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勇者だったのかもしれない  作者: ぷっくん
世界樹と黒いヤツ
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黒蹴の回想

「回復ってどんな感じでなってるん?」

「どんな感じって・・・」


 それは由佳の突然の質問から始まった。

 ここは東の城のいつもの食堂。今は夕食。

 向かいの席に来た由佳は、朝ご飯のシチューの人参をぐちゃぁっと潰している。


「だって腕が切れたとして、すぐにうにょーんって戻るやん。うにょーんって」

「うん」

「でもな・・・」


 潰した人参に風の初期魔法を掛ける由佳。当然人参は潰れたままだ。


「ほらな! 人参は回復せえへんねん!」

「煮えてるからじゃない?」

「じゃあサラダやったら回復するん?」

「新鮮だったら回復したけど」

「じゃあ野菜増やし放題やん」

「僕もそう思ったけど、ちぎった箇所にくっついただけだったよ」

「え、じゃあ動物に麻酔かけて食肉とって回復させてエンドレスで採れるとかそんなん無し?」

「えぐい事思いつくな!?

 たぶんそれも無理・・・じゃないか? やったこと無いけど」

「なんや、ヘタレやな」

「ヘタレじゃなくない!?」


 ずっと喋っていると、食堂のおばちゃんに睨まれていた。

 早く食べてしまおう。

 一気にシチューを掻きこみつつ呟いた。


「そういえばしっかり考えたこと無かったな」


 こういう時は、ピンキーさんに聞こう!





「え? 回復のメカニズム?」

「ピンキーさんそういう事に詳しいですよね!」

「教えてー!」


 部屋を訪ねると、椅子に座ってお茶を啜るピンキーさんを見つけた。

 器用に両手の肉球で華奢なカップを挟んでいる。

 あ、クッキー置いてある。

 

「バリッボリッ」

「聞く前に食べてる!?」

「おいひいでふね」

「口からボロボロ落としなや、もー」


 床に落ちたクッキーのカケラはベリーがおいしくいただきました。


「キャン」

「まったくもう。えっと、回復のメカニズムだっけ。

 ちょうど今から王宮魔道士さんの所に遊びに行くんだけど、一緒に来る?」

「「ぜひ!!」」


 由佳と2人でハモった。





「回復のメカニズム、ですか。

 確か以前、解明しようと自身を実験台にした研究者の記録がありますが、読みますか?」


 研究室でせっせと何かのフラスコを回していた王宮魔道士さんに尋ねると、懐からサッと分厚い本を取り出した。

 用意してたんですか?

 何故か表紙は、赤黒い。


「用意しとったん!? エスパー!? しかもなんでそんな内臓みたいな色!?」


 由佳のツッコミも冴えわたる。


「いえ、最近の愛読書です。

 まさかお2人がこのような事に興味を持たれているとは!

 ピンキーさん以外ともこの話題で盛り上がれるという幸せ!

 早速内容を読み上げましょうか!

 この記録は奴隷で実験していた研究者がそれだけでは満足できなくなり実際に自分で実験を行ったその主体的な記録が大変価値のある内容となっておりまして、例えば自身の内臓の一種を取り出して壁の向こうの金庫にピー(自主規制)」

「止まらなくなったんですけど王道魔道士さん」

「なんかグロいんやけど内容」

「俺の時より早口」


 普段見ないような王宮魔道士さんの様子に、3人で顔を見合わせる。

 ピンキーさんは呆けた由佳のを見て軽く苦笑いし、話を始めた。


「王宮魔道士さんはソッとしておこうか。しばらくすれば落ち着くと思うし。

 俺の見解としては、まず傷口に魔力がくっついてコーティング&消毒。

 刀傷などの傷は、そのまま魔力が接着剤の役目を果たして傷口を保護しつつ治癒すると考えているんだけど」

「?」

「えっとな、にーちゃん。

 一瞬で治ったように見えるけど、魔力でくっついてるだけって事や」


 僕の顔を見た由佳が説明する。

 わ、分かってたし。


「じゃあ擦りむいた傷はどうなるん?」

「擦過傷は、おそらく同じように傷を保護した後、細胞を急速に増殖させてるんじゃないかな。

 多分裂傷時も同じように増殖させてるとは思うけど。

 そう考えれば、食われた腕が回復呪文で生えたという事例にも納得がいくよ」

「そう! 最終的にこの研究者は数百に切り刻んだ自らの体を隔離して回復呪文をかけ」

「それ、増殖させたら寿命縮むんちゃう?」

「テロメアだね。これは俺と王宮魔道士さんの考えなんだけど、おそらくこの世界の人にはテロメアが」


 ちょいちょい割り込む王宮魔道士さんの話がトテモグロイ!

 とか言ってるうちに、僕以外の3人で喋りはじめた。


「俺達もこの世界の体に作り替えられていると考えれば」

「元の世界では使えなかった魔法が急に使える、≪登録≫の恩恵を受けられるといった事例ですね」

「身体能力とか、普通じゃおかしいほど上がってる気がするもんなぁ」


 僕が目を白黒させてるうちに、3人の会話はドンドン進んで行った。

 部屋の隅っこで座り込んでいると、夜が更けた事を知らせる控えめな鐘の音が鳴る。

 それに合わせて、見回りを交代する兵士の足音。

 若干慌てた音があるのは、寝坊でもしたのかな。

 

 僕は王宮魔道士さんのソファに寝転んだ。少し寒い。

 ソファをワサワサすると、置いてあった白衣が手に当たる。これでいっかな、被っとこう。

 こういう時にプラズマが居れば、ウロコをモフモフ出来るのになぁ。


「僕寝るよー、おやすみぃ~」

「でもこんなん言うてたら、なんで内臓まで復活するんかが分からんやん!」

「それはきっと万能細胞が」

「均等に真っ二つに割った人体を隔離させると同じ人が2人になるという考えに沿うと思うんですよ!」


 今日も王都は平和です。

 おやすみなさい皆さん。


 








 ごめんなさい。これは多分、仮初めの平和です。

 あの日、紅葉さんが包帯男に襲われて亡くなった日から、この日で3か月。

 若葉さんは紅葉さんと一緒に世界樹島に帰り、ニルフさんも姿を消しました。


 あの後。

 西の国は、あの事件を不幸な事故と発表しました。

 祭りに熱狂した市民が舞いに乱入し、巫女の邪魔をした為に神が怒ったのだと。

 もちろん最初、あの場に居た市民達は納得した顔はしませんでした。

 しかし紅葉さん以外に怪我人も死傷者も出なかった事と、巫女が亡くなって直に上空を飛ぶ巨大な羽を持つ女性の姿が街全体で目撃された事から、「神の怒りを一身に受けて皆を守って殉職した巫女が、翼を与えられて天に昇って行った」という話が市民の間でささやかれ始め、それを聞きつけた吟遊詩人が世界に広めた事で騒ぎは落ち着きました。

 目撃された女性がハーピーの事なのだとしても、皆を守ったのがニルフさんのハープなのだとしても、僕達が真実を話す必要はありません。


 しかし。

 あの日を境に、日に日に世界各地で魔物や盗賊などの犯罪者の事件が増えて行きました。

 今までに無いほどの勢いで。


 舞が最後まで行われなかった後に起こった地震。それが関係あるのかは分かりません。

 だけどその時から確実に、世界は平和からほど遠くなっています。


 今、僕達に出来るのは何でしょう。

 ピンキーさん達はいつも通りに行商を続けながら、襲われた村を転移で回りつつ、復興の手助けをしています。

 銀さんは各地で冒険者のクエストをこなしつつ、強力な魔物の出現情報を仕入れては討伐をしています。

 この前帰ってきたときに、ギルドランクが≪シルバー・たいぼく≫になったと言っていました。

 若葉さんは、街の噂によると紅葉さんの後を継ぐ儀式を行っているらしいです。

 1度世界樹島に行ってみましたが、会えませんでした。

 何度も訪れていたニルフさんも、会えなかったようです。

 そしてニルフさんは。

 事件から一か月ほど経った頃、城から姿を消していました。


「世界樹ぜんぶ巡る。

 おとぎ話の天海に行けるかも。勇者君の情報」


 前の日の夜にそう言っていたそうです。

 おそらくは勇者君と行動を共にしているのか、世界樹を巡るという事なので雷の世界樹を見に行ったのか。

 

 そして僕と由佳は、ソルジャー君達3人と共に東の国を中心にギルドのクエストをこなしていました。

 3人とも、冒険初心者の由佳を暖かく迎え入れてくれて。

 その甲斐あって、由佳は無事≪シルバーランク・わかば≫になりました。

 僕は≪シルバーランク・わかぎ≫

 たまに西の国や南の国の沿岸沿いを、プラズマを探して歩いていますが、未だにあの子は見つかりません。


 そして最後に王や大臣達。

 以前から僕達に隠し事があるような気がしていましたが。

 勇者君が「魔族」について教えてくれた後、大臣に魔族についての話をされました。

 聞いたのは、この国に伝わるおとぎ話。


 大昔に地に穴が空き、魔王とその眷属が現れて大陸の下半分をズタズタに切り裂いたというモノ。

 結局最後は人間から勇者が現れ、魔王を倒して穴を封印したという、よくある物語。


 最初聞いた時は「ゲームとかに魔族ってよく出るよね」くらいにしか思っていませんでしたが。

 僕達や紅葉さんを襲った包帯男が魔族ならば、今世界で起こっている事件も、魔族が犯人なのかもしれません。


 今後、世界はどうなるのでしょうか。

 ニルフさんはどこにいるのでしょうか。

 僕は、この世界で何を成せばいいのでしょうか。


 あの日からずっと、この考えが頭をよぎっています。

 

 僕を召喚したという神様。

 世界樹島の神殿にお告げをするという神様は、何も答えてくれません。

 

 今まではただただ僕と由佳の事だけを考えればいいと思っていました。

 大精霊と会って行けば、いつかは日本に帰れると、漠然とそう思っていました。


 僕が、僕達が呼ばれたのは、今何かをするためですか?

 それとも今後、もっと恐ろしい何かが起こるのですか?

 

 例えば、あの地震で地面に穴が空いていて、そこから魔王が出てくるとか。

 ・・・少し、考えすぎたかな。







 僕は大あくびをして、眠りにつく。

 3人はまだ熱論していて。

 夜は更けていっていて。


 明日も平和でありますように。

 なにかあっても、皆が無事でいますように。


 姿も知らないこの世界の神に向かって、僕は小さく呟いた。

次回メモ:ニルフ


ほんのり復活!


いつもよんでいただきありがとうごっざいます!

良いお年を!!!

  &

ハッピーニューイヤーッハァー!ひゃっふー!

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