甘い物
あけおめ ことよろ フゥーー!!!
「めりーくりすます!」
「なんそれー!」
「なに それ」
「なんだい、それ」
ある大陸のある町にある普通の、少しだけ大きめの一軒家。
窓という窓が全てカーテンで閉め切られた家の中で赤々と燃えている焚火の前に座った優男が叫ぶと、その両隣に居る少女と犬とキラキラした男が首を傾げた。
ちなみにその焚火は、普通の一般家庭のリビングの床に直接設置されている。
たぶんこれ、床は修復不可能なほど焦げ跡がついているな。そう思いつつも家主である優男は、自分に黙って焚火を行っていた3人の問いに優しく答える。
「最近裏社会の魔王って呼ばれてる人が広めてる、冬のお祭りらしいよ」
「「「魔王?」」」
「そう、裏社会の魔王。なんでもここ1年ほどで裏社会を牛耳った、相当な実力者らしいよ。
ピンクの長い髪にドレスを着た美しい女性とか、あどけなさの抜けきらないくらいの妙齢の女性とか、背の高い若い男とか色々聞くけど、正体は謎に包まれているって話、知らない?」
「ピ・・・ピンクの髪? まさかあの方じゃ・・・」
「プックしらなーい」
「ジジちゃんもー!」
「そうか、知らないか」
もこもことした犬が両手を上げて叫び、少女の声も元気よく響く。
何故かキラキラした男(略してキラ男)は戦慄したように全身をブルリと震わせ、腕をさする。
その腕にはいくつものミミズバレの様な跡が残っていた。
「あー、キラ男さんが考えてるのは別の人かな。
ズィ・・・ジジさん達が師匠って呼んでるあの人とは別人だよ」
ザンアクロスの言葉を聞いて誰の事を思い出したのか、キラ男の表情が恍惚とする。
そのまま奥の部屋に続く廊下に飛びだして行ったキラ男に苦笑いしつつ、ザンアクロスはキッチンに立ち、テキパキとお盆に何かを並べて行った。
「キラ男さん、行っちゃった。まあいいか。
メリークリスマスっていうのは、その人が広めた南の島群の文化らしいんだけどね。
なんか、特別な甘い物を食べる日らしい。だから、こんなものを用意してみた!」
2人の前にバッと差し出されたお盆の上には、一口大の丸くて黒い塊が沢山積まれていた。
「なにこれー?」
「す ご く
あ ま い !」
ザンアクロスの説明を聞く前に、早速パクつく2人。
既にプックの口の周りは、毛にお菓子が付いてベッタベタだ。
「メリークリスマスを教えてくれた店主が『甘い物と言えばコレだろう!』って進めてくれたやつ。
最近考案された餡子っていうお菓子らしい」
「へー、あんこ おいしい!」
「ジジちゃん 焼く!」
「わたしもいただこうっと」
両手に丸めた餡子を持って毛を餡子だらけにしながら食べるプックと、焚火で軽くあぶって食べているジジを見たザンアクロスも早速手を付ける。
その時。
「話は聞かせてもらった!」
バーン! とドアの音を響かせて入ってきたのは、どこぞの王子の様な見た目の青年、クロムだった。
「ザンさん、その知識は間違ってる! 僕が聞いた掛け声は『あけましておめでとう』。そして食べるのは白くてモチモチしている物。
つまり、これだよ!」
クロムが懐から取り出したのは、一口大の小さい艶やかな丸い食べ物。
早速パクつくプックとジジ。
「なにこれおいしい!」
「もちもち してる!」
それを見たザンアクロスもゴクリと喉を鳴らして
「わたしも!」
一緒に手を伸ばした。
「餅って言うらしいんだけど、って、まって僕もまだ食べてない!」
一瞬にして半分に量を減らした餅を見て焦ったクロムも、3人に混ざって食べ始める。
しばらくリビングには咀嚼をする音だけが響いていた。が、
ザ「なんか味に飽きてきた」
プ「ザンさんもー? プックも飽きたー」
ジ「ジジちゃん 焼く」
ク「ジジさんの焼いた餅に餡子つけるとメッチャおいしい」
プ「マジで? クロムさんマジで?」
ク「マジマジ。プックもやってみ」
プ「おいしい!!!」
ザ「なんか喉乾いたね」
ジ「ジジちゃん お湯持ってくる」
プ「プックてつだうー。わっとっと」
ジ「あんこが お湯に!」
ザ「・・・見事に溶けたね」
ジ「ズズズ・・・。 お い し い」
ク「これおいしいね。もっと作ろう」
ザ「お湯と鍋持ってくるね」
ク「そういえば家の床に穴を掘って、焚火専用の場所を作ってる地域があるらしいよ」
ジ「なん
だと」
プ「・・・ほう?」
ザ「便利そうだね」
ク「ザンさんありがとう」
プ「餡子全部入れたった!」
ザ「お餅に付けて食べる分が!」
ジ「なん
だと」
プ「焼いた餅食べつつ飲もうぜ!」
ザ「よそ見しながら焼いてる餅取ったら危ない!」
プ「アツッ!」
ク「ちょ、こっちに餅飛んできたアツッ」
ジ「クロムさんの レシーブで 空中に 餅が とぶ!」
ザ「そのまま沸騰する餡子入り鍋にドボン!」
プ「鍋から 大量の餡子入りお湯が 4人に降り注ぐ!!!」
「「「「あっっっっっっっっっっっつうううううう!!!」」」」
ジ「焚火 きえた」
ク「餅が冷めちゃう!」
ザ「鍋に入れちゃおう!」
プ「あ、この焦げたお餅のおこげが餡子汁に良い感じに溶けててウマー」
こうして この世界に新たな料理『お汁粉』が生まれた。
ク「そういえば、居候のキラキラした人どうなった?」
ジ「湯上りの ししょうを見ちゃって 一目ぼれ」
プ「そのまま師匠に襲われたけど ヘタレった」
ザ「ヘタレは恋愛対象になりませんわって言われたけど諦めずに食い下がって、この前恋人になる条件を出されてた」
ク「どんな条件」
ジ「ししょうの なまえ あてる!」
プ「だからプック達、名前言っちゃいけないの!」
ク「面白いことになってるね」
プ「いや、ぶっちゃけメンドイ。私生活に支障が出る。キラ男がしつこすぎて師匠も疲れてきてるから早く終わらせてあげたい」
ク「辛辣wwww」
ザ「あ、2人にもお餅持っていかなきゃ」
家の奥の長い廊下の先の部屋。
うっすらと開いたドアからは、長い髪を束ねたスタイル抜群の女性の影とキラ男の悲鳴が、光と共に漏れていた。
勢いで書きました反省はしていない!




