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勇者だったのかもしれない  作者: ぷっくん
世界樹と黒いヤツ
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不思議な横笛

「おかえりなさい若葉! さあ、行くわよ」

「紅葉姉さま!? 行くってどこにですのぉおお?」


 報告の為に東のギルドに顔を出した俺と若葉と黒蹴とユーカ。

 そこで待ち構えていた紅葉さんに、若葉が攫われていった。

 それを眺めて黒蹴。


「そういえば、世界樹の祭りが近いんでしたっけ」

『次は何祭りだ?』

「次は夏まつりよぉ~ォ・・・」


 間延びした紅葉さんの声が響いて消えてった。

 間延びするほどのスピードって・・・。

 紅葉さんの周りを守っていた神官さん達が慌てて追いかけて行った。

 

 俺と黒蹴は少し見送ってから、ギルドのドアを開ける。

 

「なぁ、アレっといて大丈夫なん?」


 ユーカが不思議そうに、黒蹴に聞いた。

 何をそんなに気にしているんだろう。街の人達もまったく気にしていないのに。

 あ、そうか。

 確かに、丈の長いローブを着た青年やおっさんがワタワタしつつ集団で走るのってあんまり見ないよね。


「いや、そうやなくて。ウチの感覚がおかしいんか?」


 俺達がギルドに入ってからも、ユーカは入り口でウンウン唸っていた。

 ドア閉めちゃうよ?




「勇者と協力しても封印は解けなかった、か。

 おいそこのお前、そうお前だ。この情報をまとめてシルバーランクに掲示してくれ。

 それにしても巷で話題の勇者と、本当に知り合いだったとはな。

 お前らの後輩が言いふらしてた時は嘘かと思ったが」

『あいつら何してんの!?』

「あいつらは今、クエストをこなしつつ風の世界樹の元に向かっているが。

 なんでも先輩と同じ道を辿たどって強くなるつもりらしいぞ?」

『いや、そっちじゃなくって。

 ていうか馬車で直に行けるようになったんだから、そっちで行った方が早く強くなれるんじゃないか?』

「あいつら、ギルドの努力全否定だったな!」


 カウンターで暇そうにしているギルドマスター(東)に、雷の世界樹と勇者君について(黒蹴が)報告しにいくとソルジャー君達の思わぬ話が聞けた。

 ていうか何言いふらしてるのソルジャー君達。

 ギルドマスターはガハハと笑いながら、手元に積みあがった書類にハンコを押す。

 暇そうに見えたけど、一応仕事はしていたらしい。

 ・・・その適当に押してる書類、上質そうな紙に金縁の模様が入ってるけど大丈夫なんですか?

 報告した途端に表情がキリッとして、その辺の職員に指示を飛ばす姿は貫禄あるけども。


「ギルドマスターったら~、ここ数日ずっと巫女様が居たから緊張しっぱなしだったんですよ~」

「うるさい、お前達もだっただろうが」


 いつものクリーム色ポニーテール女性職員さんが通りすがりに教えてくれた。

 まだ紅葉さん相手に緊張するのか。ていうか紅葉さん、いつから張り込んでたんですか・・・。


 さて、話は終わったしソルジャー君達は冒険中だし帰るかな。

 

「ところで」


 踵を返した所で、ギルドマスター(東)に呼び止められた。


「その女性は新しい冒険者か? 見かけない顔だが、黒蹴に似ているな」

「え? 冒険者ってなに? にーちゃん、なんの話なん?」

「・・・あっ」


 ギルドマスター(東)の顔を見て黒蹴が固まった。

 さてはユーカをギルドに登録させてなかったな? 





「うわー、マジで異世界って感じやわ」


 もらったカードを太陽にかざしつつ、ユーカが言った。

 声が喜んでる。

 カードには≪ブロンズ・わかば≫と書かれている。

 ギルドにはユーカが世界樹に≪登録≫済な事は内緒だ。勇者君の事を言えないな。

 

『今までのは異世界って感じじゃ無かったのか』

「逆ぎゃく。異世界過ぎてゲーム画面とか3D映画みたいでな。実感無かってん」

「あ、ちょっと分かる」

『ふーん』


 意気投合するユーカと黒蹴(兄妹だから当たり前だけど)。

 ゲームってあれだよな。便利機能の一杯ついた幻の中を旅したり戦ったりするやつ。


『ゲーム面白そうだなー。ピンキーなら作れるかなー』

「作れるでしょー。ピンキーさんならー」

「にーちゃんらの、あのワンコに寄せる期待感なんなん・・・」

 

 そうか、ユーカはピンキーが人族って事知らないんだっけか。

 ちなみにピンキー達他のメンバーは、各国のギルドに同じように報告をしにいった。

 東の城には隊長が向かってるし、今日1日は休憩だな。

 久々に、楽器屋のオッサンとこにでも寄ろう。


「いや人間て聞いてても電化製品も無いこんな異世界とかでゲーム作れるわけ、そもそも異世界でRPGゲームっておかしくない? いや別にRPGやなくてウチらの日常とか日本の風景をゲームにするとかスポーツとか? 金の匂いがするわウッヘッヘ。いやそうやなくて根本的に」


 ブツブツ言ってるユーカを置いといて、黒蹴に寄り道すると伝えた。




 いつもの通い慣れた道を進み、久々に来た楽器屋はすっかりさびれていた。

 なんでだ? たまに来ては弾いて客寄せしてたから、結構繁盛していたはずなのに。

 というか、いつも店の前で楽器を乗せた台を広げて、そこで商品を磨いている店主が居ない。どこいった?


「兄ーちゃん、久しぶりだな!」


 店に入ってキョロキョロしていると、店の奥から声が響く。でけえ。

 出てきた店主のオッサンはあちこちうす汚れていて、いかにも「作業中だ! 誰も来んな!」って雰囲気を醸し出していた。


『どうしたんだオッサンその格好。店切り盛りしてる姿じゃないぞ?』

「少しの間、旅に出ていてな。今帰ってきた所だ」

『旅って・・・。店ほったらかしてどこに行ってたんだよ』

「特殊な材料を取りに行っていてな。それを手に入れてすぐに店に戻ったんだが、中々に楽器への加工が難しいんだ。

 ここ数週間ずっと相手しっぱなしだ」


 オッサンが持ってきたのは見えないくらいに透明な棒だった。

 受け取ってクルクル回しつつ見ていると、太陽の光を反射すると共にスっと薄い水色の様な光を宿す。

 まるで、薄雲がはった青空を切り取ったような色だ。


 この妙な形は・・・枝か?

 よく見ると、規則的に大中小の穴が空いている。枝の中は空洞。

 もしかして。


「フッフッフ、気付いたか伝説のハープ演奏者よ。

 そう、これは横笛。しかも世界樹の枝で作った笛だぞ!!!

 さあ、さっそく吹くがいい! 今まさに完成したところだ!!!」


 吹くようにせがむオッサン。グイグイくるな。

 ちょっと待って。これ音出るの?


「出るぞ! 先ほど俺が試した時は出なかったが、伝説のハープ演奏者のお前ならきっと音を奏でられるはずだ! さあ、さあ!!!」

『ちょっと待って』

「なんだ!」

『今、オッサンが試したって言ったよな』

「ああ、言ったぞ。だが音は出なかった」

『つまり、一回吹いたって事だよな』

「もちろんだ」

『そうか。じゃあ、まず洗って!』

「・・・」


 オッサンと関節キッスとか絶対にいやだった。


 きちんと洗った後、吹き口を口に当てる。木製のはずなのに、ひんやりとした感覚が気持ちいい。

 フッと斜めに息を吹き込んでみる。が、


「出ないな」



 オッサンに教えられつつ横笛を吹いてみるが、中々コツがつかめない。

 難しいな、これ。


「うーむ、やはり駄目か。兄ーちゃんには楽器を扱う才能が有りそうだと俺の直感が告げてるんだがなぁ」

『透明で見えにくいし、普通の笛も吹いたこと無いからな。普通ので練習してみるか』

「そうだな」


 練習用の横笛を軽く吹いて、調子を確認するオッサン。

 綺麗な音程が部屋に響く。表の通りを歩く何人かが振り返った。

 相変わらず楽器の演奏も上手いな。

 それなのに世界樹で出来た笛が吹けないのは不思議だ・・・。


『そういえば俺、(多分この世界に来てから)世界樹以外の楽器って弾いた事無いな』

「色々と珍しい兄ーちゃんだな! ほれ、これで練習・・・いや、やはりコッチを使ってくれ・・・」


 突如オッサンが壊れた機械の様にギギギっと笑う。

 俺も、引きつった笑みでオッサンに微笑み返した。


 オッサンが持ってこようとした金属製の横笛を見て、俺達の脳裏には以前のハープ破損シルフ大暴走事件が浮かんでいた。

 あいつ等、俺が世界樹で出来た以外のハープ弾いたら暴走したんだよな・・・。

 ハープ以外でも暴走するのか確かめる勇気は、俺達には無い。

 しょうがない、見えにくいけどコレで練習するか。

 

「すっかり日も暮れちまったな。コイツを渡しておくから家で練習するといいぞ」

『いいのか? 貴重な物なんだろ?』

「最初から兄ーちゃん用に作ってたんだ。代金は要らねぇから習いに来てくれ」


 オッサンの熱意に押されて、有難く受け取った。

 帰り道。

 すっかり暗くなった城下町を歩きつつ、横笛を眺める。

 昼間は太陽の光に紛れて見えにくかったが、辺りが暗くなった途端に薄く光り始めた。

 いや、街の淡い光を反射しているのか。

 昼間ユーカがやってたみたいに、真っ暗な空に翳してみる。

 街灯の光を取り込んだ横笛の中には、沢山の小さな光の粒がキラキラと踊っていて。

 まるで星空を閉じ込めたようだと感じた。

 というかこんな色の世界樹あったっけ?


 遠くから、客を呼び込む声が聞こえてくる。


「さぁさぁ、西の国の祭りが近いよぉ! 西の国で人気のアイテムを買って、家でも同じように祭りを楽しもう!」


 東の国の祭り好きな人々は、別の国で開催される祭りでも盛り上がれるらしい。

 そういえば前に東の国の祭りがあった時に、西の国でピンキー達が同じような商売していたな。

 というか日が落ちてるのに商根逞しい人も居たもんだ。

 しかしなんか聞き覚えが・・・。


「うふふ、ニルフさんも来てくれたんですね」

「あ、アンタ何その横笛! 吹けるんだったら祭囃子吹いてくれない!?

 え、吹けないの? 何よもうせっかく客寄せマスコットが来たと思ったのに!」


 ピンキー行商隊でした。

 会うと同時に暴言吐かれるってなかなかないよね!

 俺ただ横笛持ってただけなのに!

 練習中だとレモンちゃん達に伝えると、馬車の裏で休んでると良いと言われた。

 俺、そんな疲れた顔してたかな?



「へえ、練習中なんだ横笛」

『そう。ま、俺にはハープがあるから、お金を貰えるくらい上達させるかは分からないけどな。

 ただせっかく作ってくれたオッサンを喜ばせるくらいには・・・』


 行商馬車の後ろでお茶を飲みつつピンキーと喋っていると、サイダーちゃんとキラ子ちゃんの会話が聞こえてきた。


「先ほど紅葉さんが通りかかってな、ニルフの横笛をぜひ聞きたいと言っていたぞ」

「ハープ上手ですもんねニルフさん。夏祭りで紅葉様が舞う時、祭囃子を演奏してほしいんでしょうね」

「そのような場で演奏したニルフには、女性ファンが増えそうだな」

「きっとファンクラブとか出来ちゃうんでしょうね」




『俺、祭囃子頼まれるくらいに上達しようと思うんだ』

「どうしたの急に」


 馬車の中でレモンちゃんがガッツポーズをしていた事を、ニルフとピンキーは知らない。


 *


 その後しばらくオッサンの所に通って横笛の練習に打ち込んだ。

 あの日紅葉さんに攫われて以来、若葉が城に帰っていないが紅葉さんだし問題ないだろう。

 西の国の夏祭りで舞を披露するために2人で練習中なんだろう、きっと。


 城での練習の甲斐あって、すぐに音が出せるようになった。

 というかこの笛、昼間は光に紛れて穴とか見えにくいから練習し辛い!

 て訳で、音階の練習はもっぱら夜に行った。つまりオッサンの所に泊まり込みだ!

 待ってろ俺の未来の女性ファン達!

 君たちの為なら男臭いスペースでの生活も乗り越えて見せるぜ!


 オッサンの家には生活スペースがほとんどなく、工房に寝袋を持ちこんで寝た。

 起きると同時にオッサンの仕事を手伝いつつ暇があれば笛の練習だ!

 ちなみにハープは城の自室に置いてきた。

 笛をマスターするまでハープには触らないつもりだ。


 手の感覚だけで音階を操れるようになり、ようやく曲を弾ける頃には1週間経っていた。

 オッサンは「さすが上達がハープの伝説」とかよく分からない事を言っていたけれど。 


 そしてついに祭り1週間前。

 西の国の祭囃子を(なぜかサイダーちゃんが)取り寄せて、挑戦した。

 楽譜の読み方はオッサンに教えてもらった。抜かりはないぜ!


「本当は、もっと基礎をみっちり仕込みたかったんだがな・・・」


 オッサンは若干残念そうだけど、こればっかりはしょうがない。

 早くマスターしないと、紅葉さんの舞に合わせて演奏出来ないからな!


「あー、それなんだがな兄ーちゃん。もしかすると・・・」

『なに突然口ごもって・・・。そんなに俺、下手か?』

「いや、始めて1週間とは思えないくらいに上手いぞ!?

 そうじゃなくてな。もう祭囃子の演奏者は決まってるんじゃないかってな」

『・・・え”っ』

「てっきり来年の演奏者を狙っていると思ってたんだ。悪い!

 もっと早く教えるべきだったな!」

『・・・イヤ、ショウガナイヨォ~・・・』

「本当に悪かったな、兄ーちゃん。

 せめて、祭りまでの残り1週間で、どこに出しても恥ずかしくない演奏者に仕上げてやるから!」


 熱く語るオッサンに励まされて、俺はやりきれない思いをぶつける様に練習に打ち込んだ。

 オッサンも店そっちのけで練習に付きあってくれた。

 そのおかげで、「直接乗り込んで今年の演奏者に挑んで打ち負かしてやろう」とか考えるくらいに上達した。

 乗り込もうとした寸前に、それは辞めてって東の大臣に怒られたけども。



 ・・・紅葉さんや女性ファン達に良いところ見せられるのは、来年かぁ・・・。

次回メモ:夏祭り


いつも読んでいただきありがとうございます!

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