王
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目の前に 男が倒れている。
厳つく、色黒の体格の良い男。
それが咳き込み、血を吐いた。
腹を見ると 風穴があいていて、そこから止めど無く血があふれ出ていく。
ボクは必死に風穴に手を当て、治癒魔法を施す。だが。
「もう・・・いい・・・。俺はもうだめなんだろう? 自分で分かる。」
血を吐きながら男が言う。
ボクは必死に首を振って手をかざし・・・
その手を、男ががっしりと掴んだ。
「お前に・・・最期のお願いをするぞ。
俺の【能力】を・・・お前と一緒に・・・連れていってやってくれ・・・」
男が掴む手が光り、ボクの手に光が流れ込む。初めて見る光にボクは一瞬 目を奪われた。
そして男は目をつぶり・・・安心したかのようにバタリと手が落ちる。
辺りにはバラバラに壊された楽器達が、何かの肉片と共に血にまみれて散らばっていた。
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「うわぁあああああ!!!」
俺は大声を上げてベッドから飛び起きる。
勢い余ってゴロンと転げ落ちた俺の膝の上に、何かが転がってきた。
真っ白な背中。緑の長い髪。
なつかしさに胸が詰まりつつ、その体を優しく揺すると。
氷のように冷たかった。
べとり。
ぬるつく何かが、手に付く。
怖くて色は確認できなかった。
「だ、誰か・・・、誰か来てくれ! 若葉が、・・・!?」
周りを見回して、俺は驚愕した。
城の自室で寝ていたはずの俺が居るのは、オレンジ色に染まった荒野。
そして。
周りには、同じように真っ赤に染まって地に伏せる、仲間達がいた。
「嘘・・・だろ」
そのとき、目の端で何かが動く。
反射的に目を向けると。
人の形をしたそれは、誰かに覆いかぶさっている。
不気味に屈むそいつは足元に横たわる誰かに、鈍く光る何かを突き立てていた。
何度も。何度も。何度も。
そのたびに赤い何かが地面を広がっていく。
俺は止めようと もがくが、体が石のように重くて動かない。
影は、誰かに何かを突き立て続ける。
そして。
急に クルリと 俺の方を向いた。
その男の、右側の顔面は真っ赤に染まっていて。
わずかに笑った。
あれは・・・。
俺?
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『黒蹴~ピンキ~銀~若葉~みんな~、俺を置いて死ぬな~むぎゅっ』
「どんな物騒な夢みてるのニルフ。王様が呼んでるよ、集合集合」
また顔をピンキーに踏まれた。
頬に当たった肉球がもちもちしてる~。すりすり。
『ん? 肉球?』
顔をふさっと撫でられて薄目を開けると、ピンキーが前足で器用にドアを開けている。
欠伸をしつつ伸びをして部屋を見回すと、いつもの東の城の俺の部屋だった。
あの見た事も無い荒野は何だったんだろう。なんか変な夢見たなぁ。
その時、目線を感じて振り返る。
しかしそこには、シー君以外には誰も居なかった。
顔を洗ってご飯を食べて王の間に行くと、もう既に大臣の話が始まってた。
呼ばれたのは召喚者組(俺入れて5人)と隊長達(3人)っぽい。
皆、旅支度をしている。
何故か王も旅装束。横に立つ大臣も。というか国外に会議にでも行くような豪華な恰好?
ばたばたと走ってきてドアの前に居た俺にぶつかってコケた王宮魔導士さんも、ばっちり決めている。
俺は静かに部屋に戻った。
「ニルフ・・・」
後ろからなんか聞こえたけれど、気にしない!
そういえば今のピンキー、人姿だったな。朝のは見間違いか。
*
簡易な旅支度を終えて王の間に行くと、王が皆に何か説明をしている最中だった。
何食わぬ顔で参加する俺。後で誰かに聞くかな。
「では、出発するとするか。・・・皆には迷惑をかける・・・」
少し疲れたような顔の王に付いていくと、世界樹の枝が安置されている部屋だった。
いつも俺達が転移で城に戻ってくるのに利用している部屋だ。
元々は枝と魔法陣のみの殺風景な部屋だったが、俺達がいつ戻ってきてもいいように、今ではソファや簡単な医療品が常備されている。
たまに保存の利くお菓子やジュースや本も置かれていたり。
結構、王様がうろついていたりもする。
今ではお城勤めのおばちゃん達に、王様と一番遭遇するスポットって言われてる。
『ここから王様達と一緒に行く所ってまさか・・・』
俺は最初にこの城に来た時の事を思い出す。
そういえばその時、世界樹島がどんな時に使われるのかを聞いたような・・・。
よく見ると、隊長・ケモラーさん・ポニーさんの格好がいつもの旅支度じゃなかった。
なんかめっちゃ、煌びやかな鎧とか着てる。
これって、やっぱりあれだよね? いやでも違うかもしれないし。もしかしたらちょっとしたバカンスかもしれないし。
顔を引きつらせる俺に、ピンキーがとどめを刺した。
「さ、ニルフ、背筋を伸ばして。世界樹の島で行われる、各国の王の世界会議だよ」
やっぱりっぃいい?!
*
転移した先は、いつもとは違う小さな岬だった。
思えば初めてここに来たときは召喚されてすぐで、俺は自分自身が「召喚者に間違われた昼寝してた一般市民」とか思ってたな。
世界樹のじいさんにすぐに否定されたけど。
俺達は静かに王達の後に続いて森を歩く。
皆さすがに緊張しているのか、ものすごい静か。
森にも危険な魔物や動物は生息していないので、比較的静か。
ザスッザスと、土を踏みしめる音が妙に耳に付いた。
そういえばあのじいさんとは、あれからメッキリ会っていない。
元気にしてるんかな。
精霊に元気かどうかってのもおかしいけど。
いろいろ考えている内に、森が開けて大きな樹が目の前に広がった。
いつの間にか、世界樹の麓の広場に着いていたんだな。
結構歩いた気がする。
見慣れた広場には白く巨大で立派なテントが立てられていて、きっと中には豪華な家具が置かれているんだろうと思わせる。
広場に着いてすぐ神官達が寄ってきて、土で汚れた王の装飾品を拭き清めた。
王も普段出歩かない分、森を歩いてさらに疲れ気味に見える。
森からテントに向かう間に、着崩れた姿は整えられ、王の顔も真剣そのものに。
普段からは想像できないような、ピンッとした緊張感が広場を満たし、静寂の中を王と俺達は進む。
これが、世界会議に向かう王の姿か。
でもあれだよね。
これって。
「直接ここに転移できましたよね!」
黒蹴の声が、静かな世界樹の広場に思った以上に響く。
ちょ、黒蹴それは・・・!
『それは俺が言おうと思ってたのに!!!』
「言うなや!!!」
ユーカのダブルチョップが俺と黒蹴の脳天に炸裂して、その後2人で大臣からすごく怒られた。
次回メモ:会議
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