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勇者だったのかもしれない  作者: ぷっくん
世界樹と黒いヤツ
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漁師村再び!

 次の日の朝。

 朝一番に出発するかと思いきや。

 なんやかんや馬車に積み込んでいたら、すっかり遅くなってしまった。

 ちなみに俺は、その「なんやかんや」が何なのか知らない。

 レモンちゃん達女子軍に「邪魔だからアンタあっち行ってて!」と言われて、俺は食堂でハープの演奏中。

 今は城の休憩時間。兵士を中心に食堂はごった返している。

 その半分ほどが体のどこかしらに包帯を巻いていた。

 

 なんでも東の王都近くで魔物の大量発生があったらしく、怪我をした兵士達が多く出たそうだ。

 冒険者の協力もあり騒ぎは直に収まったそうだが。

 そこには、黒いローブを纏った背の低い人物も目撃されていたとかなんとか・・・。

 結局一部の冒険者が見かけたと言う程度で、信憑性は無いそうだけども。

 

「こういう時こそ、話題になってる勇者が現れたりしてくれねえかなあー」


 左目中心に包帯をグルグル巻きにした兵士が、同じテーブルについている仲間達に話しているのが聞こえる。

 残念だが勇者君は今、西の国の水のお姉さんの所だ。

 

 俺は勇者君の事を考えつつ、包帯を巻いた人に向かってハープの音を届けて行った。

 乗せる魔法は風の魔法。完全に怪我は治らなくとも、食べ終わる頃には多少体が軽くなっている・・・かな?


「勇者は現れなかったが、銀髪の冒険者が凄かったらし・・・」


 喧騒に紛れて、誰かをモチーフにした英雄談が聞こえた。

 たぶん銀。きっと銀。


 *


 そして東の国出発後。

 さすがにまっすぐ≪西の国の下にある大きめの島の石碑≫(長いな、名前付けろよあの島)に転移すると不振がられるので、船に乗って正規のルートを通って漁師村に行った。

 商人は観察目が優れてるらしいからね!


 ≪西の国の下にある大きめ(ry≫と西の国を繋ぐ船には利用者が多かったが、漁師村のある島へ行く船にはほとんど人が居なかった。

 船も中くらいの輸送船が1~2船しか泊っていなかった。

 港が大きく煌びやかなだけに、余計に寂しさが募る見た目だ。

 早く、雷の世界樹のビジネスを復興させないとな。


「兄さん達、あの村に行くんでサァ?」


 出航間際。船のタラップを登ろうとしたところで、港を磨いていた従業員の人に声を掛けられる。

 馬車と皆には、先に船に乗っていてほしいと声をかけた。


『はい。出来れば雷の世界樹の所に行きたいなと』

「あー、今は難しいかもしれないでサァ・・・。

 知りませんか? 勇者とかいう子供がどうにかしようとしてる話」

『知ってますよ。俺は勇者君の知り合いです。

 ・・・彼は、あの村を復興させようと頑張っている友人なんです。

 子供だからという理由だけで、彼の事を評価しないでください』


 言ってしまってから気づく。

 しまった。何か勇者君が馬鹿にされた気がして、ムスッとして、つい言い返してしまった。

 と、一瞬あっけにとられた顔をした従業員さんが急に笑顔になった。


「うははははは! こりゃスイマセン!

 実際にあの人達を見た事がある方達は、皆こう言うので!

 あなたは勇者様方をしっかりと見ているんでサァね」


 そしてサッと耳に顔を寄せて小声で素早く呟く。


「今、勇者様方は水の世界樹からお戻りになって、漁師村辺りにいらっしゃるはずです。

 そこで待っていれば、きっと会えまサァ。

 ぜひお力になってあげてください」


 そしてニカッと笑って船に俺を案内し、


「いつか村が復興した時の為に、ここの掃除は欠かして無いんでサァ。

 それでは! 良い旅を!」


 出航する船に向かって、大きく手を振ってくれた。

 しかし直に後ろの年配の従業員に怒られるのが見える。


「新人! そんな使わねえ港より、西の国方面の港を磨けぇ!」

「へーい、スンマセンでサァ!」


 その後、シルフが運んできた声は・・・。


「俺の故郷を託しましたぜ、勇者様方」


 俺は、無意識にハープを握りしめていた。

 大切に袋に入れているハープが、それに答える様に軽く震えた。





 無事に勇者君に会えるかな?

 という杞憂もむなしく。


 目の前に勇者君。その隣にはファイターさんとメイジさん。


 ここは夜のとばりがおり始めた、漁師村。

 村長の家で再会した俺達は軽く自己紹介をして、さっそく情報交換の会議を始めた。


「へえ、水のお姉さんが雷の大精霊と仲が良かったんだね」

「うん! ただ封印については全く知らないらしくて。

 でもヒントになりそうな話は聞けたんだよ!」

「勇者様、頑張ったのよ~」

「その話を中心に、仮説を立てよう」


 会議に参加しているのは勇者君PT3人、ピンキー、ケモラーさん、ポニーさん、隊長、銀、ピンキー、若葉。

 皆すっかり打ち解けているな。


 ちなみに、最初の自己紹介時には、


「うわぁああ! 剣がしゃべってる!」

「なんてファンタジーなんですか!」

「ウチもあれ欲しい!」

「お前こそ、なんで犬が喋ってんだ!」


 って軽くパニックになった。

 きっとこうなるだろうなって思って、俺はお互いのPTの特徴をしっかり伝えなかったけれど、予想以上に面白かったぜ!

 若葉には半目で睨まれたけどな!


 あ、会議メンバー以外は部屋に入りきらないって事で、村の広場で救援物資を配っている。

 って訳で、俺も広場に向かった。

 話聞いてても寝る。きっと寝る。そんな自信が俺にはある!!!


 キリッとした表情で拳を握りしめつつ馬車の元に向かうと、「これ」という言葉と共にレモンちゃんにデカい箱を手渡された。

 結構重い。

 開けてみると、10cmほどの苗が沢山入っていた。

 

『何を積み込んでるんだろうと思ってたけど、これ用意してたの?』

「救援物資だけじゃ、一時的な凌ぎにしかならないでしょ?

 この土地の気候に合っていて、塩に強い農作物の苗を用意したのよ」


 レモンちゃんの言葉に、つい絶句。

 

『したのよって・・・。そんな特殊な物、すぐに用意できるものなのか?』

「ああ、それがしがご主人の使者として、闇市場に顔を出して、な」


 ピンキーの名前を出したら直に用意できたらしい。モウ ナニモ イワナイモン。

 東の国経由で西の国の許可は取ってるらしいけど、これって個人の商人が援助するレベルを超えてないか?


 苗を農家に届けた流れで植えるのを手伝っていたら、すっかり夜になっていた。

 広場に戻ると誰もいない。

 置いてかれた・・・。


 皆おそらく村長の所だろう。

 遠目から確認すると、まだ誰も家から出てきていない。

 きっと会議に参加しているんだろう。

 俺きっと寝る。そこ行ったら寝る。


 って事で、会議が終わるまで知り合いの所に行く事にした。

 そう、漁師Jr君の家だ!

 扉を叩くと、Jr君が顔を出す。

 俺の事を見て一瞬目を見開いたが、すぐにドアを開けてくれた。


 ドアから見えるベッドの上には、もう漁師(父)は居なかった。

 少し疲れたようなJr君の顔を見る。彼は、何故かフッと目を逸らした。

 まさか・・・。


「親父は今・・・。そこでクロムの虜になっているぞ」

『あ、やっぱり?』

「おや、君はニルフ君。村に来ていたんだね」

「ニルフ、ひさしぶりー」


 すっかり元気になった漁師父の膝の上にはクロム饅頭。

 今日もクロムはモフられる。

 この村に来ると毎夜モフられるそうで。


「さすがにハゲそう」


 ボソっと呟いてた。

 顔を出した後は、村長の家に向かう。さすがにもう会議は終わっているだろうし。

 村長の家の前で机を出して、料理をふるまってくれるらしい。

 救援しに来たのに振る舞われていいのかな?


「考えすぎたら、人生損するよ!」


 横を歩くクロムが良い笑顔で言う。

 一緒に付いてきちゃったけど、クロムを手放す漁師(父)が寂しそうだった。

 後で返しに行かなきゃ。


「後で返しに行かなきゃとか考えてそうだけど、僕の正体昼間の方だからね!?」


 なんか必死に否定された。

 しょうがないじゃん。手触り良いんだし。

 歩きつつ頭をモフっていると、フッとケモラーさんの顔が浮かんだ。

 クロム(夜)を見る時の目が容易に想像できる。

 ケモラーさん暴走しそうだな・・・。


「ぎょあぁああああ! なんですかぁ!? このかわいい生き物はぁ!」

「待って苦しいグハァ!」

「あぁあああ! あの時の動物!!!」


 やっぱり暴走して握りつぶす勢いでクロムを抱きしめ潰すケモラーさんと、クロムを見て驚く黒蹴は置いといて。

 俺は会議の内容を軽く聞いている。軽く。

 なんかものすごく、雰囲気が重い。


「簡単に説明するとね、この世界に存在する精霊石が必要なのよ。

 結界に関しては私も分からないけれど、雷のカレの力を増量するには風・水・火・土の精霊石を雷の世界樹の麓にある遺跡に供えればいいって聞いたわよ」


 なぜか目の前には、水のおねえさん。

 今日も麗しいですが、なんで居るんスか?


「私の水の属性特技よ」


 メイジさんが、疲れたように言った。

 会議で疲れた・・・感じではなさそうだな。何故か少し涙ぐんでいる。

 てか、大精霊を呼び出せるって、これってかなりトンデモナイ力なんじゃ・・・。


「その属性特技。失礼ですが、もしや貴方は」


 隊長が珍しく敬語で話す。

 何か、覚えがあるのかな?


「ええ、そう。私は南の国の水を司る王宮魔道士。

 姫が行方不明になった事件の真相を知るために、勇者様に同行していたの」

「南の国の王宮魔道士は、直系の姫の腹違いの姉と聞いていましたが・・・」


 無言で頷いたメイジさんを見て、質問をしたポニーさんが絶句した。

 メイジさんはそのまま勇者君に向き直り。


「今まで黙っていて、ごめんなさい。勇者様・・・」 

「ボクは、気付いてたよ」


 小さな声で呟いた勇者君に、メイジさんが抱き着いた。

 それを見て涙ぐむピンキー達。


 どうしてこういう雰囲気になったのか、まずなんで水のお姉さんをわざわざ呼び出す事になったのか分からない俺は、とりあえず拍手しといた。

 ・・・誰も拍手に続いてくれなかったので、こっそり辞めた。

 水のお姉さんを呼び出さなかったら、ばれなかったんじゃないだろうか。メイジさん。




 とりあえず、会議で分かった内容を簡単にまとめてみると。


・雷の世界樹の封印の理由と解き方は分からない。だが、水のお姉さんの力で少し結界に穴を開けられるかも。

・結界の中にある雷の祭壇に各種精霊石を供えると、雷の大精霊の力を補充できるかも。

 それで内側から雷の大精霊が結界を破るかも。

・その為、この世界に存在する精霊石を探している。

 風・水・火は既に持っている。

 後は土。しかし世界樹自体がおとぎ話レベル。

 どうやって探すか見当もつかず、水のお姉さん経由で大精霊に聞いてみたが、解決策が見当たらないらしい。


「困ったな。雷の大精霊に会えないと、テンカイに行けないよ」


 勇者君が気になる事を呟いた。

 テンカイ?


「テンカイって、もしかして天海ですの? おとぎ話に出てくる、あの」

「そうだ、世界樹島の世界樹から行けると言う、あのおとぎ話の天空の土地だ」


 若葉の疑問にファイターさんが答える。

 なんでもそこで、神に会えるかもしれないと。

 黒蹴達ニホン人3人の目が輝いた。


「すごいですね勇者君。まるでRPGの終盤の勇者の様です」

「神に会って、どうするの?」


 不審な顔をしたレモンちゃんが聞く。

 言ってる内容が完全におとぎ話な勇者君の話を、完全には信じきれ無いようだ。


「ボクは神様に会ってね、魔族と戦う力を得たいんだ。

 そして、メイジの姉妹を探したい」

「勇者様ぁ・・・」


 また、メイジさんが泣いた。


「うふふ。そのためには、まず土の精霊石を探さないと、ね」

「ほら、これで涙拭きなさいよ!」

「きゃうーん」


 ライムさんがやさしくメイジさんの背中をさする。

 レモンちゃんがハンカチで涙をぬぐった。

 ベリーが心配げに、メイジさんの周りを回る。

 すごく仲良くなってるけど、なにがあったんだろう・・・。


「本当に、あなたは姫の小さい頃に似ているわ」


 涙目で、嬉しそうにメイジさんがレモンちゃんの手を握っていた。



次回メモ:若葉


いつも読んでいただき、ありがとうございます!

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