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勇者だったのかもしれない  作者: ぷっくん
世界樹と黒いヤツ
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『ふぅ』


 目の前にはバチバチと音を立てる雷の世界樹。

 まるで世界に落ちる雷を全て集めて地面に刺したような、そんな巨大な樹の中に石碑はある。

 黄色い幹にさえぎられて、中の様子は全く見えない。

 っていうかこれ入れるの? 入れるとして大精霊の許可がないと感電死確実って怖くない?


『・・・よしっ』


 大きな深呼吸を1つして、手を恐々と近づけてみる。と、何の抵抗もなくスルリと手が中に入った。


『ん? これってなんていうか』

「幹があるという実感がないです・・・ね?」


 隣にいるキラ子ちゃんも不思議そうに、幹から手を出し入れしている。

 と、その瞬間。

 中で何かが手をギュッとつかんだ。

 そのまま中に引きずり込まれる!!!


『うわぁあああああ!!!』

「ぎゃあぁぁああああ!?」


 暴れる俺達!

 しかしそんなもん物ともしない力で引きずり込まれる! そして!


「お前たち、何ぐだぐだしてるんだ?」


 引っ張り込まれた先には、隊長が居た。

 あ、隊長が引っ張ってたのね。


「うわぁ。樹の中って広いんですね」


 キラ子ちゃんの声につられて周りを見回してみる。

 樹の中はまるで、黄色いガラス細工で作られた塔の中のようだった。

 上に登る階段はさすがにないが、空からオレンジの光が降り注ぎ、それが樹を通過して光のシャワーのように明るく中を照らしている。

 

「おそらくこの樹は、洞窟をぶち抜いて立っているんだな。来た道からは見えない側の天井に穴が開いてるんだろう」


 隊長が日光浴しながら説明してくれた。

 樹の中も結構広い。

 その辺の街にある広場よりも、下手すると大きいかもしれないな。

 その真ん中に石碑があった。そのそばに銀とケモラーさんが座っている。

 どうやら全員がそろうまで≪登録≫はしないらしい。


 そして幹の向こうの景色は、丸見えだった。

 まるでガラス窓から外を眺めるときのように。

 じゃあさっきの、俺たちのあの怖がり用は丸見えだったってことか。


『はずかしい・・・!!!』


 顔を両手で隠して座り込む俺の向こうでは、ピンキーが分身を捕まえていた。

 その様子はまるで、獲物を捕まえる狼そのものって感じだった。





 *




 月明かりが降り注ぐ樹の中。石碑の泉のそばにはピンキー親衛隊の4人が座っていた。

 

「あとは誰かしら」

「確かぁ、ユーカと黒蹴ですぅ」

「珍しいわね、あの2人が最後だなんて」

「まあ、某らも運に恵まれたようなものだったが」


 何故かレモンちゃんの視線を感じつつ、俺は外の様子に目を向ける。

 樹の外の神殿では、黒蹴とユーカが分身と追いかけっこをしていた。


「ちょっと由佳そっち行ったそっち!」

「指図ばっかりやのうて にーちゃんも頑張りぃや!」


 2人で追いかけるも全く捕まらない。

 それもそのはず、ユーカの方は何振りかまわず武器の杖をぶん回し続けてるだけだし。

 黒蹴にいたっては片手で魔銃を撃ちつつ片手には寝てるプラズマ(本体)を抱っこしたままだ。


「そのプラちゃんちょっと地面に置きぃや!」

「置きたいけど、爪がガッチリ服に食い込んでて取れないんだよ!」


 しかも残った分身は1匹。

 これもしかしてだけど、1人不合格のまま?


「なあこれ にーちゃん≪登録≫出来へんってこと?」

「なんで僕の方!?」

「え、妹の合格を兄が奪うん!?」

「兄を立てろよ妹!」

「妹を大切に! 妹を大切に!」

「ああああもうウルサあぁああい!」


 捕まえられなかった方の合格がどうなるのか、プラズマ(本体)が起きないので聞くにも聞けず。


「とうとう喧嘩を始めたぞあの2人」


 あきれたように隊長が息を吐いた。


 そんな2人をあざ笑うかのように、分身は大きく1つ欠伸をした。

 そしてそのまま世界樹の方向に歩き始める。

 2人は気づかない。


「何する気かな、あの分身」

『世界樹に帰る気なのかも?』

「え、それヤバくない!?」


 俺とピンキーの会話が聞こえたのか、ユーカがこっちを向いた。

 振り返る分身。目が合う2人。


「あ! 分身が走り出したよニルフ!」

『ユーカがそれを追いかけるぅぅぅ!!!』

「あーっと! しかしスピードは分身の方が上だあああ!

 やはり雷の大精霊の分身だからでしょうか解説のニルフさん!」

『きっとそうでしょうね!』

「しかし由佳もあきらめない! どんどん距離を詰めているー!」

『間に合うかぁああああ!?』


 突如始まった俺とピンキーの解説に、周りの皆も集まってきた。


「おおおっと、分身大きくジャンプしました! 

 着地地点にあるのは当然!」

「『世界樹だあああああ!』」

「間に合うか由佳!」

『逃げ切れるか分身!』

「おぉ!? 由佳も大きくジャンプをした!」

『そしてそのまま空中で分身をキャッチした!!?』

「キャッチしました分身! 兄妹の≪登録≫対決は妹に軍配が上がったあぁぁ!!」

『兄は事態に付いていけず呆然と立ち尽くしております!』


「なあ、あれ」


 銀が俺達の横に来て言葉を発した。

 声聞くの久しぶりな気がする。


『どうしたんだ銀』

「外に出て受け止めないと、このまま樹に突っ込みそうだが。オレ達はここから出られるのか?」


 あっ。


 全員でお互いの顔を見つめたその瞬間。

 ユーカが幹に突っ込んだ。







「・・・えぇええ!? 由佳なにやってんの!?」


 ようやく置いてけぼりからよみがえった黒蹴がこっちに走ってくるのを尻目に、隊長とケモラーさん、ポニーさんが急いでユーカの容態を確認していた。


「大丈夫ですかぁ!? ユーカ!」

「隊長、損傷は見当たりません」

「念のため回復を。直前で分身を捕まえていたが、シールドは間に合ったのか?」

「キュー・・・」


 隊長の疑問に、申し訳なさそうな声が響く。

 うつぶせに地面に倒れたユーカの下から這い出てくる分身を見て、隊長が目をむいた。


「大変! シールド張られてないんじゃないかしら!」

「ユーカ死なないで!!!」

「イヤアァァァァ!」

「落ち着きなさいレモン、キラ子!」


 皆がパニックになりかける中。


「あーびっくりした」


 むくりと起き上がるユーカ。

 その向こうで、幹に突進した黒蹴が黒焦げになっているのがちょっと見えた。

次回メモ:ゲットだぜ!


いつも読んでいただき、ありがとうございます!

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