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勇者だったのかもしれない  作者: ぷっくん
世界樹と黒いヤツ
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夏祭り

この話で、一旦2015年の投稿は休憩 (するとおもい)します!

年末年始いそがすぃ

 という訳で!

 夏祭りに参加しています!


 西の国の王都で行われております夏祭り!

 東の国とは違い、少し荒々しい感じがあって面白いですね。

 普段は馬車専用になっている一番大きい大通り(日本語で道路)も、この日だけは出店が軒を連ね、歩行者たちでごった返しています。

 子供達は普段入れない道路に入れるのがうれしいのか、道のど真ん中で寝転んでいますね!

 当然親に怒られています!


 お! 突如人垣が分かれて道が出来ました。

 一体何でしょうか!

 聞こえてくるのは金属音と笛の音色!

 神輿だ!!! 子供を上に乗せた神輿が大通りを疾走してきます!!

 担いでいるのは国一番の屈強な男達だー!

 神輿の上には綺麗な衣装を着て、真っ白なおしろいを塗った子供が乗っており、上から杓子で水を撒いて行きます!



 撒かれた水は帯状に広がり、キラキラと輝いて祭りの参加者たちに降り注ぐぅー!

 道の端にいた人はともかく、神輿の真横に居た人はビッショビショだ!

 しかし怒る者は誰もいません!

 どうしてでしょう、黒蹴さん!


「えっ僕もそれに巻き込むんですか?

 ・・・この水に触れた者は無病息災になるという伝説があるそうですね」


 ありがとうございます現場の黒蹴さん!

 さて、神輿を見た後には皆さんお待ちかね。

 出店だぁああー!!!

 出店にも水に関する土産物やお菓子が所狭しと並び・・・


「いつまでやってるのよニルフ! サッサと祭囃子演奏して客集めなさいよ!!!」


 出店見てたらレモンちゃんに怒られた。

 せっかくユーカに教えてもらったニュースキャスターの真似をして遊んでたのに。

 ちなみにユーカはそんな俺を見て、手を叩いて笑っていた。道の向こう側で。


『結構楽しいのに・・・』

「そんな騙され方するの、ニルフさんだけだと思いますよ?」


 横で品物を並べる黒蹴に、かわいそうなものを見る目で見られる。

 なんだよぅ。祭りなんだから楽しめよぅ。


「これくらいお客様が集まればもう大丈夫ね。アンタ達は祭り楽しんできなさいよ。

 こっちはアタシ達だけで大丈夫だからさ」


 数時間後。すっかり笛を吹き疲れて途中でハープに持ち替えた俺を見かねて、レモンちゃんが休憩をくれた。

 祭りに繰り出した俺にユーカと黒蹴も付いてきた。

 とりあえず何か食おうか。


「ほういえふぁ銀さんたちどこにいっはんでひょうね」

「にーちゃん飲み込んでから喋りぃや」

『銀達なら別行動で出店のチラシ配ってるらしいぞ』


 少し開けた場所で生垣の石段に座り込んで串焼きを頬張る俺達。

 たまに大通りの方から歓声が上がるのは、神輿が通過したからだろうな。

 こんな楽しい祭りに城の会議で参加できないなんて、隊長とポニーさんとケモラーさん、かわいそうに。


「ニルフさんはこの後どうします?

 舞が始まるまでもう少しありますけど」

『若葉になんか土産でも買って行くかな。何も無かったら拗ねそうだし』

「ほーぅ、ニルフさんて若葉さんの事えらい気にかけてるなぁ」


 俺と黒蹴の会話を聞いていたユーカがニヤニヤ笑いながら話を振ってきた。

 いや、そんなニヤニヤされる様な事してないし。


『普通の事だろ? あ、この水飴とかどうだろ。この水菓子もおいしそうだな』

「お土産って全部食べ物なん?」


 食べ物やお菓子を買い込んでお土産袋に入れていると、ユーカが色々言いたそうな顔でこっちを眺めていた。

 だって若葉、食べ物大好きじゃんか。気にせず、日持ちしそうなお菓子や食べ物を買い込んでいく。


「あ、そろそろ始まる様ですよ。行きましょう」


 舞台が作られている広場から、太鼓の音が鳴り響いた。








 街の中央に備え付けられた舞台。そこには薪が高く積まれ、世界樹の巫女が舞台に上がる。

 普段は1人が舞う舞台も、今年は何故か2人だ。


 きっと、あの子が後継者だ。

 町の人々は羨望と期待のまなざしを、緑の髪の少女に向ける。

 緑色の髪の少女はそれを知ってか知らずか、高揚した表情をしていた。


 赤い髪の巫女が決まった動作を行い、薪に魔法で火を放ち、その前で舞を踊る。

 舞台の周りで、神官たちによる演奏が始まった。

 その見事な演奏と舞の光景に、人々からため息が漏れる。


『ねえ、ちょっとまって。神官が演奏するなら俺がいくら笛練習しても参加する機会無いんじゃないか?』


 俺の素朴な疑問に、一緒に舞を見に来た黒蹴とユーカがサッと目を逸らした。

 どうやら楽器屋のオッサンの知識は間違えていたらしい。

 くそぅ! 俺の女性ファンが遠ざかって行く!


 今回も巫女の補助として、若葉が一緒に舞を踊る。

 舞う2人を、舞台から少し離れた場所から眺めていると、紅葉さんがこちらに気付いてウインクを飛ばした。

 うはー、女性のウインクって最高だよねー。


「うぉおおお! 紅葉さんが俺に向かってウインクしてくださったぞー!」


 俺の周りにいた紅葉さん目当ての男性たちが歓声を上げた。

 お前らにじゃねえよ!


 ・・・若葉が舞の合間に俺を睨んだ。なんで?



 *




「今年の舞も最高じゃのう。ワシャもう召されてもええわい」

「何を言っているんですかお爺さん。来年も一緒に見るんですよ」

 

 目の前に折りたたみ椅子を並べて舞を見る2人の老夫婦の会話に耳を傾けつつ、俺は邪魔にならない程度にハープで音楽を真似して弾いている。

 2人は幸せそうにお互いに寄り添った。

 俺の周りで騒いでいた紅葉さんファンの男達も、その光景に目を細めている。


 そろそろ、この舞も終わりに差し掛かる。

 終わりの直前には一番の見せ場があり、その時に世界樹の巫女は魔力を貯めて、平和の願いと共に世界に放出する。

 願わくば、こんな幸せがずっと続きますように。

 願わくば、この2人の様にボクもあの子と・・・。


 目の前に一瞬浮かんだ誰かの笑顔に、一瞬意識を奪われた。

 どこかで見た事のある、だけど思い出せない女の子。

 何故かその子の頬には涙の痕があり・・・。

 


「わぁぁぁぁああぁぁぁ!?」


 周りの歓声に、引き戻された。舞が見せ場になると、いつも歓声が・・・。


 いや、これは。悲鳴か!?


 サッと舞台に目を向けると、1人の男が降り立っていた。

 舞台に立つのは、黒いローブに身を包んだ人物。

 その顔には黒い包帯が巻かれており・・・。


「空がゆがんで出てきた・・・?

 !!!」


 誰もがあっけにとられて動きが止まる。

 黒蹴は信じられないようにつぶやき、一瞬黙り込・・・!!?

 やばい! アイツは!!!


『黒蹴! あの包帯!』

「逃げて2人とも!」


 あの姿には、見覚えがある!!!

 一瞬で黒蹴が銃を構え、舞台を狙う!

 だが。


「うわ!」

「すまん、大丈夫か!?」


 突然の事に場が混乱し、大柄な男に黒蹴が突き飛ばされて体勢を崩した!

 黒蹴は直に体制を整え、大きくジャンプして狙い撃つ! 間に合うか!?


 そのとき、大きく空中に飛び上がり、舞台に向かって宙を翔ける2つの影!

 銀とハーピーか!!! 靴に仕込んだ≪カイチューデントー≫で走ったんだな!

 俺はすぐに、腰に下げたハープを取り出し、曲を奏でる。

 魔力を最大に使って、込める魔法は・・・!!!




 ‐―――――――――――――

 包帯男は紅葉の肩に手を触れる。

 見た目以上に細いその肩に一瞬戸惑うも、握りしめて魔力を込めた。

 誰かの放った魔弾が頬を掠り右足を貫いたが、気にせずに魔力を注ぎ続けた。


 目の前にある赤い髪の巫女が、膝をつく。しかし、その表情は・・・。

 ――――――――――――――




 紅葉さんの肩に手を置いたと思った瞬間、そのまま掻き消えた。

 黒蹴の魔弾が当たったように見えたが、逃げたのか?

 膝を付く紅葉さんの横には、呆然と立ち尽くす若葉の姿。

 2人とも、怪我は無いようだった。

 だが。

 紅葉さんのあの苦しみ様は何だ? もしかして・・・。


 サッと舞台に降り立った銀の表情が、一瞬ゆがんだ。そして。


「舞台から離れろ!!」


 叫ぶと共に、自身も若葉を抱きかかえて舞台から飛ぶ!

 ハーピーも何かを感じたように、上空に逃げた!

 その瞬間、紅葉が苦しそうに体をよじり。








 舞台が、


 大きく爆発した。










 吹き飛ばされる広場の人々。

 そこには銀と、銀が抱いた若葉もいた。

 俺の周りには、折り重なって倒れる人々。

 皆うめき声をあげて気を失っている。


「大丈夫ですか!」


 黒蹴が銀達を見つける。

 2人とも服はボロボロだが、大きな傷は無かった。

 ハーピーは上空高く舞い上がり、そのまま黒包帯男を探すように街を旋回している。


『よかった・・・』


 俺はそれを見てホッと息をつく。

 そこでふと気づいて、急いで周りの人々を押しのけて、老夫婦を探した。


「大丈夫やでニルフさん! 2人とも無事ー!」


 後ろから聞こえたユーカの声に振り返ると、紅葉さんファンの男達が、飛ばされた2人を抱えて暴風からの盾になっていた。

 盾になった男達は爆発の衝撃で気を失っている、が。


『誰にも怪我が、無くてよかった・・・』

 

 俺は全身に脱力感を感じて、膝を付いた。


 俺があの時、ハープに込めた魔法は、風の魔法。

 つまり、傷の回復。

 魔力をすべてつぎ込んで奏でた魔法は、爆発に巻き込まれたすべての人々の傷を一瞬で癒し、命を繋いだ。


 だが。


 目を覚ました若葉がキョロキョロと辺りを見回し、息を飲んだ。

 そのまま銀の腕から飛び出して、どこかに走っていく。

 慌てた2人も後に続いた。

 俺は魔力が尽きて重い足を引きずりつつ、向かう。


 若葉が向かった先は、先ほどまで舞を行っていた、舞台だった。

 あれだけ大きかった舞台は今、そこには無く。

 深く地面がえぐれて、大きなクレーターが出来ていた。


 そして、深いその穴の中には・・・。


「姉さま! 姉さまぁああ!」


 若葉が穴に飛び込んで、ぼろ雑巾のような黒い物体を抱きしめる。

 それは、さっきまで若葉と一緒に舞っていたはずの。


「どう・・・して」


 若葉が、俯きながら低く呟く。


「どうして姉さまを運んでくれなかったのですか!!!」


 顔を上げた若葉の顔は、涙でグショグショだった。


「わたくしでは、なくっ!!!

 どうして姉さまではなくっ! わたくしを助けたのですか!!!」


 銀を睨みつつ叫ぶ若葉。

 銀はその顔から目を逸らさず、


「悪い」


 一言だけ言って、立ち去った。


「あぁぁ、うああぁああああー!!!」


 若葉の泣き叫ぶ声が響く。

 でも、若葉もきっと分かってる。

 黒包帯の男に触れられたのが紅葉だったから、銀が若葉を抱えて逃げたって事を。

 仲間の命を一番大事にしている銀が、仲間を見捨てるのと同じ意味を持つ選択をした辛さを。

 上空を飛ぶハーピーも、同じ事を考えているのだろう。

 大好きな銀が怒鳴られても、何も言わずに敵を探し続けていた。


 若葉の声を合図にしたかのように、周りの路地から人々や兵士達が集まってきた。

 あっという間に救助が始まり、折り重なって倒れる人々は大通りに建てられた救護テントに寝かされていく。

 黒蹴とユーカ、それに騒ぎを聞きつけたピンキー達も集まって、皆で救助活動をしていた。


 俺は広場に建てられた、神官専用のテントに座っていた。

 若葉が抱いていた紅葉さんの遺体も、ここに安置されている。

 上には布がかけられ。横では若葉が泣いていて。


「大丈夫ですかニルフさん。これをどうぞ」


 キラ子ちゃんに差し出されたジュースを飲みつつ、奇跡的に怪我人が居なかったという兵士の話を盗み聞きした。

 だけど・・・。


「う、あ。若葉・・・様」


 俺の横に寝かされていた神官が小さく呻いた。

 怪我が無いとはいえ、意識が朦朧もうろうとしているようだ。

 俺の飲んでいたジュースを、キラ子ちゃんが奪い取って神官の口に少しだけ含ませる。

 と、神官は目を開けて、必死に声を出した。


「はや・・・く、早く儀式を・・・! 巫女が儀式を終わらせなければ・・・災厄が訪れます・・・!」


 絞り出すようなその声が若葉に届く。

 同時に、若葉が舞台のあった場所に向かって走り出すが。


「きゃぁああ!」

「なんだ!」

「大丈夫か!?」


 突然、地面が激しく揺れ、周りから叫び声が上がった。そして。

 舞台のあった場所から黒い煙のようなものが飛び出し、空に向かって消えて行った。


「あ、あぁ。なんてこと・・・だ。

 間に合わなかった・・・災厄が・・・訪れ・・・」


 それを見た神官が、呆然としたようにつぶやき、気を失った。




 *




 城に、紅葉さんの遺体が運び込まれていく。

 神官が棺を運び、その周りを兵士達が守る。

 棺には泣きじゃくる若葉が寄り添い、俺達は兵士達の後ろの市民達の列に混ざった。

 その時、裏路地の方から勇者君PTが走ってくるのが見えた。


 必死に息を切らしてかけてくる勇者君。

 俺達は歩きつつ、何が起こったかを説明した。

 その瞬間、彼は呆然と立ち尽くす。

 地面が急に無くなったかのように膝を付き、地面を殴りながら何かを叫ぶ。

 まるで血を吐くようなその様子に、周りを歩く葬列の人々は距離を取り。


 そんな彼の横には、メイジさんだけが寄り添っていた。





 *




 若葉は見ていた。

 顔に包帯を巻いた黒づくめの男が、自分が姉と慕う女性に近づき、やさしく肩に手を置く所を。

 その手を、うれしそうにその女性が見ていた事を。


 そして聞いた。


「すまない」

「会えて嬉しいわ」


 軽く交わされた言葉を。

 その瞬間、若葉の目の前は真っ白な光に覆われた。





 *





 暗がりで、男は顔に巻いた包帯をほどく。

 そして一言


「馬鹿な女だ」


 そう呟くと、城下町から足早に去って行った。

 その声は何故か、少し、震えていた。






 *






 巫女が舞っていた舞台から黒い煙が立ち上ってから数日後。

 高く太陽が昇る見渡す限りの水平線の中に、小さな黒い塊が浮いていた。

 それはしばらく海の上を漂っていたが、突如動きを止め。


 海に飛び込んだ。

 一瞬大きな波しぶきが立ったが、それもすぐに収まり。

 しばらく穏やかな波が続いていた、が。


 急に 海に 大穴が空いた。


 そこから大量の海水が流れ込む事も無く、ただただ存在する穴。

 まるで海に透明な筒を突っ込んだかのようなその光景を見る者は海鳥だけだったが。


 しかししばらくすると、そこからはざわめきが漏れ聞こえ。

 夜になる頃には、そこからは地上のどの生物とも異なる≪なにか≫が飛び出し、地上に広がって行く。

 ≪それ≫らは歓喜の声を上げながら、思い思いの方角に飛び立っていった。

次回メモ:年末年始でしばらく休憩します!


いつも読んでいただき、ありがとうございます!

しばらく書き溜めますので、来年もよろしくお願いします!

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