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勇者だったのかもしれない  作者: ぷっくん
世界樹と黒いヤツ
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プラズマと黒蹴

 数分後。

 俺達は雷の世界樹を後にした。

 それぞれの武器をしっかりと装備して。


「4人の武器以外は無色にならないんですね」

「そうだ」


 ポニーさんの言葉に答えたのは・・・。


「4人の武器は、地上にある全ての世界樹の力を宿しておるからな!」


 黒蹴の胸にしがみついている、プラズマだった。


 





 

 あの時。


「最後にもう一度だけ、言わせてください。

 僕たちと一緒に、行きましょう!」


 そう言った黒蹴に、プラズマが叫んだ答えは。


「一緒に、行こう!」


 だった。

 世界樹の元に居なくてもいいのか? って皆に質問攻めにされていたが、結局のところ。

 なんか他の精霊は無理だけど、自分は海龍の形を取ってるから大丈夫らしいとか。


 そういえばずっと海龍って西の国の海に出没してたって聞いてたな。

 

 2人を見ると、プラズマは嬉しそうに黒蹴の胸にしがみついている。

 黒蹴も嬉しそうに受け入れ、とても嬉しそうに鼻歌を歌っている。


「皆、サッキ変ナ光ガ飛ンデッタケド、大丈夫ダッタカ」


 空からハーピーが舞い降りてきた。

 ベリーを抱っこしている。

 なんか姿を見ないと思ったら、外で見張ってたんだな。気づかなかった。

 ベリーがピンキーの姿を見て、少しだけ残念そうに鳴いた。


 早速、雷の世界樹で何があったかを聞いたハーピー。いつもの肉食鳥のような目で羨ましそうに黒蹴達を見ていると思ったら、


「相思相愛ダナ!」

『なに叫んでるの!?』

「キュ!?」


 ついツッコミを入れてしまった。

 ユーカのツッコミ癖が移ったかな。

 さっき変な声を出したプラズマを見てみると、鱗が真っ赤に変化していた。

 もしかして照れてるの!?


「がっはっは! 相思相愛だそうだな! お前はどうなんだ黒蹴!」


 大爆笑した隊長が黒蹴に感想を求めると、黒蹴は嬉しそうに顔をほころばせて。


「なんだかポケ○ントレーナーになった気分です!」


 と晴れやかに答えていた。

 そのあと何故かユーカにシバかれていた。



 

 なんかすっかり気が抜けて、ぶらぶらと星空を眺める。

 浜辺に出ると、漁師Jr君と漁師さん達が手を振っていた。

 俺は後ろを振り返り、世界樹のある山の方に目を向ける。


 すっかり夜になった空を見上げると、切り裂かれた結界が薄くヒラヒラと夜空に舞っていて。


 いつの間にか一緒に並んで歩いていた黒蹴に、後ろの光景を伝えた。


『見てみろよ黒蹴。結界がさ、まるで窓辺に掛けられた高級なカーテンのよ(ry

「あ! まるで潰れたイクラみたいですね!」』


 ぶち壊しだよ黒蹴!





 船に乗って漁師村に戻り、そのまま西の大陸に戻って東の城に転移した。

 俺達の武器から放たれた光は皆が目撃していたらしく、一時は混乱が起こったそうだ。

 だがそれが雷の世界樹から放たれていると分かってからは≪雷の世界樹の封印が解けたときの現象ではないか≫という事で話は収まったらしい。


 そういえば、勇者の昔話でも世界樹が光を放つという部分があるらしい。

 各地の世界樹じゃなくて、世界樹島の世界樹が光るって話らしいけどね。






 *







『くあぁ~。おひゃほう』

「言えてないよニルフ。おはよう」

「おはようございます!」

「きゅ~♪」


 昨日の疲れを取るように思いっきり寝て、起きたらすっかりお昼を過ぎていた。

 おかしいな。船でも溶けるように寝たはずなのに。

 そう思いつつ食堂に向かうと、ピンキーと黒蹴とプラズマが居た。

 なんていうか。


『ピンキーの人間姿に慣れない』

「なんで!?」

『それに、プラズマって最近しゃべらないよね』

「きゅ~?」


 俺の言葉にプラズマは小首をかしげて、黒蹴の皿の野菜を齧っている。

 すっかり以前の小動物・プラズマだ。

 俺達が城に戻ってすぐに、話を聞いた王宮魔導士さんが連れ去ったが、言葉を喋ることはなかったというし。


「おそらく島を出た時点で、大精霊としての力を失ったんだろうって予想をしていたよ」


 王宮魔導士さんと仲のいいピンキーが教えてくれた。


「僕はどっちのプラズマも好きですけどね~♪」

「くるるるっきゅ~♪」


 黒蹴が嬉しそうにプラズマをクリクリと撫でる。

 プラズマも目を細めて嬉しそうに鳴いた。


『そういえば勇者君たちどうしただろ』

「あ、向こうにも水の大精霊(お姉さん)から連絡が行ってるんでしたよね」

「俺達みたいに転移がないから、移動に時間がかかってるんだろうね」

「勇者達なら、先ほどから我の元に訪れているぞ」


 急にキリっとしたプラズマがしゃべり出した。

 びっくりしたぁああ。

 向かい側の席の兵士が、こっちを凝視してる。

 あ、口に入れようとした肉が机に落ちた。


『なんでしゃべれるの!?』

「それはな。世界樹から離れると消耗状態になる為、ほとんどの時間は見た目相応の仔海龍の精神になってしまうのだがな。

 気合を入れると何とか雷の大精霊の意識を取り戻せるのだ!」

『それって普段ほぼ愛玩動物状態って事だけどいいの!?』

「我にとって、かわいいは正義なのだ!」

「プラズマは行かなくていいんですか?」

「ああ。分身で何とかできるから大丈夫だぞ。

 それに勇者は以前暴走した我を倒しているからな。試験は必要ないだろう」

『勇者君、元気そう?』

「元気そうだぞ。今は・・・








------------------------------


「つまり、ボクらのせいで漁師村は・・・」

「いや、そうではない。

 あのままでは我自身があの村を襲っていたかもしれないしな。

 暴走した我を打ち倒し、西の国を救ったのはおぬしだ。胸を張って≪登録≫するといい」


 目の前に立つ、小さな海龍を見た勇者君はすべてを悟った。

 そして自身があの時 海龍を倒したせいで今回の漁師村の事件に繋がったのではないかという考えに至った。

 小さな海龍は、そんな勇者の考えを全て見透かしたように優しく笑い。

 その考えの全てを否定し、勇者の勇気を認めた。


 海龍が先に結界で世界樹と分断されていた事。そのせいで暴走していた事。勇者が暴走を止めていなければ、西の国や世界の沿岸部の都市は大打撃を受けていたであろうこと。


 すべてを、海龍が勇者君に伝えてくれて良かった。

 勇者君の横でメイジさんは、そっと息をつく。


「(正義感の強い勇者様は、こういう失敗に弱いから。落ち込まないように私が守らなければ)」


 そして小さく「今度こそ」と呟いた。


 そんな彼女に勇者君は無邪気な笑顔で振り返る。


「行こう、メイジ! そのまま≪登録≫してもいいって!」


 そして彼女の小さく柔らかい手を取って石碑に向かって走り出した。

 握られたその手はいつの間にか彼女よりも大きくなっていて。

 暖かくて、すこしゴツゴツしていた。



 -----------------------------------


 ・・・っていうのをやっているぞ。我の目の前で」


 プラズマが実況してくれる勇者君PTの様子に、食堂にいる周りの兵士さんが砂糖を入れすぎたような顔をする。

 

「平和ですねー」

「いつも通りだねー」


 ほんわかと言う2人。

 俺達の話を娯楽代わりに聞き耳立ててる兵士達。

 今日もいつも通り平和です。

 

 その時、1つの光が雷の世界樹から飛び立った。






 *






 夜。

 木刀に嵌った無色の美しい宝石を眺めつつ、若葉の髪飾りを懐から取り出す。

 少し曇っていたので、優しくぬぐってみると、ちょっとだけ綺麗になった。

 若葉、どうしてるかなぁ。




 --------------------------------

 勇者が立ち去った雷の世界樹の神殿には、崩れた部分から青い月の光が差し込んでいた。

 誰も居ない静寂で神聖な場所。


 そこに、月明かりに照らされて数人の者達が足を踏み入れた。

 音もなく、その者達の前に姿を現すプラズマの分身。

 プラズマの分身は月明かりを気持ちよさそうに浴びて1つ伸びをし、相手を見やる。


「ヨウコソ。我ハ雷ノ大精レ・・・」


 しかし相手を確認する間もなく、プラズマの意識は途切れていた。

 



 一瞬で雷の大精霊の分身を切り刻んだその者は、何も居なかったかのように歩を進める。

 そのまま世界樹に近づくと、また大型の刃を一振りして、幹に穴を空けた。

 周りの従者達が静かに拍手をする中、穴を通ってその者は石碑に向かう。

 その日、また雷の世界樹から光が飛んだという連絡がいくつか報告されたが。

 3度目の光の話はいつの間にか人々の噂話からも、ギルドや国の記録からも消えていた。



 数分後。

 気絶から復活したプラズマが分身で世界樹を見るも、そこは何事もなくいつも通りで。

 あれは夢かと思って、眠りについた。

次回メモ:ドット絵


いつも読んでいただき、ありがとうございます!!!

世界樹編、思ったより長くなった・・・

次回画像なので重い人は注意してください!

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