土の精霊石の行方
「何故、魔族を倒したいんだ?」
ずっと黙っていた銀が急に疑問を投げかけた。
その言葉に、勇者君は目を見開く。
「なぜって・・・、銀も襲われたよね。魔族に」
『え、嘘どこで?!』
「僕も知りませんよ?!」
「ニルフ達は知らないの? 風の世界樹で襲ってきた、あの包帯男だよ!」
勇者君の説明に、何故か隊長やポニーさんが「あっちゃあ」と言う顔をした。
って事は、俺達以外の城の人達は知っていたって事?
というより、もしかして包帯男が魔族って事は・・・。
『あのキレた男も魔族!?』
「そうかも。各地で魔物がらみの事件がある度に、黒いローブの人物が目撃されているそうだから」
クロムが真剣な顔で俺に言った。ケモラーさんにモフられつつなのが締まらない。
「そう、か。魔族はどの世界でも・・・」
「銀? ドウシタ?」
何故か寂しそうな銀を、ハーピーが心配していた。
「ねえ、ちょっといいかしら。
お姉さん、今ちょっと風のお爺さんに聞いたんだけどね。
土の精霊石、昔は多少海で取れたらしくって、髪飾りとかに使われていたらしいわよぉ?」
ここで水のお姉さんの有力な情報!
一気に話の流れは雷の世界樹に戻り、銀の問うた疑問は忘れ去られていった。
「色は薄い茶色よ。アンティークのモノを探せば見つかるかもしれないわね」
ウィンクしつつ、水のお姉さんが言った。
美人ー。
「アンティークの髪飾りなら、以前大量にレモンが仕入れていたぞ」
サイダーちゃんの言葉に、ライムさんとケモラーさんとピンキーが馬車に走り、それを見送ったレモンちゃんが叫んだ!
「あぁあぁ、あれね! そういえば、薄い茶色の石が付いたものが有ったわ!」
「本当!? どこにあるの!? 売っちゃった?」
「ちょ、ちょっと待ってって!」
必死な勢いで詰め寄る勇者君に若干距離を取りつつ、レモンちゃんが記憶を漁る。
「えええっとねえ。確か仕入れてすぐにニルフに見せてぇ~、えーっと、そのままニルフに・・・。
あ、ニルフに売ったわ」
全員が俺を見た。
俺は若葉を見た。
「何故わたくしを見ますの!?」
言いつつ何かに気付いたように、若葉は髪飾りを外した。
その髪飾りには、薄い黄緑と茶色の世界樹の葉型の石がはめ込まれ・・・。
「それよーーーーーー!」
水のお姉さんの絶叫が、夜の村に響き渡った。
*
次の日さっそく、雷の世界樹に向かった。
ずっと水の大精霊の分身を呼び出し続けるのは魔力的にきついらしく、結界を破る直前に呼ぶ事になった。
「こっちから分身を飛ばせればいいんだけどね~。またね」
言いつつ消えてく水のお姉さんも、あいかわらず可愛かった。
俺もお別れするのが寂しいです。
今日は人数が多い為、船は中型の大きなものだ。
「この船出すの、スゲー久しぶりだ」
しみじみと語る漁師Jr君の姿が、朝日と重なって目に染みた。
『さあ! 島に到着した事ですし! さっそく水のお姉さんを! さあ、さあ!!』
「え、えぇ。分かったわニルフ君」
「ニルフさんって・・・」
「分かりやっすいなこの人」
黒蹴のこの目、なんか久しぶりだな。
何故か同じ顔でユーカも俺を見ていた。
「ハァーイ! 呼ばれて来ちゃったわよぉー!」
くるくるポンっと飛び出した水のお姉さん。
今日はいつもの妙齢ボディではなく、幼めの姿をしていた。
何故だかは分からない。分からないけど。
『そっちも素敵です!』
「ありがとう、ニルフちゃん♪」
「「「・・・」」」
無言の目線を感じて黒蹴兄妹の方を見る。
あれ? なんで若葉も混じってんの?
フィールドなので、召喚に制限がかかって幼くなるらしい。
水のお姉さんが力を込めると、結界に小さな穴が空いた。
ピンキーやベリー、プラズマなら入れるくらいの小さな穴。
「ベリー達に行かせるのは不安だから、俺が行ってくるよ」
「ご主人様、無理しないでね!」
「この髪飾り、お渡ししますわね」
若葉が石の精霊石の嵌った髪飾りを、ピンキーに渡す。
なんだか少し不安げ?
「大丈夫よ、石自体は消費しないから」
水のお姉さんが若葉に教えてやっと、ホッとした顔になった。
『なんだ、そんなこと気にしていたんだな』
「そんな事って言わないでください・・・」
膨れる若葉を見つつ。なぜか少し嬉しくなった。あれ? なんでだ?
「あ、待って。1人じゃ心配だし、僕も行くよ」
穴のサイズを測っていたクロムが声を上げる。
ちなみに、今のクロムは人間王子姿だ。
きらめく白い服と金髪が、太陽の光を反射している。
腕にはめた綺麗な腕輪も、服に合っていて似合っているな。
『入れなくない? 夜まで待つ?』
「いや大丈夫。僕の魔法を使うから」
そう言いつつ集中するクロム。
しばらくするとクロムの周りに暗闇が広がり始め・・・
「えい!」
叫ぶと、辺りが完全に闇に包まれた。
「なんだ!? 急に夜になったぞ!」
船を警備していた漁師Jr君が慌ててこっちにすっ飛んできた。
こちらで状況を見ていた両PTメンバーもざわめく。
「どう? これが僕の魔法なんだけど」
そう言うクロムは、すっかり夜のネコ形態だった。
「確かに占いのおばあさんに、必要な人だとは言われたけれど」
クロムの魔法に絶句するメイジさん。
「この魔法は、世界を夜にするものなのか?」
『それってハンパなく危なくないか?』
銀も興味深げに聞く。が。
「さすがにそこまでの魔力は無いよ。
せいぜい、この島を覆うくらいの暗闇を出す程度だよ。
まあ、これ1つじゃないけどね、僕の魔法の効果は」
笑いながらスルリと結界の穴を抜けるクロム。
2人が通ったことを確認した水のお姉さんがホッと息をつくと、結界の穴が塞がった。
結構力を使うっぽい。
分身と言えど、大精霊がここまで力を使って小さな穴しか開かないこの結界って一体なんなんだ。
「2人とも、精霊石は持ったかしら」
「大丈夫です、メイジさん。行ってきます」
「いってくるねー」
穴に入って直にクロムが魔法を解除すると、辺りに光が舞い戻った。
人に戻ったクロムと共に、ピンキーは森の奥へと向かう。
魔物? いきなり夜になったり昼になったりで、警戒して出てこなかったよ。
戻ってきた2人の報告によると、人の手が無ければ開けられない仕掛けがあり、その先に精霊石を入れる場所があったそうだ。
「クロムが居なかったら、俺じゃ開けられなかったよ」
「その時はその時で、きっと何とかしてそうだったけどね」
笑いあう2人。だけど。
「封印、解けへんねんけど・・・」
『なにか条件があるのかな?』
まったく封印が解ける気配が無い。
というか、雷の大精霊が出てくる気配も無かった。
「しばらく待って、何も無ければ戻りましょう」
ポニーさんの言葉に、皆荷物を纏めだす。が。
「あれ!?」
黒蹴の素っ頓狂な声。
「どうしたん、にーちゃん!?」
「由佳、プラズマ見なかった!?
プラズマが居ないんだけど!!」
えぇえ!?
「もしかして俺達が結界から戻った時に、穴から中に入っちゃったのかな」
「僕達、一度見てくるよ」
ピンキー達が直に結界の中を探しに戻る。
「オレ達も周りを探すぞ」
「私ハ上カラ探シテクル!」
「ハーピー、食ってないよな?」
「ヒドイゾ、銀!?」
「俺は船を探して来ます!」
「私も、海に入って無いか探してくるわ!」
「あん? どうした、なにがあった」
話を聞きつけた漁師Jr君と水のお姉さん、勇者君の剣までもが捜索に加わってくれた。
夕方になるまで、全員でくまなく島を探した。だが。
「うぅぅぅ。僕が目を離したばっかりに」
「泣きなや・・・にーちゃん」
プラズマは、見つからなかった。
魔物に食われたのか、見つからないどこかに隠れているのか。
「海の気配を探っては見たんだけど・・・。
成龍ならともかく、幼龍の気配は海の生物にまぎれちゃって・・・」
水のお姉さんが探してくれた海でも見つからず。
肩を落とす黒蹴を連れて、俺達は漁師島に戻った。
「何か変化があれば、すぐに城に手紙を出しますよ。
もちろん、プラズマちゃんが見つかったときにも」
次の日の朝。村を離れる前に、漁師Jr君が約束してくれた。
あの後、今度の事を話し合った勇者君PTと俺達は、雷の世界樹に変化があるまで解散する事になった。
俺達は西の国の港に降り立ち。
「僕も、旅を再開するよ」
クロムはまた一人旅に戻るらしい。
「ボク達は、土の世界樹に関しての話を集めてみるよ。
精霊石があるって事は、天海に行くのに必要になるかもしれないから」
勇者君達も、また世界を回るらしい。
『俺達は雷の世界樹とプラズマの情報を集めつつ、動きがあるまでギルドの仕事をこなしてると思う』
「またね。みんな」
「雷の世界樹に変化が合った時、集まろう!」
『それまでは元気でな!』
それぞれのPTは手を振り合い、思い思いの方向に歩き始めた。
*
「クロムさぁぁああああ!」
「ぐっは!」
突然弾丸のように飛んできた何かを避けきれず、クロムは腹に衝撃を受ける。
吹っ飛んだクロムの足元側から歩いてきた誰かが、声を掛けた。
「ひさしぶりー」
「あ、ジジさん久しぶり。今日は1人?」
「ううん、プックと いっしょ」
「いっしょ!」
肩まで伸ばした黒髪を内側にクルリと巻いた小柄な少女は、クロムの腹に突き刺さっている毛玉を指差す。
叫びつつ、毛玉がピョンと顔を上げた。
クロムに頭突きをした毛玉の正体は、見た目が灰色のプードルの様な生き物。
その毛玉がしゃべりだす。
「罠、びっくりしたー?」
「びっくりした」
「ザンさんと姉御と一緒に考えたの!」
「ジジちゃん かんがえた!」
「燃え尽きるかと思ったよ! 一体どうやったの?」
「プックが言うー! んっとねー、踏んだらぼおぉぉってなってバゴーンって転移するの!」
「全然わからない!」
叫ぶクロムの声と重なるように、近くの草むらがガサっと揺れる。
そこから現れたのは、背の高い優男だ。
なぜか買い物袋を抱えていた。
「あ、ジジさん居た。
クロムさんこんにちはー」
「ザンアクロスさんこんにちはー。
あの転移、やっぱりザンさんの仕業だったんだね。
プックの説明じゃ、よく分からなくて」
「そういえば言ってなかったっけ。
じゃ、わたしから説明するよ」
ザンアクロスの転移させた方法
1.ジジが火を吹くスライムを出す
2.地面に埋める
3.周りにプックの毛玉を円状に置く
4.クロムさんが踏む
5.火が出る
6.毛玉に引火してドーン(火傷しないくらいの円作ってて火柱に見えるけど中は安全多少は熱い)
7.岩陰に隠れてたザンアクロスが、火の中の人を転移させる
「最後ザンさん手動!? あとなんで火に包んだの?」
クロムのツッコミに、プックが答える。
「急に転移したら酔うかなって。
周りが火だったら景色がぐにょーんってなっても分かんないから、酔わないかなって」
続くようにジジの目がキラリと光る。
「酔わせない やさしさ」
最後にザンアクロスがキリッと答えた。
「転移の半分は、優しさで出来ています」
「・・・気遣いありがとう」
クロムが笑いながら答えた。
そのまま4人はザンアクロスの家に向かう。
「久々にクロムさんに会ったし、今日の晩御飯は奮発するよ!」
「そんな、悪いよザンさん」
「ジジちゃんも がんばる」
「プックもー!」
そろそろ日が落ちる。
4人を照らす夕日の光が月明かりになる頃。
そこにあるのは、人とはかけ離れた4つの後ろ姿だった・・・。
「プックさんだけ、変わらない」
「ザンさん ゾンビ」
「姉御 耳でかい!」
「僕はプックと似てるよ!」
しかし聞こえる会話は、なんとも楽しそうなモノだった。
次回メモ:由佳SS
いつも読んでいただき、ありがとうございます!




