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勇者だったのかもしれない  作者: ぷっくん
世界樹と黒いヤツ
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雷の世界樹

 *~~~~~~~~~~

 真っ暗な中に、男の姿が浮かび上がる。

 彼は右手を顔に当て、すすり泣く。

 

「世界はボクを裏切った。

 だからボクは世界を滅ぼす事にするよ」


 俺はそれを静かに眺める。








 真っ暗な中に、男の姿が浮かび上がる。

 彼は右手を顔に当て、楽しげに笑う。


「世界はボクを愛してくれた。

 だからボクは世界中を幸せにしたい」


 俺はそれを静かに眺める。








 最後に俺に向かって一筋の光が差し込み、俺の姿が闇に浮かび上がる。

 俺達は向かい合うように立っていた。

 2人の男は、同じ顔で 俺に問う。


「「君は、世界をどうしたいの?」」


 そうして2人は右手を降ろす。

 隠されていた顔の右側には、大きな火傷の跡があり。

 俺は無意識に顔に当てていた右手に気付いて手を降ろす。

 指先にガサついた感触。

 かまわず俺は2人に答える。


「俺は、世界を・・・」

 *~~~~~~~~~~~~~



『んんびゃぅ~。せかいうぉ~』

「起きなよニルフ。そろそろ着くよ」


 顔を柔らか固い物でむにっと押さえつけられる。

 一瞬夢から覚めかけるが、緩やかに揺れるベッドが心地よくて目を閉じた。


『やだぁ”-まだ起きたくない”ぃぃぃい”~ぐがー』


 超眠い。

 抵抗の意味も込めて、顔を押さえつけてる何かをギュッと掴んでスンスン嗅ぐと、ぽっぷこーん(ピンキー考案のお菓子)の匂いがした。

 すんすんすん。ぐぅ。


「ギャーやめてー臭いを嗅がないでー!

 って寝ながら腹が鳴っているよ?」


 なんかピンキーの悲鳴と共に手元のぽっぷこーんが激しく抵抗する。

 不思議に思って 目ヤニでばりっばりになった目を開くと、掴んでいたのはピンキーの前足だった。


『・・・』

「・・・」

『スンスンぐぅ・・・』

「肉球嗅ぎながら寝ないで!?」


 尻尾でチョップされた。




「なんの夢見てたの?」

『なんか・・・変に芝居がかった夢だった・・・』

 俺は欠伸あくびをしながらピンキーに続いて大型船のタラップを降りる。

 降りた先は少しさびれた漁村。

 俺達が港に降りると、後ろのタラップが回収されていった。

 俺達、最後だったっぽい。


 先に船から降りていた銀達の所では少し日に焼けた青年が駆け寄り、話をしていた。

 青年は、英雄に会ったような表情でペコペコと頭を下げたり握手をしたりしている。

 あいつは確か・・・。

 少し離れて観察していると、そいつが俺に気付いた。


 そいつは俺を見てパッと顔を明るくし、そして。


「おうニルフ! 久しぶりだな!!!」


 超フランクに挨拶してきた。


『久しぶりだな漁師Jr。なんで俺にだけ態度が違うんだ?』

「は? いつも通りだろ?」

『そうじゃなくって。俺も銀達の仲間なんだけど!』

「ニルフを敬うのはちょっと・・・」

『なんでだぁーーー!』


 俺が四つん這いで項垂れていると、漁師Jr君が大笑いしながら背中を叩いてきた。


「はっはっは! 冗談だって!

 お前の事もすげえ奴だって思ってるよ!

 ただ、急に態度を変えるのも変だろ?」


 Jr君はニカっと笑うと、そのまま右手を差し出してくる。

 俺がその手を右手でガシッと掴むと、Jr君はそのまま力強く引っ張り上げた。

 俺達はそのまま固く握手をして再会を喜び合い、先ほどとは別の中型の船に乗り込む。

 空には夕日が赤く輝いていた。

 この分だと、目的地に着くのは明日の朝だな。

 船で約半日。

 今から行くのは、雷の世界樹のある島だ。






 雷の結界が薄れていると、漁村から連絡が入ったのは3日前。

 急いで周辺の石碑に転移して駆けつけたら、西の国の漁村方面行きの港町で、連絡をくれた中年紳士のギルド職員(漁村に常駐中。東の国から来るはずの俺達を迎えに西の国に来たところ)と鉢合わせた。

 来るのが早くない!? ってずっこけるギルド職員に、レモンちゃんが

 

「元々西の国に居てぇ。え? 東の国に居たって? 連絡ミスじゃないですかぁ?」

 

 ってごまかしてたな。

 そのまま目を白黒させるギルド職員と一緒に船に乗り、漁村に付いてすぐにギルド職員さんはギルドに戻って行ったそうだ。

 全てをJr君に託して。


 ちなみに俺はその間、船の中でパンを軽くかじっていた。

 そのせいで船を降りるのが皆より若干遅くなったけど、反省はしていない。

 うん、反省はしていない!!!


「登り始めた朝日に向かって1人でガッツポーズしてる所悪いが。

 まだ着くのは先だぞ」


 世界樹へ向かう中型の船のロープを操作しつつ、Jr君が海の向こうを指差す。

 その先には島影。それがだんだん大きくなってきて、無事上陸した頃には太陽がすっかり顔を出していた。



「じゃあおれは船で待機してるからな!」


 浜辺で手を振るJr君と別れ、俺は自分の右手を見る。

 さっき握手したJr君の右手には、真新しい細かな傷が沢山ついていた。

 村からも魚の焼けるおいしそうな匂いが漂い、港には魚の詰められた箱がいくつも置かれていた。

 どうやら漁は順調な様だ。


 クロムが居なくなって漁師(父)は寂しがってるそうだが、村は以前と比べると格段に良くなっている。

 後は雷の世界樹と大精霊を、なんとかするだけだな。


 俺は腹に力を込めて、森の小道を皆に続いた。


 山に続く森の小さな小道の途中に、透明の膜が張ってある。

 これが俺達の行方を阻んでいた結界だ。

 以前は普通に歩くだけでは気付かなかったが、もう何か月もほったらかしだったため埃っぽくなって近寄れば見えるようになっていた。


「きゅっきゅっきゅ~」

「にーちゃん何書いてるん」


 向こうの方では黒蹴が結界を指でなぞっている。

 指でなぞられた所だけ埃が取れて、文字が浮かび上がった。

 読めないけどね!(魔力を込めてないニホン語なので)


「なんかプニプニしてますね、結界」


 指の埃をフッと息で払いつつ黒蹴が言うので、俺も触ってみる。


『ホントだ。前は板みたいに固かったのに薄い膜みたいになってる』


 指で押すと、その分結界が伸びた。

 これなら力ずくで押せば破れそうだな。


「皆で押してみよう」


 ピンキー親衛隊が全員で剣を構え、ギューっと押している。が、


「思ったより刃が通ってませんねぇ」

「魔法もダメですね。弾力で押し返されてる感じがします」


 遠くからその様子を観察していたケモラーさんと、少し離れて魔法を放っていたポニーさんも帰ってきた。


「上はどうだ?」

「見テクル!」


 銀の一声でハーピーが空高く舞い上がる。が。


「ダメダ銀! 前ヨリモ上空ノ風ガ強クナッテテ・・・ウワ!」

「ハーピー!」


 横向きに飛ばされたハーピーが結界に叩きつけられる!

 焦った銀が叫ぶ!

 が、ぼんよよぉ~んと結界がしなってハーピーを優しく受け止めた。

 そのまま滑り台の様にビリビリと降りてきたハーピー。


「大丈夫ですか!?」


 ポニーさんと銀がいち早く駆けつける。


「ウン! ネエ銀、心配シタ?」


 上目使いで見上げるハーピーからサッと目を逸らす銀。

 すごく珍しい銀の行動に狼狽するポニーさん。


 だが俺達の目線をくぎ付けにしたのは・・・。


『ハーピーの通った跡、結界破れてね?』

「エ?」


 どうやらハーピー、結界の上に着地した時に足の鉤爪を結界にひっかけて、そのまま破りながら降りてきたらしい。

 なんかビリビリ聞こえると思ったんだよ。

 とりあえず道は開いた。


 デカいカーテンの様になった結界をめくって先に進む。

 そのまま道沿いに進んで行くと、山の麓に小さな祠があった。

 中を覗くといくつかの色のついた透明な石と共に、若葉の髪飾りが置いてあった。

 ここがクロムたちが精霊石を供えた祠のようだ。

 俺はソッと髪飾りを取って、優しく埃をぬぐった。

 レモンちゃんと目が合う。

 そんな複雑な顔しなくたって、泣いたりしないよ。

 そのまま懐に入れて、皆に続いて山に入った。


「他の世界樹の会った場所と比べて、野生動物以外出てきませんね。雷の大精霊ってやる気が無いんですかね」

「前に来た時には、ちゃんと黄色い石で出来た蛇やゴーレムが出たぞ。

 これは大精霊の力が行き届いてないのか」


 山道で手ごたえの無い生身の魔物ばかりに襲われ、欠伸をしつつ黒蹴が疑問を飛ばす。

 それに答えたのは隊長。以前来たことがあるって事?


「うん? まあな。仕事だ!」


 ガハハっと隊長が笑った所で、山の頂上近くにぽっかりと空いた洞窟に着いた。

 洞窟には大きな石で出来た扉が付いており、ピンキーが近づくと自動的に開いた。


 俺はそれを眺めた後、山道を振り返る。洞窟から見える山の景色は格別だ。

 棘トゲして険しい山道だったけど、魔物が弱かったから全然苦労しなかったな。

 ハープもほとんど使わなかった。

 というか、弱い魔物(というか野生動物)ばかりだったので、実際に戦ったのはキラ子ちゃんやユーカだけだったな。

 実戦経験を積むためらしい。

 2人とももう俺以上に前衛は上手いんだけどね?


 開いた扉の向こう、広い神殿の奥には黄色い大きな樹がそびえ立っている。

 まるで雷を逆さまに地面に突きたてたかのような姿をしていて、時折天井や地面にバチバチと火花を飛ばしている。


 そしてその前にちょこんと座っているのは。


「プラズマ!?」

「きゅ~」


 叫ぶなり駆け寄る黒蹴。その後を追う俺達。

 神殿の床からは石畳を突き破って、あちこちから黄色い花が咲き乱れており。

 

 黄色い花畑に膝を付いてプラズマを抱き上げた黒蹴は、そのままギュッと抱きしめる。

 まるで大切な家族が見つかった時の様に、優しくその鱗を撫で回した。


「きゅ~♪」


 くすぐったそうに、しかし嬉しそうに鳴くプラズマ。


「あの後、ずっとここに居たのかな?」


 小さく砕いた精霊石を食べさせる黒蹴を眺めていたピンキーが疑問を口にする。

 と、


「そうだ。我はずっとここに居た」


 それに答えたのは、知らない声だった。

次回メモ:雷


いつもよんでいただき、ありがとうございます!

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