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勇者だったのかもしれない  作者: ぷっくん
世界樹と黒いヤツ
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スライムと火のあだ名

「そうだ、ニルフ。スライムが腕から取れたぞ」

「採レタゾ!」

『マジで?! おめでとう! あとハーピー、ニュアンスが何か違う』


 銀の手の中では、真っ黒になったスライムがプルプルしていた。

 あ、かわいい。


『腕は動くのか?』

「ああ。かなり筋力は落ちているが、思っていたよりは戦えそうだ」


 右手をグーパーしたり腕をブンブン振ったりする銀。

 確か・・・封印されてから3か月だっけ?

 3か月動かさなかった腕で両手剣って振れるもんだったっけ。(しかも右腕だけで)

 ・・・まあ銀だしな。うん、深くは考えない。


 ポニーさんの両掌に乗ったスライムは、そんな銀をつぶらな瞳で見つめている。


『目が出来てる!?』

くちモアルゾ!」 

『ホントだ!!!?』


 スライムは最初のデレデレ粘着物質から、グミ型に変化していた。

 真っ黒な体に、真っ黒な目と口。

 俺が見ていることに気付いたのか、こちらを向いて(`・ω・´)キリッとした。

 しゃべらないのね。


 てかこの顔、あれだな。

 うちのシルフ達の顔に似てる。

 俺の周りを漂っているシルフ達を見ると、2人ともスライムを見つめている。

 心なしか、手を振ってるような?

 スライムも体をプルプルさせて返事をする。

 シルフが見えてるんだな。


「面白いよね、スライムの顔。

 黒い紙に黒いインクで印刷した感じなのに、どれが目なのかちゃんと見分けられる。

 なんか、たことかの表皮の模様みたいだ。

 たまに百面相してて面白いんだよ」

『スライムの上に薄っぺらい紙張った感じの顔なのに動くのが不思議』

「オイシソウ」

「食うなよ?」


 三者三様の感想。

 スライムが取れてから、銀はもっぱらスライムの観察らしい。

 もうそれ趣味だよ銀。


「餌の時間だ」


 銀はスライムを撫でながら部屋に戻って行った。後ろにはハーピーが続く。

 隠居したおじいちゃんとその孫の様な2人の背中を見ながら、俺は運ばれてきた夕食を食べた。

 ピンキー達は先に食べていたらしい。

 黒蹴達、遅いなあ。


「今日はもう帰ってこないかもしれないし、妹の事、俺が話しておくね」


 さんきゅー、ピンキー。



 ―――――――――――――――――――――

 結論から言うと、火の大精霊は黒蹴の妹 -――――坂上さかがみ 由佳ゆうかを守っていただけだった。


「世界樹島の世界樹の加護を受けてないその女は、言葉も通じないどころかこの世界の病原菌にも耐性を持っていない為、火の部屋で無菌状態にして保護していたのだ」


 世界樹の前で腕組みをして浮かぶ大精霊(さっきズタボロのまま、世界樹から腕だけでズリズリ這い出してきた)が、偉そうに説明を始める。


 どうやらゆうかはこの世界に来た時に、たまたま人買いに捕まり、この洞窟に放り込まれたらしい。

 人買いは火の大精霊の洞窟とは知らず、商品が逃げないように置いておいただけだったようだが。

 ゆうかの事を南の孤島群からの遭難者とでも思ったんだろうな、人買い商人。


 大精霊が、洞窟に放り込まれた彼女を見つけたのは、たまたまだった。


「一目見た瞬間にこの世界の者ではないと見抜いた俺は、世界樹島のじいさんに連絡が取れるまで保護する事に決めたんだ。

 だがあのジジィ、まったく姿を見せやがらねえ。

 俺もコイツを保護する炎を保つのに出られねえし、コイツが出かけるとか言語道断だしでな。

 気づけば8か月よ。

 俺ホント頑張ったと思わねえ?」

 ―――――――――――――――――



『最初より砕けてきてない? 大精霊の口調と態度』

「だねぇ。大精霊達って、戦い終わるとフランクになるっていうか、なんていうか・・・」


 大精霊、俺の中でのイメージがオッサンからチャラ男に変更された。

 この後も大精霊からの話が続いたようだ。

 が、俺が食うのに必死の為、ピンキーが簡単に要約してくれた。

 久々の東の城の料理旨い。

 白パンに野菜と肉たっぷりスープ最高。




 ―――――――――――――― 

 この場所では火の大精霊自身の力が強すぎて植物が育たない為、世界樹の小精霊がいなかった。

 そのため彼女と言葉が通じず、彼女の立場を説明する事は出来なかった。

 そんな時、世界樹の小精霊の気配を感じ取った。

 この場所に来られるという事は、おそらく誰かが取り込んでいるのだろう。

 おそらくは自分(大精霊)への挑戦者。

 そう判断した大精霊は、やっと彼女を託せる、と安堵した。

 その時に、大精霊は気配に気づく。


「これは・・・あの女と同じ召喚者、か?

 あの女の仲間か!」


 喚起する大精霊。

 だが。彼女はまだ、この世界の病原菌に抵抗力が無い。

 そのまま同行させれば、あっという間に死んでしまうだろう。

 最初に大精霊が彼女を保護した時も、彼はそれを危惧し、体の周りを炎で消毒していた。

 

「とりあえずは、挑戦を受ける、だな」


 誰かが来た気配を察して、なんとか部屋から抜け出そうとする彼女を通じない言葉で説得し、いつもの部屋に閉じ込めてきた。

 はずだった。


 気付くと彼女が横に居た。

 急いで転移でもっと奥の部屋に移動させる大精霊。

 周りから見れば、火の柱に包まれて燃え尽きたように見えただろう。

 一瞬にして顔色が変わった黒蹴を見て、大精霊は少し悪戯心を出す。

 このまま、俺が非道な大精霊のふりをすれば、こいつら本気を出すかな?


 召喚者達がどんな力を持っているのか、ちょっと気になっていたのだ。

 その時の自分を思い出したのか、遠い目をする大精霊。

 その左頬は、いまだに怪我が癒えずに腫れていた。


「・・・。辞めておけば良かったがな」

「すみません・・・。まさかそんな理由だったとは」


申し訳なさそうな黒蹴。


「謝らんでエエって! このオッサン、最初に会うた時 うちの服 燃やしよってんで!」

「 」

「いやそれは。

 最初に消毒した時だけだ!

 うっかり服も燃やしてしまったが、この辺はめったに人もより付かない場所だ。

 奥の部屋に居れば、しばらくは大丈夫だろう、そう判断しただけでやましい意味は」


 バァン!

 黒蹴の 会心の 一撃!

 火の魔法が大精霊の眉間にHIT!


「熱っつ! 俺って火の大精霊なのに熱っつ!」

「この世に言い残すことは有りますか?」

「誰かー。黒蹴を止めてー」


 ピンキーの声で銀と隊長に取り押さえられ、ようやく止まる黒蹴。

 最後まで銃から手を離さなかったそうだけども。

 照準も合わせっぱなしだったそうだけども。


 その後(怯えた顔の)大精霊にサッサと世界樹の葉を食べてくるように促され、黒蹴と若葉は転移でゆうかを世界樹島に連れて行ったそうだ。


「サッサと行って世界樹の葉を食って抵抗力付けてこい!

 こいつは餞別だ!」


 その間に感染しないよう、炎の保護まで付けてもらい、ゆうか達は意気揚々と世界樹の島に転移する準備を整える。(主に服とか)

 ちなみにその加護は1日程度しか持たないそうだ。

 そして転移直前。


「世界樹島に発つ前に≪登録≫をしていけ。全員合格だ」

「あ、もうしました」

「勝手にか!?」


 大精霊も顎が外れる事ってあるんですね。

 のちに黒蹴はそう語っていた。

 ――――――――――――――


 

「今ではすっかり言葉が通じるようになって、黒蹴や若葉と一緒にもう一度世界樹の島にいっているよ。

今日は武器を取りに行くんだって」


 そう言った所で、食堂に入ってきた者達が居た。

 黒蹴達だ!

 

 黒蹴と、若葉と、もう1人。

 長く細く華奢な杖を担いだ、ローブ姿の若い女性がいた。

 年は若葉くらいだな。髪が金髪で、何故か根元から途中辺りまでが黒くなっていた。


「まさかウチが杖なんてなぁ。これどうやって使うん?」


 そう言いつつ、派手にブンブン振り回す女性。杖の使い方じゃない。それたぶん棍棒の使い方。

 そんな勢いでゴーレムとか殴ったら折れそうだな。

 アレが妹か?


 黒蹴と目が合った。

 駆け寄ってくる黒蹴。若葉も駆け寄ろうとするが、妹に止められて俺の事を説明している。


「ニルフさん!

 帰ってたんですね! 僕心配しましたよ無事でよかったで痛ッタァ!?」


 とりあえずチョップした。


 *


 若葉に泣きながら抱き着かれた後。

 帰ってきた3人と一緒に夕食を取りながら、俺がここ2週間で経験した事を話した。

 クロムと飛ばされた後、勇者君達と会った事、雷の世界樹が封印され、大精霊が居なかった事、近くに石碑が無かったこと、船出航まで見送られて結局西の国に行くまで転移できなかった事。


 そういや銀達に雷の世界樹の事、言ってないや。

 ちなみに船での海賊事件は言わなかった。

 実害は無かったし、心配かけるほどの事では無かったからね。


 断じて爆睡してた事がばれると恥ずかしいって事じゃ無いからね!

 無いからね!?


 黒蹴と妹 (ユーカというらしい)は昼を食べ損ねたらしく、バクバク食べながら聞いている。

 食べ方似てるな。

 ユーカは白いご飯が好きらしい。西の国でよく栽培されてる植物だそうだ。

 黒蹴とピンキーも良く転移で買ってきて食べてたな。

 俺は白いパンが好きだ。

 銀は何でも良く食う。

 若葉は・・・


『若葉、それ俺の麺』

「ズズズ?」


 本当になんでもよく食う。

 麺啜る音で返事しやがった。


「あー、味噌汁食べたいわぁ」


 沢山食べて膨れた腹をポンポン! っと叩いて、椅子にもたれかかったユーカが言う。


「ピンキーさんなら作ってますよね、味噌!」

「黒蹴は俺を何者だと思っているの?」


 そういいつつ、作り方のメモを作り出すピンキー。

 どっちにしろ今の状態じゃ無理でしょ、犬だし。


「そうですわ。ニルフさんは火の大精霊の話、聞きましたか?」

『聞いた聞いた。火の大精霊って、なんかチャラ男って感じだよねー』

「チャラ男・・・ですか」


 若葉と俺の会話を聞いていた黒蹴が、すっごい悪い顔になった。

 何?! 超怖い!


『今日体力余ってるし、この後、早速行ってみようと思う』

「ではわたくしも付いて行きますわ! 次は変な所に勝手に行かないように見張りますわよ!」


 どんだけ心配性なんだよ若葉。

 

 夕食の後、早速火の大精霊の所に転移する。

 王様は心配したが、船の中で滅茶苦茶寝たので超元気だ。


 超元気だ!!!


 ユーカの顔見せ(武器見せ? )も兼ねて、火の世界樹の石碑に直接飛ぶ。

 ユーカも転移出来るっぽいな。


 黒蹴と銀とユーカと若葉が付いてきた。

 行くよって言う前に食堂に来た銀。なんかこっちを見る目が疑い深い。

 何も隠してることはナイデスヨ?


 ピンキーは仕入れに出掛けた親衛隊を待つらしい。


 転移して早々、目の前に火の世界樹がそびえたっている。

 圧巻だ。これほど見事な木が、全て炎で出来てるなんて不思議だよな。

 と、俺の後ろに気配。


 腕組みした火の大精霊が音も無く俺の後ろに浮かんで、こちらを見下ろしていた。

 大精霊は俺を見て顎に手を当てる。

 そして鋭く尖った笑みを見せ。


「それほどまでに濃厚な人の血の匂いを漂わせたものと会いまみえようとは。よほど腕が立つようだな」


 凶悪な顔で高笑いした。

 その額には何故か、小さな焦げ跡があった。


 その後すぐに勝負!

 にならずに、銀達に血の匂いの訳を散々問い詰められ、火の大精霊にようやく勝負を挑めたのは、明け方だった。

 全部バレマシタ・・・。

 というか、銀には最初から気づかれてたっぽい・・・。



 

 銀と若葉に怒られる俺を見て、火の大精霊が腹抱えて大笑いしてた。

 戦い始まってからも笑いが収まらずに、笑いながら分身飛ばしてきた。

 2mほどの普通の人サイズの火の大精霊。

 パッと見、チャラ男。

 分身チャラ男も大爆笑中。


 さすがにイラっと来たので武器でメッタ撃ちにして魔弾でしばいたら消えた。

 魔法が使えないって聞いていたから、打撃で勝てるように調整してくれていたらしい。

 火の大精霊、良いヤツ。


 勝負後。

 ユーカが武器を持ったことを喜ぶ火の大精霊に、黒蹴が一言。


「由佳へのセクハラは、あなたを≪火のチャラ男≫って呼ぶことでチャラにしますね」

「なんだと!?」

「え、嫌ですか? だったら≪火のオッサン≫で・・・」

「ぜひ≪火のチャラ男≫でお願いします」


 空中で土下座する火の大精霊。

 さっき城でやってた悪い顔は、これだったか・・・。

次回メモ:息抜きSS


いつも読んでいただき、ありがとうございます!

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