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勇者だったのかもしれない  作者: ぷっくん
世界樹と黒いヤツ
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冬祭り

 それから数日後、ニルフさんが帰ってきた。

 いきなり姿を消してから2か月。


 その姿は、以前よりも断然 たくましく


「なってませんね」

『何を期待してたの』


 別段変わらず、いつも通りのニルフさんが座っていました。

 世界樹島の冬祭りの祭壇横の神官席に。

 

「なんでですか!」

『何が!?』


 呆けた顔のニルフさん。

 これ本当に分かっていない顔だ。

 僕は軽く息を吐く。


「いやだから、どうしてそこに座ってるんですか?

 そこ、神官の座る場所ですよね」

『うん。だから神官になったんだ』

「なんでですか!?」

『え?! 俺書き置きしたよね!?

 神楽の演奏者になってくるって』

「え?」

『え?』


 お互い顔を見合わせていると


「にるふ~」


 ハーピーさんが駆け寄ってきて、ニルフさんに紙切れを渡した。


「コレ、イツモノ集合部屋ニ落チテタゾ!

 にるふッテ書イテアッタカラ、拾ッテオイタ」

『あ、それだ書き置き』

「あらぁ」


 書き置き、ハーピーさんが拾ってた。

 ≪ぷらいばしーのほご≫の為に中は読まず、ニルフさんに会う日までしっかりと持ってたらしいです。





 結局ニルフさんがこの3か月の間、世界樹島の神官の所に乗り込んで、祭囃子の修業していたそうだ。

 神官になった訳では無いらしい。

 若葉さんに会えないまま急に姿を消したから何をしているか心配していたけど、杞憂で良かった。

 


 ちなみに僕が聞きだした、3か月間のニルフの行動のダイジェスト。

 最初→ 『若葉を楽器で元気付けたい。そうだ世界樹島の街や樹の近くでハープを弾こう。聞きつけて出てくるぞー』

 1週間→ 『あれ、全然会えない。じゃあ笛に変えるか』

       『なんで出てこないんだよ。てかなんで俺は若葉に会うのに必死になってるんだ?

        あー、辞め辞め。いやでも辞めるのも癪だよな。しょうがないもう少しやってやるか』

 2週間→ 『なんで出てこないんだよ! ここまで来たら意地だ。絶対音楽で若葉をおびき寄せてやる』

       『なんか他にも笛の音が聞こえて来たぞ。聞いたら祭囃子の練習らしい。

        そうだ! あの場に乗り込んで、祭囃子の中に俺が居たサプライズ作戦ひゃっはー』

       『祭りの神楽(祭囃子と思っていた音楽)の演奏者は既にオーディションで決まっているらしい。

        そいつより上手ければ地位奪えるんじゃね?』

 3週間→ 特訓

 4週間→ 神楽の笛担当者に「お前には負けたゼ!」と言わしめる。

 そこから当日まではずっと神楽の練習とか禊的な物とかをしていたそうだ。



 僕、てっきりニルフさんがショックのあまり神官にでもなっちゃったのかと思ったよ。

 そんな僕らの思いを知る由もなく、ニルフさんはハーピーと由佳にこの3か月の間の武勇伝を喋りまくる。



『実は笛の担当者、例の広場での事件の時にも笛を演奏していたらしくってさ。

 命の恩人って事で勝負を受けてくれたんだ。

 「ただし評価は別だからナ! 負けねえゼ!」って言ってたけどね!』


 対決して勝ち取ったらしい笛の演奏者の席で、彼は自慢げに胸を張っていた。


 ちなみに、神楽の演奏者たちは元々、世界から集まった演奏自慢の人の中から選ばれるらしい。

 選ばれた人は1年間神楽を演奏するのがならわしだそうだ。

 ・・・僕らの旅には関係ないからって、この辺の説明ほとんど聞いてなかったなー。


「君たち、そろそろ舞の準備をするから、一般用の席に戻りなさい」


 ボーッとしていると、いかにも神官って風格の人に肩を叩かれた。

 ニルフさんもいそいそと演奏の準備を整えだしたので、がんばってくださいと3人で声をかけてその場を後にする。

 遠くから見たニルフさんの笛を持つ手は、少し震えていた。









 神官が何かを読み上げ、広場に静けさが訪れる。

 そこに、しめやかな音楽が響き始める。

 世界に染み入るような音の中、緑色の長い髪をシンプルな巫女服に流し、きらびやかな装飾品を纏った女性が現れた。

 女性は広場に組まれた舞台に登り、静々と、そして艶やかに舞を始める。

 広場に居る誰もがその姿に目を奪われ、感嘆の ため息をついた。



 3か月ぶりに壇上に姿を現した巫女・若葉さんは普段通りのままだった。


「でも、舞が前より上手くなってますよね」

「そうだね。あとさ、ニルフがあんなに真剣になっている所を初めて見たんだけど」


 僕の問いに、ピンキーさんが答える。

 何故かライムさんの頭に乗っかってるよ。


 ニルフさんと別れた後、広場に集まっていた銀さんやピンキーさん達と合流した僕達は、一般用観客席で一番舞台に近い場所で舞を見ていた。

 レモンさんとキラ子さんが席を取っててくれたらしい。


「アタシ達に感謝しなさいよ!」

「えっへんですよ!」


 そう言って胸を張る2人は、ピンキーさんに褒められて恥ずかしそうにしていた。

 あれ? そういえばキラ子さん、最近はキラ男の事をほとんど話題にしなくなったなぁ。

 

「幼女キラーってやつか」


 2人を見ていた由佳が何か知らない単語を呟いた。

 そんな悪そうな顔してると、眉間に皺が出来るぞ。

 僕は頭の端っこでツッコミを入れ、目線を舞台に、その隣の演奏者席に戻した。

 銀さんも、他の面々も久々に見るニルフさんと若葉さんの姿を見守っている。



 舞の間、ニルフさんは普段見ない真面目さで笛を演奏していた。

 そして舞が終わり、舞台のたきぎに炎を灯した若葉さんが舞台から降りる。

 その時。



『若葉ああぁぁぁあぁあ!

 俺! ずっと傍に居たから!

 お前に届いてるか分からなかったけど、ずっと、ずっと弾き続けてたんだ!

 だから・・・!』



 普段は伝えたい相手にのみ言葉を送っているニルフさんの声が、広場中に響き渡った。

 広場中の視線が集まる中、ニルフさんは若葉さんの元に駆け寄ろうと走り出す。

 すぐに、動きに気付いた神官達に取り押さえられてしまったが。

 だが、ニルフさんは叫ぶのを辞めなかった。

 

 一瞬あっけにとられた僕達も、全員で若葉さんに声をかける。


 しかし。



 僕らの方には一瞬ちらりと目を向けたが、表情一つ変える事無く、若葉さんは神官たちの待つ奥の建物に戻って行った。

 彼女がこちらに向けたのは、なんというか、知らない人を見るような目。

 そしてニルフさんへは、目すら向けていなかった。

 まるで道端で騒ぐ若者を見た後の様な、煩わしい物を避けるような顔をして、彼女は建物に入って行った。

 神官達に押さえつけられながらもずっと、若葉さんに呼びかけ続けていたニルフさんが、糸の切れた人形のように地面に崩れ落ちた。







 ぐったりとふさぎ込むニルフさんを神官たちから引き取ると、ニルフさんがポツリポツリと話し始めた。


『若葉の居る建物には、身辺の雑務をこなす専用の選ばれた神官しか入れないんだ。

 今までは若葉の周りを守る神官たちに「若葉が紅葉さんの後を継ぐ巫女になる為に必要」、そう言われて入れなかったんだけど・・・。

 まさか紅葉さんの後を継ぐのに必要な事って、俺達一般人と関わった記憶を無くす事だったりしちゃう?』


 なんとか茶化そうとするニルフさんは、泣きそうな顔で小さく笑う。

 しかし僕は、その顔を直視できなかった。

 消え入りそうな小さな声は、皆の祭りの成功を祝う声にかき消されていった。




 今年最後の祭りが終わり、世界はまた新たな一年を刻みだす。

 そして演奏者も、また選び直される。

 だけどニルフさんは演奏者にはならないらしい。


『若葉の元気な姿が見れたから』

 

 そう言っていつも通りに笑うニルフさんの手にはハープが握られていて。

 こうして僕達のPTに、ハープ吟遊詩人のニルフさんが戻ってきた。

次回メモ:雷


いつもよんでいただき、ありがとうございます!

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