雷の世界樹の元へ
「そうだ。我はずっとここに居た」
あたりに響いた聞き覚えのない声に、皆が一斉に臨戦態勢になる。
俺はハープを構えて周りを見回してみたが、自分達以外には誰もいない。
ピンキー達もきょろきょろしている。
そんな中、銀が一点を見つめてるのに気が付いた。
彼の目線の先には。
『黒蹴?』
その黒蹴は木の根元に座ったままで、まだ懐に居るプラズマを見つめている。
黒蹴の横に立つユーカも一緒にプラズマを凝視中。
周りの騒動そっちのけでペット愛でているとかどんだけ!
と思っていたら。
「え。マジで?」
ユーカの声がした。何故か少し震えている。
耳を澄ませて謎の声の出所を探っていた皆の耳にも届いたようで、一瞬で辺りに静寂が訪れた。
神殿に、樹が放つバチバチという音が響く。
そして。
「そうだ。我だ。よくぞ封印を解いてくれたな。おまえたち」
少し甲高い声がユーカの言葉に返事をした。
それを聞いた瞬間。
プラズマを抱っこしていた黒蹴が、座ったまま真後ろに倒れた。
*
『えーっと、あんたが雷の大精霊ってマジですか』
「マジだ。我は雷の大精霊。またの名を、海龍と申すものだ!」
俺達に見下ろされる形でふんぞり返っているのは、海龍の仔・プラズマだった。
どうやらこの仔が行方不明になっていた雷の大精霊らしい。
今の所、自称だけど。
そしてその(自称)雷の大精霊によると。
謎の声が響た時プラズマを守ろうと抱きしめた黒蹴だったが、その声が懐から聞こえてくることに気付いて驚きすぎて気絶した。
ちなみに今もまだ目を覚ましていない。
神殿出入口側の隅っこの方で寝かされて、魔法で出した氷水を頭に当てられている。
こういう時、魔法って便利だよね。
看病をしているのはキラ子ちゃんとユーカだが、何故かユーカは大爆笑しながら氷水を変えていた。
ふと足元の雷の大精霊を見ると、彼も黒蹴に目を向けている。
「あまり驚かさないようにと、静かに声をかけたのだがな。黒蹴には悪い事をした」
雷の大精霊が黒蹴に向ける、心配そうな瞳。
それに気付いた隊長が話を振った。
「雷の大精霊といえども、人間に情は沸きますか」
「まあな。少しここを訪れるだけの者ならばそう沸くことも無いが黒蹴は別・・・あっ」
すぐに後ろ足で首元をカキカキして、さっきの発言をごまかそうとする大精霊。
なんていうか、うん。
小動物が照れてるのってかわいいよね!!!
「なんだその皆してこっちを見る『かわいいな』って視線は!
照れてないわ! あったかい寝床とおいしいご飯と黒蹴が好きなだけだ! ・・・ああぁ!!!」
そう言って黒蹴の寝てる所に走って行く雷の大精霊。
本音がダダ洩れ!
超かわいい!!!
「かわいくないもん!!!」
そう言って雷の大精霊は、黒蹴の懐に引きこもった。
結局雷の大精霊が懐から出てきたのは、黒蹴が目を覚ましてからだった。
事情を聞いて目を見開く黒蹴に頬ずりされた雷の大精霊は、
「今まで通り、皆にはプラズマと呼ばれたい」
と、照れたように言っていた。
「さて、皆には説明しなければならないな。
何故我が海龍の仔として海に漂っていたのかを」
「海に漂っていたんじゃなくって、見世物にされてましたよね」
「シッ。そこはそっとしておいてあげて黒蹴!」
樹の前でランチボックスを広げて簡単な昼食を取る中、プラズマが真面目な顔で話を切り出した。
黒蹴の入れた茶々をピンキーが窘める。
それを寛大な表情で頷いて流す雷の大精霊・プラズマ。
口元に精霊石の食べこぼしが付いて無ければ、もっと様になってたのにな。
その食べこぼしまみれの小動物が荘厳にコホンと咳払いを1つ。
そして。
「我は・・・」
話はすごく長かった。
もうめんどくさくって気づいたら寝てて、ピンキーにどつかれた。
結局、ピンキーが簡単に纏めてくれたので、それを話そうと思う。
以前暴れていた海龍は、雷の世界樹が結界に閉ざされて理性を無くした雷の大精霊だった。
漁師村から船が出なくなった後、何者かによって結界が貼られた。
勇者君が倒した海龍は実はプラズマ。
デカい海龍が暴れて怪我をした仔ではなく、勇者君との戦闘で力を失ってボロボロになり、見世物小屋に捕まっていた。
古い書物にあったように精霊石を餌として食べていた為、理性を若干取り戻しつつあった。
きっと昔も、海龍もとい雷の大精霊が力を失う事があったのか。
あと。雷って水に溶けるんじゃない? と思ったが、プラズマ自身に「水の精霊とは仲がいいから」って言われた。
なんかあるんだろう。うん。
水の大精霊達が気付かなかったのは、実際会うのはコノ姿ではなく、なんか精神的なうんたらかんたらでの通信が・・・グゥ。
「ニルフ! ほらニルフ!
まさか、まとめた話を読みつつ寝るとは思わなかったよ!」
気が付くと目の前には肉球。
ピンキーに踏まれていた。
どうやらまた、難しい話になりそうな所で寝たっぽい。
なにこれもう呪いじゃない? そういう呪いじゃない?
「ほんとにもー!」
憤慨するピンキーを尻目にもう一度紙に目を通す。まあつまり、結局のところ。
『とりあえず、プラズマと戦って勝てば登録できるんだな』
俺達は、目の前の海龍を見下ろした。
全体的にとってもちっちゃい。その中では大きいキラキラしたつぶらな瞳が、挑戦的にこちらを見つめているのに。
背が小っちゃいからか、必死に顔を上げて目線を合わせようとしている。小さな生き物が、足元でぷるぷるしている。
頭でっかちだから首が辛いんだろう。
「戦えませんよぉぉおおお」
黒蹴が泣いた。
「さすがにオレも、力の差のある相手を一方的にというのは」
銀も気まずそうな表情だ。
皆を見回すと、やはり同じようにやり辛そう。
全員でかわいがってたもんね、プラズマ。
怪我してボロボロの時から世話してたもんね、プラズマ。
「やっぱり・・・ですねぇ」
「そうよね。さすがに戦うって言うのは・・・」
皆の様子を見ていたプラズマは自身の姿と皆を見比べてため息をついた。
そして。
「ならば、我を捕まえたらそなた等の勝ち、というのはどうだ」
1つの提案をした。
「捕まえるっていうのは、こうすればいいんですか?」
話を聞いた黒蹴が、首を傾げたままプラズマを腕で優しく包み込む。
「うむ。我の世界樹の石碑に≪登録≫すると手に入る中級魔法は、電光石火の魔法なのでな。
それにちなんでみたのだが、どうだろう」
包み込まれたまま、誇らしげに胸を張るプラズマ。
ポニーさんがその頭をグリグリ撫でつつ弾んだ声を出す。
「なるほど、それなら傷つける心配をしなくても済みそうですね!」
気持ちよさそうに目を細めていたプラズマは、さらに。
「しかもな! こうする事も出来るのだぞ!」
そう言って体を震わせた。
すると世界樹がザワザワと音を立てて、ため込んだ電気を暴発させて空気中に放出させる。
それらは神殿の天井すれすれまで舞い上がり・・・
『どうわぁあああ!?』
バボーンという音と共に、俺の目の前に落ちた。
慌てて真後ろに飛ぶと、目の前の地面には焦げ跡。
『あぶ・・・あぶ・・・!!!』
「発生源は雷の世界樹か」
銀が、冷静に分析してて泣ける。
涙目になった顔を袖で拭って目を開けると、目の前にはプラズマが居た。
いつの間に黒蹴の腕から抜け出してきたんだ?
『あ、もしかして俺の事を心配して・・・!』
目頭が熱くなり、もう一度袖で目を拭く。
そして目を開けると。
2匹に増えていた。
次回メモ:ぶんぶぶん
いつも読んでいただきありがとうございます!
中々話がたまらない




