雷と黒
「なんだ!? 何が起こった!?」
すっとんきょうな声を上げたのは、胸にしがみついて寝ていたプラズマ(本体)だった。
さすが雷の大精霊! 雷で感電はしないらしい!
だがその後倒れた黒蹴に下敷きにされて、悲鳴を上げているのが聞こえてきた。
『ほい、これでよしっと』
「あいがほうございまふ、ニフフはん」
「まだちょっと痺れてますかぁ?」
樹の中からハープで癒してみると、無事黒蹴は起き上がった。
ケモラーさんに支えられてやっと地面に腰を下ろしている。
まあ、無事でよかったよ。
黒蹴が感電してすぐ。眠りから起きたプラズマ(本体)に聞き出してみると、どうやら樹から出るときもプラズマの許可がいるらしいということが分かった。
しかしプラズマは黒蹴の下。苦しくてどうにも出来ないってことで、ユーカと一緒に入ってきた分身を使ってケモラーさんが外に出て応急処置を施し、樹の中からハープで俺が回復補助を施す。
なんかシー君とフーちゃんは自由に樹を出入りできるっぽいし。
てことで無事黒蹴は意識を取り戻し、怪我も大したことはなかった。
『そういえば何でユーカは無事だったんだ?』
「おそらくだが」
俺の疑問には、銀が答えてくれた。
「以前火の大精霊の炎の中でも無傷だったのと同じ理由じゃないか?」
「それって、うちの氷の魔法ってやつ?」
ユーカが銀の言葉に続く。
「そういえば、なんか冷たい薄い板みたいなんが体を覆ったような気がしないでもないような?」
首をかしげるユーカ。
つまりユーカの氷魔法は、攻撃自動ガードってことか。
「全員無事でなにより!
ケモラー、黒蹴が動けるようになったら戻ってくるように。
皆は黒蹴の痺れが完全に取れるまでここで待機だ!」
話を見守っていた隊長の一声で、俺達は石碑に向かう。
ケモラーさんと黒蹴もしばらくして、プラズマに膜で覆ってもらって樹の中に戻ってきた。
「あ! ユーカが合格ってことは、僕は落ちたって事ですか!?」
外で絶望に包まれた声を出した黒蹴。俺はドンマイとしか言えないが、きっと次回があるさ!
だって雷の大精霊は黒蹴にベタ惚れなのだ。
きっと試練だって簡単にしてくれるって!
「え? 黒蹴は合格しているぞ」
プラズマのヒソヒソ声が聞こえてきた。
ん? どういう事だ?
疑問を感じて聞き耳を立てる。と、プラズマの得意げな声が黒蹴に告げた。
「だって、我を既に捕まえていたからな!」
え?
それって元々抱っこしてたから合格って事!?
「そ「あ「某「嘘『そんなんありかよ!!!』ょう!?」は!?」!?」り!?」
つい声を荒げて叫ぶと、数人の叫び声が被った。
え、誰?
クルっと振り返ると、ピンキー親衛隊(キラ子ちゃん以外)の3人とポニーさんが目を見開いていた。
レモンちゃん、顎が外れそうなほど口が開いてる・・・。
てか皆も聞き耳立ててたのか。
「もう! めちゃくちゃ苦労したのに! アタシめちゃくちゃ苦労したのに!!!」
「某の居合が通じぬ敵は初めてだったぞ・・・」
「あらあら2人も苦労したのね。私は勢い余って・・・」
「私もです。なにせ武器がオノなのでスピードが・・・」
「まあまあ4人とも、無事合格できたんだし愚痴はそれくらいにして。ね?」
石碑のある泉の前で文句たらたらな4人をなだめるピンキー。
なんか休日に家族と過ごす兵士さんを思い出すな、この光景。
とりあえず黒蹴の痺れが取れるまで、≪登録≫せずに休憩って事になった。
なんか今回は全員で同時に≪登録≫するのがいいらしい。
『ちなみに皆はどうやって捕まえた?』
特にする事もないので適当に話題を振ってみると、文句を言っていたメンバーとキラ子ちゃんがサッと目をそらした。
あれ?
そのまま誰も声を出さない。どうしよう『俺は餌で釣ったんだけどー!』とか言って笑わせようと思ったのに。
沈黙の重さに耐えきれなくなったのか、プラズマが黒蹴の腕の中からピョンと飛び降りて会話に続いてくれた。
「我が言おうぞ! まずそこの4人だがな!
レモンの火を避けている内に、サイダーが床に張った水に足を取られてな!
その水が我の分身を中に捕まえたまま、球体に形を変えてな!
そこに別の分身を追いかけていたポニーが地面ごと分身を水球体に打ち込んで閉じ込めていたぞ!
・・・あ、あとライムはポニーと同じ事をしようとして、地面ごと分身をこん棒で叩き潰・・・」
「ミンチにしてしまったわ・・・」
ライムさんは斜め下を向いて遠い目になった。
レモンちゃんが口元を押さえて後ろを向き、サイダーちゃんが慌てて背中をさすっている。
そのミンチを間近で見ちゃったんだろうな。
プラズマも同じように一瞬遠い目になりつつも話を続けた。
「あ・・・あぁ! 隊長の手づかみと、ケモラーの鞭さばきには驚いたぞ!
銀のナイフ裁きとユーカの諦めない心も見事だった!
ピンキーは狼のままでも生きていけそうだぞ。
後は・・・キラ子とニルフだが・・・うん、運も実力というし・・・な?
皆見事だったぞ。恥じる事のない十分な合格ラインだ」
俺たちのところだけ話を濁した感があったが、プラズマはこの結果に満足しているようだ。
だが後ろの黒蹴は不満顔だ。
まあ、分身捕まえてないのに合格だとか言われても、納得できないんだろう。
ずっとそんな顔してるのに、このまま放っといて≪登録≫っていうのもなんだかなー?
「なら僕はなぜ合格なんですか? 皆さんのように技術や工夫で分身を捕まえたわけでもないのに」
不満げな顔でプラズマを抱き上げ、問いかける黒蹴。
2人ともちょうど向かい合わせになっている感じだ。
プラズマはそんな黒蹴を見て軽く笑う。そして膨れた頬を前足の肉球でポンっと押し、
「ん? お前は既に我を捕まえたではないか。ここではない、東の国の森の中で」
「でもそれは! ・・・え? もり?」
「そう、あの森に建てられた見世物小屋の中で、だ。
我はあの時、本気で逃げようとしたのだぞ。それなのに、お前は我がどれだけ早く動こうとも、どれだけ爪や牙でお前を傷つけようとも諦めず、我を捕まえたのだ。
あれが我の命を案じた末の行動だった事も分かっている。
だから、黒蹴。胸を張ってこの合格を受け取ってほしい」
優しげな眼で黒蹴を見つめて語るプラズマの姿は小さな海龍の仔のモノだったが、纏う雰囲気は大精霊のモノだった。
そして黒蹴りは何も言わず。
いや。
声が詰まって何も言えないまま、力強く頷いた。
誰とも無しに拍手が始まる。
よかったね、おめでとう。そんな言葉が黒蹴りにかけられる。
俺は、そんな美しい光景を見て、
『最初から伝えとけよ、それ』
と思った。
*
「みんな、武器は持った!?」
少し興奮したような、ピンキーの声が泉に響く。
今回の≪登録≫は全員でするように、とプラズマが言ったため、今全員で石碑のある泉の淵に並んでいる。
「黒蹴、痺れは取れた!?」
「はい! 大丈夫です!」
「ご主人様、とうとう人間に戻れるのね!」
「ううぅ・・・どれだけこの時を待ちわびたか・・・」
『長かったもんな、犬』
ピンキーが目頭を押さえる。
もう1年以上犬のままだったんだないかな。
プラズマに「犬でも生きていける」とか言われてたし。
最近では犬のままで道具作りとかこなしてた。
ピンキーの涙をライムさんがふき取ると、ピンキーに向かってプラズマが頷いた。
頷き返したピンキーが声を張る。
「よし・・・、じゃあ皆、いくよ!
せーの!!!」
その声を合図に、全員が武器を泉に差し込んだ。
そのままプラズマの合図で、泉から距離を取る。
1歩、2歩、3歩。
10歩ほど離れた辺りでプラズマがサッと顔を隠した。
瞬間。
辺りが光に包まれた。
次回メモ:目がぁ!
いつも読んでいただきあいがほうございまふ!!




