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勇者だったのかもしれない  作者: ぷっくん
世界樹と黒いヤツ
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火の世界樹 (ニルフばーじょん)

「合格だ!!」


 火のチャラ男の声を合図に、世界樹の根元の炎(雑草みたいに出てた)が割れて石碑と泉が顔を出す。

 手を付けてみると泉の水は程々に暖かく、入れば疲れが取れそうだった。


「温泉なんよ」

「由佳はここに入ってたの・・・?」


 黒蹴が火のチャラ男を横目で睨みつつ、ユーカと喋っている。


「覗いて無いからな!?」


 必死の表情でブンブン手を振り回す、7mの炎の塊の男。

 すごい光景だな。


「きゅるる?」


 いつもと違う黒蹴の声に、火の精霊石を頬張っていたプラズマが振り返った。

 口からポロポロと精霊石が落ちる。

 そのままモグモグ。可愛い。


「ちゃんと向こうの部屋にも温泉とかあるんよ。

 この人(?)が作ってくれてん!」

「そう、なの?」


 疑い深げに、上目使いで火のチャラ男を見る黒蹴。

 上目使いなのに目が凶悪で怖い。


 ≪登録≫後、俺は勇者君から頼まれていた事を聞いた。

 が。


「うーん、知らねえな」

『同じ大精霊が知らないって、結構深刻な状況?』

「いや、俺と雷の奴とは・・・仲が少ぅしだけ悪くてな」

「大精霊様同士の仲が悪いだなんて。原因は何ですの?」

「女がらみですか?」

「昔、女を取り合ったとかそんなん!?」


 急にユーカが目を輝かせた。

 なんでも、ケータイ小説というモノが好きらしい。

 ヤンキーが少女を取り合ったり、俺様男子が少女に真実の愛を見つけたりするそうだ。

 ケータイって何? って聞いたら、遠くの人と話せたり翻訳できたり音楽聞けたり・・・と、覚えきれないくらいの説明をされた。

 なにそれ、そっちの方がファンタジーなんだけど。俺もそんなの欲しかった!

 世界樹の木刀じゃなくて、世界樹のケータイが欲しかったよ!!!


「違うぞ!?」


 直に否定する火のチャラ男。

 だが既に俺の脳内では、火のチャラ男と雷のデカい総長が1人の女を取り合って殴り合う風景が浮かんでいた。

 取り合われてるのは水のお姉さん。

 捕まってる姿も素敵です!!!


「どうしてあの会話から、そんな幸せそうな顔になるんですか?」


 不思議そうに黒蹴に言われて我に返った。

 やっべ、よだれ出てたジュルッ。


 結局、火の精霊は雷の精霊の解き方を知らなかった。

 なんで雷の大精霊と仲が悪いのかは、教えてもらえなかったな。

 

 食べ終わったプラズマを回収して、火の世界樹を後にする。


「きゅるるるっきゅ~」


 ポンポンに膨れたお腹を抱えて、満足げだ。

 戦い中に砕けた精霊石は細かくて食べやすいらしい。

 プラズマのウロコは、いつもより若干赤く輝いていた。


 立ち去る直前。

 広間の出口で黒蹴が振り返る。


「そうだ。伝えるのを忘れていました」

「・・・な、なんだ?」


 立ち止まった黒蹴に怯える様に世界樹の陰に隠れる火のチャラ男 (7m)。

 滑稽なその姿を、黒蹴は笑うことなく、真面目な顔で頭を下げる。


「・・・由佳の事、ありがとうございました」


 呆然とする火のチャラ男を後に残して、俺達は城に帰った。

 火のチャラ男、終始怯えっぱなしだったな・・・。


 *


「じゃーん! ニルフさんに見せるのは初めてですよね!」


 城に帰ってすぐに黒蹴が俺に見せたのは、赤く輝く双銃。

 まるで年月が経って古びながらも、丁寧に手入れをされて赤くなった金属の様な、美しく趣のある銃の表面。

 そこに艶めく黒い金属の蔦が絡み付いている。

 俺のもそうだけど、もはや木じゃないよな?


『え! なにそれ!? すげーカッコイイ!』

「属性特技も使いこなせるようになりましたよ!」

『すごいな! いつの間にそこまで練習したんだ!?』

「そりゃもちろんボソボソボソ・・・」


 口ごもったけどしっかり聞こえた。

 火のチャラ男相手に練習したって。

 怯え方が凄かったから何があったんだろうって思ったけど、銃の的にしたんだな・・・。

 間違えてもユーカの風呂を覗いたりしないようにしないと・・・。

 そういえばユーカって、変わった言葉を話してたよな。


 この世界で聞いた言葉は、全て俺の世界での標準語で聞こえている。

 人により多少の癖は有っても、ここまで方言! って感じの言葉は初めて聞くな。


『この世界で方言とか聞いたこと無いけど、どうして妹は方言なんだ?』

「僕とピンキーさんが関西弁を知ってるから、それが影響してるんだと思います」


 どうやら世界樹島に行った時に、紅葉さんに聞いてみたらしい。

 あの人、びっくりするほど少食なんだよな。若葉あんなに食うのに。

 ちなみに、世界樹ジジィは居なかったらしい。どこいってんだあのジジィ。


「ふぁ・・・。じゃあ僕も寝まふねー」


 大あくびしつつ部屋に戻る黒蹴を見送ったところで、後ろから声を掛けられる。


「おかえりー。どうだった?」

『ただいまピンキー! 無事≪登録≫できたよ』

「おめでとう! 新しいハープ効果はなんだろうね」

『後で確かめないとな! そうだ、勇者君に頼まれた事を聞いたんだけど・・・』


 ピンキーと黒蹴に、雷の大精霊に関しての事を伝えた。

 他の皆は帰って直に寝に行ったな。

 俺はしっかり寝てから行ったから平気だけど、皆には悪い事をしたな。


「雷の大精霊か・・・。そうだ、ニルフこれ知ってる?

 海龍が勇者に倒されてから、その海域での海賊被害が大きくなっているらしいんだよ」

『へ、へぇ? シラナカッタナァー?』

「大丈夫? 眠いの?」


 ピンキーに心配されたので寝る事にした。まだピンキーにはばれてない。

 あ、でも鼻が良いから臭いでバレてるかもしれない。

 それにしても、海賊被害か。

 せっかく勇者君が海龍と漁師村に巣くった魔物を倒したっていうのに、このままじゃ漁師村の復興は・・・。

 グゥ。


 そして昼前。


『うっわ! 昼過ぎじゃん! 寝過ごした!』


 とか言いつつ起きてみるも、別に急いでする用事が無かったので、ブラブラ城を歩く。

 と、シルフ達が音を拾ってきた。

 この音は・・・銃声だな。黒蹴か?


 中庭に出ると、黒蹴が自主練中だった。

 ここ数日よく会うな。ピンキー親衛隊とかには全く会わないのに。・・・みんな、同じ城に居るんだよね?

 黒蹴がオヤツに置いてある果物を齧りつつ、黒蹴が動く的を撃ちぬいていく様子を眺めていた。


「きゅるるるる~」


 果物の横で寝ていたプラズマのオデコを撫でていると、一息ついた黒蹴が俺に気付いた。


「あ! 僕のリンゴが!!!」

『そこか?』


 おはようとか無し?

 まったくもう、と言いつつ、黒蹴は水筒から水を飲もうとして、空になっている事に気付き、俺を呆れたように見る。

 水筒は元々空だったよ?


「せっかくですし、火の世界樹の≪登録≫で身に着けた魔法でも見ますか?」

『頼む』

「避けないでくださいね!」


 言った瞬間に黒蹴の銃から炎が飛び出し、俺の全身を覆った。

 燃やされる!? と思ってビクッとしたが、特に熱くない。

 洞窟で炎に包まれた時よりも恐怖を感じないな。

 ただし攻撃魔法と同じ見た目のため、信頼した相手以外の時はめっちゃ怖いだろうな。

 俺には逃げる自信がある!


「これ、異常状態を解除する魔法らしいです」

『じゃあ、俺のハープの魔法もそれかな』

「集団で毒喰らった時とかニルフさん大活躍ですね。そして僕の属性特技はこれです!」


 黒蹴が俺に向かって銃を構える。俺は木刀を構えた。

 避けるな、とは言わなかったからな。

 バァン! という音と共に小さな弾が飛び出す。

 この大きさなら、大して力は無い。そう判断し、俺は避けずにそれを叩き落とす。

 が。


 バチィン!


 弾き飛ばされたのは俺の木刀の方だった。

 横っ飛びで転がりつつ弾を避けると、後ろの木が燃え上がった。


『ん? 小さい魔弾なのに力が強い?

 しかも当たった木が燃えた?!』

「凄いでしょ、これが僕の属性特技です!」


 自慢げに説明してくれた内容は・・・。


 黒蹴の属性特技:普通は魔法しか効かない相手にも魔弾で攻撃できる。魔法と物理の両方の属性を持つ魔弾に変化した。

 魔弾に魔法の属性を乗せる事も可能に。(火のチャラ男に撃った弾は火の魔弾)

 普通は集中力を高めて小さく高密度にして出すレベルの魔法を、魔弾として撃てる。貫通力あり。

 最後の≪貫通力あり≫っていうのは、小さな岩くらいなら貫通できそうっていう事らしい。


 え、それってつまり。


『そんな危険な弾を俺相手に撃ったって事!?』

「大丈夫ですよ、本気を出せば貫通できるってだけなので。あとニルフさんなら避けると思って」


 そういう問題!?


「本気で撃った相手は火のチャラ男だけですし!!!」


 そういう問題!?


『もし避けなかったらどうなってたの?』

「燃え上がってました」


 俺は後ろの木を見る。

 強い火の魔法を放った時の様にゴーゴー燃えている。あ、炭になった。


「大丈夫ですよ。水の初期魔法で消せますし。風の初期魔法で回復出来ますし」


 そういう問題!?


「楽しみにしてたリンゴ、食べてましたし」

『・・・また今度買ってくるわ・・・』


 黒蹴は、食い物と妹へのセクハラで怒る。

 もう間違わないぜ!


 *


 昼過ぎ。

 買い物に行っていたユーカと親衛隊たちが帰ってきた。

 明日、封印されている雷の世界樹の元に行く事になり、その買い出しをしていたらしい。


「ニルフの言っていた漁師村も気になるしね」

「海賊被害も多いらしいわよ」


 沢山買いこまれた食料を見つつ、ピンキーとレモンちゃんが話しているのが聞こえた。

 目ぼしい産業も無い中、食糧難に陥ってないか不安なので、1度見に行くという事なのだろう。


 もしかしたら、勇者君達に会えるかもしれないし。

 こっちは何の収穫も無かったけれど、向こうはどうだったんだろう。

 確か水のお姉さんの元に向かうと言っていた。

 となると、後は風の爺さんだが。


「風ノじじぃニモ聞イテ見タガ、何モ知ラナカッタゾ!」


 銀が既に聞きに行ってくれていたっぽい。

 ハーピーとポニーさんの、いつもの3人で。

 ちなみに銀とポニーさんは南の国の砂漠で今日も自主練中だ。

 体力が伸び始めてる気がするとか言ってた。


 あれ? 明日出発?


『ユーカの石碑めぐりは?』

「ニルフさんが寝てる間に全部まわってきたでぇ?」

『・・・え?』


 3日寝てたらしい、俺。

 誰も心配して無かったけどね!!!


 寂しげに ぼんやりと空を見上げる俺の耳に、とんでもない話が入ってきた。


「そういえば、さきほど街でユーカが尻を触られてな」

「そうやねん。触られた瞬間にサイダーが相手の手を捻ってくれてな。

 この杖が火ぃ吹く前で良かったわー」


 おいおい! そんな話 黒蹴の前でしたら、銃構えて相手の元に飛んでいくぞ!?

 と思いきや・・・


「ふーん」

「ちょお、もうちょっと反応(しめ)そうや」


「あらあら? どうしたのニルフちゃん。そんなハトが豆鉄砲喰らったような顔しちゃって」

『いえ、なんていうか。なんで?』


 黒蹴の切れる基準が、分からない。

 

 -------------

 火の中級魔法:異常状態を焼き尽くす(異常状態の回復)

        出した火で対象相手1人を包み込む


 あ。俺、ネコテから魔弾を出せるようになっていました。

 これ練習すれば全部の指から出せるようになるかなぁ?


 ハープは黒蹴の予想通り、範囲状態異常回復だったぜ。

 事故で毒沼に嵌った馬車にこっそり聞かせてみたら、見事に元気になってた。

 そしてまた、賢者の伝説が生まれていた。3倍くらいの尾ひれがついて。

 その日のうちに耳の速い吟遊詩人が歌ってたけど、俺は聞いてないからな!

レモンとキラ子も火属性ですが、特技はまた今度。


次回メモ:雷

いつも読んでいただき、ありがとうございます!!



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