起こっているんだ。

 なんらかの関連を疑っても、しようが無いと思うがね。

 まだあやつ等が原因ではないとは証明されていないんだろう?」

「それに、ちゃんと飼い犬の首輪は付けていてほしいものだのぅ」


 南の王の老齢した声に、南の女王の声が続いた。

 その声は双方ともに不機嫌さを含んでいる。


(西のは、よほどピンキーとの話が堪えたと見える。南の、この男も娘が居なくなるまでは若々しかったのにのぅ)


 東の王は南の王を見やった後、静かにため息をついた。

 今日は自分が大切に思っているあの子供達にすら言っていない事を言うために、この場に皆を呼び寄せたのだ。

 大切だからこそ、言うことは出来ない。

 知れば、危険に身を投じてしまうかもしれないから。


「皆は知っておるかのぅ、この話を」


 東の王が語り始めたのは、この国に伝わる人気の昔話。

 民間で語り継がれている何パターンもある勇者の物語の中でも、オーソドックスなものだった。


 大陸を突き破り、大地を引き裂いて現れた恐怖の魔王。

 それに呼応するように何処からか現れた、勇者と呼ばれる人族の若者が倒すという御伽話だ。

 

 いつから語り継がれている物なのか、どこからどこまでが創作なのかすら分かっていないが。

 

「そこには、このような一文もある。

 ≪勇者が世界樹島の世界樹に剣をささげたその時、世界樹が光り輝いて各地にいくつかの光が飛んだ。

  その光は選ばれし武器に宿り、それを手にした者達は勇者の仲間となって魔王を倒すたびに同行した≫とな」

「それがどうした。民間の不確かな昔話ではないか」


 南の王が不満げな声を上げるが。


「しかし・・・。偶然にしては出来過ぎておるのぉ」


 西の女王は何かに気づいたようだ。

 先ほど召喚者達と話していた時のような優しい目ではなく、国を治めるときの鋭い眼光に戻っている。

 東の王は軽く頷き、話を続ける。


「そう。わしは民間の昔話にも、真実が含まれていると考えた。

 そこで我が国の王宮魔導士に調査を依頼し、あちこちに散らばる昔話に共通する部分を洗い出したのじゃ」

「ふむ。我が国の学者にも詳しい者が居る。こちらでも、少し洗ってみるかの」


 意外なことに、西の女王が予想以上の反応を示した。

 娘を失った原因を探し続ける南の王が先に食いつくと予想していた東の王は、少し驚くが。

 南の王が疲れ切った顔で話を聞いているのを見て、納得した。


 既に限界だったのだろう。

 娘を探す事も、娘が消えた原因になったかもしれない召喚者達にあう事も。


 自分の仕える王の考えに気づいたのだろう。

 東の大臣が、皆に休憩を取るように申し出た。

 その間に西の学者と東の王宮魔導士とで詳しい話をしておくからと、場をまとめている。

 南の国にも詳しいものが居ないかも聞き出し、サッサと準備を整えてあっという間に王達を休憩室に連れて行ってしまった。


(本当に、大臣には頭が上がらぬわい)


 東の王も、大臣に促されて体を休める。

 ひと眠りした後には、結論が出ているだろう。


(それがどのような結果であったとしても、ワシはあの子達を守り抜いて見せる。

 例え同じ場所に居なくとも、様々な手段でな)


 それぞれの王が思い思いの方法で休息を取る中、学者たちの集められたテントは騒がしくなり。

 数時間の論争の後、結論が王達に伝えられる。


 結果は、「信ぴょう性がある」という事だった。


 その後、3人の王達は「召喚者達は、勇者・もしくは勇者の仲間として選ばれる存在としてこの世界に来たのではないか」という仮説を立てる。

 しかしそれは召喚者達に伝えられる事は無かった。


 出来れば、自分達の未来は自分たちで選んでいってほしい。

 口では語らぬ東の王の気持ちを、皆が汲んだ形だ。

 そして東の王が先に帰路に着いた後。


「そういえば近頃、勇者を名乗る若者があちらこちらに出没する魔物や魔族を討伐していると聞くが」

「やはりあやつ等は、平和な世が終わりを告げる前触れだったか・・・」


 テントの中では、西の女王と南の王が静かに会話を重ねていた。










 --------------------------------

「うわああぁあああ!!!」

 

 勇者は脂汗をかいて飛び起きる。

 あれは、自分の憧れる≪彼≫の記憶?

 しかし今までとは全く雰囲気が異なっていた。

 普段見ていた≪彼≫の記憶は、いつも楽しく、いつも素晴らしいはずなのに。

 

 一瞬不安に顔を曇らせたがすぐに笑顔を取り戻し、彼は同行者に声をかける。

 今日は色々あったから疲れているのだろう。

 記念すべきこの日に、変な夢を見たとか笑い話にしかならないよね。

 そういいつつ彼は振り返る。

 が。

 そこは先ほど野宿の準備をした、森の小さな広場では無かった。


 見覚えのない、真っ赤に染まった荒野。

 何故か、沈みかけた夕日が辺りを照らしている。

 太陽は既に沈んだはずなのに!


「なにこれ。寝過ごした・・・訳じゃなさそう?

 ねえメイジ、どこにいるの!?」


 彼は仲間の名を呼び、周りを見回す。

 しかしその目に飛び込んできたのは。


 地に倒れ伏す、行方不明になっていた仲間の男の姿だった。

 逆光に照らされた誰かがそれに近づき、ニタリと笑う。

 そして・・・。


「やめ・・・ろぉぉぉおお!!!」


 荒野に、何かを突き立てる音と悲鳴に似た怒号が響き渡る。

 血に染まったナイフを持つその男は、≪彼≫と同じ顔をしていた。



次回メモ:こめ


いつも読んでいただき、ありがとうございます!

ドット絵楽しい

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