黒髪の願い ピンキーの願い
僕は目覚ましの音で目を覚ました。サッカーの朝練にいく時間だ。夏休みのこの時期でも練習は欠かさない。
リビングに行く途中、妹が「うるさい」といって、ドアの隙間から蹴りを入れてきた。逆に避けて踏んでやる。
「ふぎゃ」という声がして足が引っ込んだ。1勝だ。
*
サッカーを終えて家に帰る。
朝早くに出たからまだ10時過ぎだ。とりあえずシャワーで汗を流そう。
リビングでアイスを食べつつスマホをいじっていると、妹からラインが届いた。
『財布忘れた。駅に着くまでに追いついて届けて』
僕は若干ムッとしながら、返事を打つ。
『いいよ』
妹には勝てない。
*
自転車を走らせつつ、駅までの道で妹を探す。
妹は中三。僕より2歳年下の14歳だ。夏休みデビューだと言いながら、この前ショートカットの髪を明るい茶髪に染めていた。今日は出かけているので化粧もして見た目は完全にギャルになっているだろう。
信号待ちをする。大きな交差点の向こう側で妹が手を振ってるのが見えた。
どうせだったらこっちで待ってりゃいいのに・・・。ぶつぶつ言いながら青になった信号を渡り、妹に財布を渡す。
「ほら、財布。廊下に落ちてたぞ」
「ありがとーおにぃちゃん。さっすが うちのおにぃちゃんやわぁ」
「なんだよその呼び方。普段そんな呼び方してないだろ?」
「うっさいなぁ、せっかくのサービスやのに。んじゃ行ってくるわ、にーちゃん」
「おう、いってらっしゃ
バーン!!!
大きな音が響き、悲鳴が上がる。びっくりして交差点を見ると、パンクをしたトラックが突っ込んできて・・・
気が付くと、大きな木の下に倒れていた。
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黒髪の話が終わる。つまり・・・黒髪は・・・
「トラックに跳ねられた瞬間、考えたのは≪妹の無事≫でした・・・。名前が思い出せないってことは・・・妹は・・・」
「無事じゃぞい」
「!!! ・・・ぅぁ・・・」
黒髪は、静かに泣いた。
*
黒髪が、すっきりした顔で戻ってきた。泣き顔を見られたくないと、近くの泉で顔を洗いにいってたんだ。
「あはは、かっこ悪いとこ見られちゃいましたね。」
少し恥ずかしそうに笑う黒髪。さっきまでの乾いたような笑いは、もう無くなっていた。それを見た後、じいさんは銀髪を見る。
「順番的に次はオレ・・・なんだろうが。実は願いを覚えていないんだ。」
銀髪は頬をかく。
「ソイツの話だと死にそうな目にあってからこっちに来るようだが、オレは気づいたらここにいたんだ。もちろん願いをした覚えもない。」
「傭兵って言っていたし、もしかして気づかないうちに死んじゃった、とか?」
ピンキー(略)が推理し、多分それだということになった。
気づかないうちに何か願いをしちゃったんだろう。仲間を守りたい、とか。
*
最後はピンク獣人改めピンキージュエルだ。ピンキーは大きく肩を回して延びをして、話し始める・・・
「俺が願ったのは・・・俺の愛するピンキージュエルちゃんに出会う事。・・・彼女のようなピンクの髪。つややかな尻尾、ピンと立った獣耳、スマートで細身なのに筋力もある。いや! 筋力を鍛えても筋肉が目立たない体質! そしていちばんすばらし(ry」
10分語った。
汗だくのピンキー(略)。木のふもとで寝る銀髪。王と仙人はちょっと離れたとこで全然別の話をしている。黒髪と若葉はおしゃべりしてる。年が近いから気が合うのかな。
俺は結局書いた文字が消えなくて、その上に胡坐をかいて座っている。
ばれたら捕まる。草を上に少しずつ乗せて隠し中。
・・・なんか若葉が文字を書いたところを見てた気がするんだよね。
若葉が俺に気付いてシルフを握りしめた。いやいい! 話しないから!!!
さて、ピンキーの願いを要約すると・・・俺だけのピンキージュエルを嫁に貰いたい、って事だった。話の大半がピンキージュエルの魅力と体型と顔造形と姿形についてだったな。
きっと願いを叶える存在もうんざりしながら聞いたんだろうと、顔も知らない相手に少し同情した。
話が終わった事に気付いたじいさんがピンキー(略)に声をかける。
「あそこで汗を流してくると良いぞい」
さっき黒髪が顔を洗ってた泉だな。世界樹の木から流れた水が、ここから10m位離れた所に泉を作っている。
ちょっと見てみたら、直径5mくらいの小さめの泉だった。
そこにピンキーが行くと、兵士達が布で囲いを作った。別に男しかいないし、いいんじゃないか?っと、若葉が女だったな。
あいつが水浴びしてる間に俺の記憶の事についてじいさんに聞こうとした、その時。
「うぅぅあぁぁあぁぁぁぁぁ!!!! くっついてるぅうぅううううう!」
ピンキー(略)の悲鳴が聞こえた。
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