世界会議
ようやく大臣から解放されたのは、会議が始まって結構経ってからだった。
というか途中で大臣が会議に向かったため、ピンキーが後を引き継いで俺達を叱っていた。
皆のお母さん、ピンキー。
俺の脳内に、フリフリのエプロンを着たピンキーが浮かんで消えた。
「人の姿に戻ってから、どんどんお母さん化が進んでますよね」
『プッ。やめろ黒蹴、笑わせるなって・・・!』
「ふーたーりーとーもー?」
あ、人型ピンキーの怒った顔、めっちゃ怖い。
ちなみにその間、銀はテントの前で待っていた。
まだ俺達は会議に呼ばれてないっぽい。
*
「入ってよいぞ」
怒りのピンキーからのお叱りが終わってテントの前で大人しく座る俺達に、女性の声がかけられた。
声からして、大人の女性か。
ポニーさん達より年上っぽい感じだ。
「いい? 絶対変な事しないでね?」
ピンキーにくぎを刺されつつ、銀とピンキーに続いてテントの入り口をくぐる。と。
嘗め回されるように、複数の目線が俺達を見回した。
居心地が悪い。
ブルリと身震いをして隣を見ると、黒蹴とユーカの顔が青い。
前に立つ銀とピンキーは平然としていたが、ピンキーの尻尾が逆立っていた。
入ってすぐに、入り口を警備する神官さんに武器を渡すように言われる。
言われた通りに武器を出すと、神官さんはすごく丁寧に受け取った。
うやうやしい感じ?
あ、ピンキーの片手剣の色が黄色くなってる。程よく光沢があって、まるで黄色い金属だ。
ピンキーの属性、雷で合ってたんだな。
東の城のよく使う大広間程度の大きさのテントの中央には、豪華な大きい机が置かれている。
神官さんはそこに俺達の武器を綺麗に並べた。
これなんて言うんだっけ。円卓?
広さが、7人乗りの馬車2個分くらいある。めっちゃでけえ。
そこに3人の豪華な服を着た人が座っていて、それぞれの後ろには同じく豪華な服を着た人が数名と、豪華な鎧を着た人が数名。
おそらく座ってるのが王族で、その後ろが大臣や王宮魔導士さん、鎧を着てるのが兵士さん達かな?
うちの王様は俺達から見て左に座っている。
真正面にはちょい老けたおっさん、右には40歳くらいの美人な女性。
ちょい老けのおっさんはピシっとした鎧っぽい服に白髪交じりの髪を髷っぽくしていて、女性はゆったりした服を着ている。編んだ髪を垂らしたり頭の上で巻いたりしている。髪型、どうなってるのかよくわからないや。
女性は挑戦的に俺達を見つめ、老けたおっさんは鬱陶しそうに俺達を見ている。
後ろに控える方々には、無感情なまなざしを向けられた。
テントをきょろきょろと見回していると、東の王と目が合った。
なんかめっちゃ心配そうに見つめられてるな。
そんなに何か仕出かしそうかな、俺。
「そち等が、神より選ばれし召喚者か」
右側に座る女王が、俺達に声をかける。
声は優しそうだが、なんか怖い。
さっきのピンキーよりも怖い雰囲気を含んでる。
「はい、そうでございます。西の国の女王陛下様」
ピンキーが、めっちゃ丁寧な動作で礼と自己紹介をする。
続いて、銀が憮然に自己紹介をしたのを見て、思い出したように俺達も後に続いた。
「ほほほ、そち達が来てから平和なこの世界は事件が多発しておるぞ?」
「それはそれは。しかしながら私達は・・・」
あ、なんかピンキーに任せとけばよさそう。
女王からの質問を、ピンキーが危なげなく受け答えし、たまに銀が発言する程度で着々と会議が進んでいる。
ピンキーも女王も笑顔だ。が、なんか2人共、会話の端々に黒い何かがにじみ出てる気が・・・。
話は今までの俺達の行動やどういう扱いを受けたか、そして仲間の事や生計を立ててる方法などから始まり、今ではもう、世界の経済状況とかにまで発展している。
銀はともかく、当然俺は話に付いていけなくなっていた。
裏社会のドンの事なんて、俺に分かる訳なんてないよ。
2人共白熱してどんどん話が進んでいく中、俺と黒蹴とユーカは思い思いの方向を見つめていた。
さすが世界会議の会場だけあって、いろいろと綺麗な装飾品とかあって、物珍しいな。
変わった楽器とかおいてないかな。
でもすぐに飽きる。
とりあえずピンキー達の話を聞いているが、西の国の裏表の経済に詳しそうだがとか奴隷制度の撤廃を暗にうんたらかんたらとかなんか難しそうな事になってた。
王たちに交じって、銀も話に聞き入ってるのが凄い。
・・・なんかピンキーが女王を挑発してる流れになってるような?
話す2人の笑顔が、なんか怖い。
王や大臣達が固唾を飲んで2人の会話の行方を見守る中。
周りがあまりにも俺達に無関心なので、だんだん緊張がどっかにいってきた。
そしてとうとう雑談を始める俺ら暇人3人組。しっかり小声だけどな!
『なー黒蹴、あの大臣っぽいおっさん、カツラじゃね?』
「ぷっ。ちょ、笑わさないでください。また怒られプフフフ」
「ちょっと見てみ。あのクルクルヘアーの兵士、音楽室のバッハっぽくない? 髪の毛」
「ブハハハハハやめて由佳ブハハハハ」
「ふざけているのか!!!」
それにも飽きて黒蹴を笑わせていたら、急に老けたおっさんが怒鳴り出した。机をバン! と叩いて立ち上がる。
やっべ、ふざけ過ぎたか。
と思ったら、老けたおっさんの目線は東の王を向いていた。
「何もふざけてなぞおらぬよ、南の王よ」
東の王は腕組みをして座ったまま、サラリと受け流す。
あ、老けたおっさんは南の国の王なのか。
東の王の態度を見て、さらに顔を赤くした南の王が、俺達を指さして叫ぶ。
「分かっているのか! こやつ等が原因かもしれぬのだぞ!」
「確かに、世界の異変は召喚者が来た時期と重なっておりますわね」
南の王に続くように、西の王女もその意見に同意する。
ん? 世界の異変ってなんだ?
しかし東の王はそれを聞いてもなお、穏やかな表情を崩さない。そして柔らかな声で。
「わしらの子供達が居なくなったのは、この子達の召喚される1年も前だ」
そう、南の王に語り掛けた。
瞬間、南の王の顔から怒気が消え去る。
そのまま王は静かに席に着いた。
そういえば。
東の大臣に以前教えてもらったっけ。
東の王子2人と南の王女は、南の国から東の国に向かう途中に行方不明になったって。
しんみりした雰囲気になるテント内。なんか、いたたまれない。ハープでも弾いちゃう?
顔を上げると、東の大臣が怖い顔で睨んでいた。ばれてーた。
「しかし東の。それは一年前としてもじゃ。
世界の魔物の活性化は、ちょうどこの者達が来た時期と一致するのではないか?」
西の女王が東の王に物申す。
しんみり雰囲気を物ともしない王女、手ごわそう。
というか俺達、もしかして各国の王に≪魔物の活性化の原因≫として疑われてる?
「出過ぎたことを言うようですが。
今回はこのような尋問をするために彼らを呼んだわけではありますまい?」
見かねた東の大臣が声をかけると、王たちは一旦言葉を切った。
東の王は安堵したように。
南の王は疲れたように。
西の女王は面白がるような光を目に宿しつつ。
皆を見回した東の大臣が、東の王宮魔導士さんに視線を向ける。
大臣に促された彼女は東の王の隣に立ち、声を張り上げた。
「では、仕切り直しと行きましょう。
今回彼らを呼んだのは、ここ数か月の急激な魔物の活性化の原因として、魔族の可能性が浮かんだからです」
次回メモ:証拠
いつも読んでいただき、ありがとうふぉざいます!!!




