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勇者だったのかもしれない  作者: ぷっくん
世界樹と黒いヤツ
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遠足はお家に帰るまでが遠足

 ~昨日のダイジェスト~


 1.俺が寝る。

 2.深夜、船に強烈な横揺れ。

   海賊が船の腹に体当たりしたらしい。

   衝撃で俺が壁にくっつく。その体勢のまま朝まで爆睡。

 3.海賊が何グループかに分かれて金持ちの階層を襲う。

   1グループが間違えて俺達の部屋を襲う。

   1階間違えたらしい。

 4.海賊返り討ち。

   なんでもこの部屋のメンバーのほとんどが、金の無い荒くれ冒険者の集まりだったとか。

   金の無い研究者や絵描きも居たが、戦えない者は俺のベッドの周りに集まって身を丸めていたらしい。


「なんでか、あのベッドの周りだけナイフやら魔法やらが当たらなくてな。

 あのベッド、縁起物として祭られるらしいぞ」

『不思議な事もあるんですね』


 酒場で酒を飲んでる同部屋の冒険者達の武勇伝を聞きながら、俺は酒場を漂うシー君とフーちゃんを見る。

 2人とも、一仕事終えたーって感じで漂っている。

 うん、奇跡のベッドの原因は分かった。

 もしかしたら今までグースカ寝てても無事だったのって、この2人のおかげだったのかな。


「あ、爆睡してた人ですね。あの奇跡のベッドのおかげで生きてるんですよ僕たち。

 シーツをこっそりすり替えて貰って来たんで、少しあげましょう」


 あの時部屋に居た、細いおじさんに声を掛けられた。

 研究者の人かな。

 

「このベッドのシーツに描いた絵は、縁起物として高く売れそうですよフフフフ」


 絵描きの人かよ。

 てか祭られるってベッドのシーツ、勝手に持ってきちゃっていいのか?

 渡された絵を見ると、酸化した血で、般若(ピンキーが画用紙に描いてた奴っぽい)の絵が描かれていた。

 とりあえず、丁重にお断りした。

 

「研究者の若造は、あのシーツには精霊が憑りついてる可能性があるとかで、研究用に枕をすり替えてましたね。

 あなたも何かすり替えてこなかったんですか?」


 いやそんな、何も持ってこない方が不思議って顔されてもさ。

 俺は逃げるように酒場を後にし、船の中をうろつく。


 船の左側面に大きな傷がある以外、そんなに大きな破損は無いようだった。

 傷も、既に応急処置が施されていたし。


 歩き回りつつ、シルフで客の噂話を拾う。

 どうやら海賊は50人ほどで乗り込んできたらしく、10人ごとのグループに分かれて金持ちの部屋を襲おうとしたらしい。

 しかし強力なボディガードと、金持ちは守ると評判の乗組員たちによって、大きな騒ぎになる前に全員討伐されたそうだ。

 

 俺達の部屋を襲ったのは、金持ちの荷物を保管している倉庫を狙ったグループだったとか。

 だから質素な扉を見ても疑問に思わなかったんだな、その海賊たち。


 残った海賊共は、付近をパトロールしていた国の水兵達に捕まって連行されたらしい。

 戦いの渦中に居ながら、1人も海賊見てないな俺。


 このことは、皆に内緒にしておこう!

 ワザワザ心配カケルコトナイモンネ!!!


 *


 その後無事に船は火の国の港に付き、冒険に出掛けたふりをして、俺は人目のない茂みに隠れて剣の地図を開く。

 火の世界樹の位置に赤い点が付いていた。

 無事、≪登録≫出来たみたいだな。

 しかし点滅はしていない。


 全体を見回すと、東の国の城下町の石碑と、何故か世界樹の島の石碑が点滅している。

 俺は東の城の地下、世界樹の枝の間に転移した。


『ただいまーっと』


 さすがに誰もいない。

 地下から一階に上がると、料理の匂いがふんわりと漂った。

 窓から入る光は赤い。

 夕方だな。


「あ」

『ん?』


 自分の部屋へ行く途中、兵士さんとすれ違った。

 兵士さんは手に持っていた資料をバサバサと落とし。


「おかえりなさいませ!」


 そのままどっかに走ってった。

 資料、そのままでいいの?


 資料を拾い集めた頃、バタバタと足音が聞こえて、王様が現れた。

 見事なコーナリング!

 絨毯から煙を出しながら、目の前で王は停止した。


「心配したんじゃぞ!」


 遠慮なしに、ガシっと抱きしめられた。

 骨がミシミシと音を立てる。

 そんなに時間、経ってたっけ?


 *


「2週間ぶりだな、ニルフ」

「お帰り、心配してたんだよ」

「石碑ガ点滅シナイカラ、飛ンデ迎エニモ行ケナカッタ」

「連絡も取れない状況下に居たのですか?」

『ごめんごめん、石碑がある場所が無くって』


 2週間経ってたそうです。

 めまぐるしくて、しっかり日数数えてなかったや。

 王様に(抱き枕の様に)がっしり両手でホールドされたまま、皆が居ると言ういつもの食堂に連れて行かれ、そこに偶々居た銀やピンキー、ハーピー、ポニーさんから質問攻めにあった。


 連絡を取る手段も無いまま2週間も行方不明だったため、王なんか発狂寸前だったと、のちに大臣が教えてくれた。

 王子達の事を思い出したんだろうな。

 俺が西の国の下の大きい島で石碑に立ち寄り≪登録≫した事で、無事が分かってようやく落ち着いたらしい。


『皆こっちに居るの? 2人がこっちに居るって事は、点滅してた世界樹島は黒蹴か』

「あ、うん。ちょっと色々あってね。

 黒蹴は若葉と世界樹島に行ってるよ。

 他の皆は城下町に買い出しに行ったり、部屋で寝てるところ。

 説明がむずかしいけど、俺達側のイベントは・・・」


 ピンキーがサッと教えてくれた事によると。





 -―――――――――――――――――――

 「ニルフ!」


 普段叫ぶ事の無い銀が叫んだことにより、俺に何かあったと分かったらしい。

 俺が火に包まれて消えた瞬間は、銀が見てたっぽいな。

 ・・・誰にも見られてなかったら、どうなってたんだろう。

 魔物に食われた事にでもなってたんだろうか。


 必死に皆で、俺が消えた場所を探したらしいが、影も形も無かった為、一応先に進むことになったらしい。

 ―――――――――――――――――





『待って、誰もその場に縋りついて泣いたり、崩れ落ちたりしなかったって聞いてちょっと悲しくなったんだけど』

「そう簡単に死ぬわけないって思ってね。信頼されてるって事だよ」


 ってピンキーは言ってたけど、なんだかなー。

 そこは泣けよ若葉! ワンワンと!


「ナンデ若葉ナンむぐぁ!」


 何か言いかけたハーピーが、ポニーさんに口を塞がれていた。

 すぐに銀が俺に言う。


「人が燃焼する様子とでは無かったからな。火の大精霊の仕業と判断して進んだんだ」


 銀はきっと、目の前で人が燃えるの見た事あるんだろうな~・・・。

 なんとなく前世界の知識が出てきそうになったけど、今思い出すのは辞めとこう。夕食食べれなくなりそう。

 まあ、記憶じゃなくて知識だから大丈夫かもしれ・・・あ、やっぱダメだ辞めとこ。




 -――――――――――――――――――

 その後どんどん洞窟を進んで行って、火の大精霊の元に向かったピンキー達。

 地面が熱くなっているため、ピンキーやベリーは抱っこされて移動だった。


「以前私が戦った時は、力を調節した分身に戦わせていました」


 道中ポニーさんにレクチャーを受けつつ、対策を立ててみたり。

 火で出来たトカゲのような魔物を倒してみたり。

 そんなに特筆する事はなかったらしい。


 そして、洞窟の突き当りに鉄で出来た、赤い大きな扉があった。

 黒蹴が触れると音も無く開き、その先には・・・。


 広場の奥に、目もくらむような光を放ちながら、巨大な燃える木がそびえたっていた。

 これこそが、火の世界樹。全てが炎の、巨大な樹。

 木の手前には、人工的に丸くくりぬかれたような大きな広場があり、天井まではおよそ50mほどあった。

 洞窟の奥にあるにもかかわらず、広場はマグマと精霊石で赤く照らされていた。


「ようやく来たか、冒険者達よ。見知った顔もあるが、お前達が挑戦者でいいんだな?」


 樹の炎が渦を巻き、目の前にそびえたったのは大きな男の上半身だった。

 足は無く、ピンキー達の世界の「ランプの魔神」って感じだったらしい。

 7mほどの上半身裸で足が煙に包まれた、オッサンをイメージしたらいいそうだ。

 そんな火の大精霊オッサンとの会話もそこそこに、戦いを始めようとしたその時!

 ―――――――――――――――――――





『ちょっと待って、大精霊に俺の事を聞く前に戦おうとしたの?』

「知りたければかかってこいって言われてさ」


 なるほど。



 ―――――――――――――――――――

 そして全員で戦闘を始めようとしたその時。奥の方から若い女性の声が響く。


「ちょっと! 何すんねんオッサン!

 せっかくオッサン以外のちゃんとした人間来てんのに、なんで追い返そうとしてんの!」


 そこに立っていたのは小麦色に焼けた肌に扇情的な服を纏った、セミロングの、根元の黒くなった明るい茶髪の若い女性だった。

 

「え・・・」


 その女性ひとを見た黒蹴の動きが止まる。

 それに気づかない火の大精霊オッサンは、


「何を言ってるか分からんわ!

 お前はおとなしく、俺の世話をしていればいいんだ!」


 サッと手を振った。

 その瞬間、火柱が立ち上り、女性の立っていた場所は黒こげになっており。

 女性の姿は消えていた。

 

「俺に逆らうからだ」


 火の大精霊オッサンは満足そうに鼻を鳴らす。

 その時・・・。


「なにしてんだー!!!」


 いきなり叫んだ黒蹴が、火の大精霊に特攻した。


「待って! 1人で向かわないで!

 火の大精霊に直接触れた者は、皆燃えてしまうと言われているんですよ!?」


 すぐにポニーさんが止めに入り、ケモラーさんが鞭で捕まえようとするが、スルリと避けて走って行っていく。

 黒蹴は走り続け、3mほどの水弾を連続で打ち込んでいく。いずれも火の大精霊の元に届く前に蒸発してしまうが、それでも彼の足が止まることは無く。


 その足が止まったのは、火の大精霊の目の前に立った時だった。


「ふん、その程度か。

 本当なら小手試し程度で済ましてやろうと思ったが、俺に直接攻撃しようとするなど・・・万死に値する!

 だがその根性は認めて、特別にこの形態を見せてやろう。

 感謝しつつ死ね!」


 火の大精霊オッサンが大きく膨れ上がった。


「戻って、何かおかしいよ黒蹴!」


 彼の元に駆け寄ろうとしたピンキーが一瞬躊躇し、叫ぶ。

 周りの仲間達も、口々に戻るようにと説得する。

 だが黒蹴は鋭く銃を構えたまま、まったく引く気配が無い。

 彼の目は深い怒りに染まり、火の大精霊のみを見つめている。


 そんな彼の様子をあざ笑うかの様に、火の大精霊は見る見るうちに、憤怒を実体化させたような姿になった。

 まるで、鬼。真っ赤だった体の炎は、温度が上がりすぎて青くなっている。

 あまりに温度が高すぎるのか、大精霊の周りを漂う埃が火花のように燃えて散った。


 しかし黒蹴は、かまわず水弾を連射しつづけた。

 黒蹴を、小さな虫でも見るような目で観察していた大精霊は、ゆっくりとその青い右手を、彼に向かって伸ばす。

 飛んできた水弾を蒸発させつつ、腕に触れた周りの岩をも溶かしながら、手が黒蹴に届くその瞬間。


 隊長と若葉の放った水球が、大精霊の右手と黒蹴の間に滑り込んだ!

 大きな蒸気があがり、黒蹴の姿が掻き消える。

 が、


「暴走した仲間を助けようとしたようだが。

 こんな少ない魔力しか込もっていない水で、俺の手の温度を下げることは出来ない。

 残念だったな。1人、脱落だ」


 大きく上がった白い蒸気の中から、火の大精霊の低く恐ろしい声が響いた。

 だが。

 その蒸気の中には、すでに黒蹴の姿は無かった。

 黒蹴の真後ろに現れた銀が襟首をひっつかみ、≪空翔ける靴≫を利用して大精霊から距離を取っていたのだ。


 その様子が見えていたのは、蒸気のこちら側に居るピンキー達のみ。大精霊はまだ気づいていない!

 隙だらけのその瞬間を狙って、ピンキー&親衛隊が全力の水魔法を大精霊の右手にぶつける!

 一点集中された津波の様な水量の水が、大精霊の右腕を包み込んだ!

 

 大精霊の右手の炎が消え、黒い炭の様な腕が現れた。

 そこを狙ってケモラーさんが鞭を振るう!

 砕け散った腕を見たピンキーが、歓喜の声を上げる。


「よし! 火が消えれば勝てるよ!」

「舐めるな!」


 だが大精霊の一喝と同時に炎が腕を形取り、あっという間に手は再生されてしまった。


「ちょっと! 私達ありったけの魔力をぶつけたのよ!?

 これで無理とか、どうするのよ!」

「あらあら、ピンキーちゃん、私もう魔力尽きかけよ」

それがしも、接近戦が難しいとなれば役に立てぬのだが」


 歯噛みする、接近戦メンバー。

 ケモラーさんが鞭に違和感を覚えてチェックする。


「あらぁ、修理が必要ですねぇ」


 鞭の先は、黒く炭化していた。


「魔法で炎を取り去ってたのよ!?」

「鞭には風を纏わせていましたか?」

「もちろんですぅ」


 レモンちゃんとポニーさんの問いに短く答えつつ、鞭を一振りする。

 ビシっという音と共に、鞭の黒い欠片が飛び散った。

 皆が火の大精霊を目の前に考えを巡らせる中。


「隊長、奴の目をオレ達から逸らせてくれ」


 銀が小声で隊長に伝える。

 ―――――――――――――――――――――――

次回メモ:炎


ポニーさんは、直接自陣を攻撃された時を考えて待機していました(一度戦った事があるので)

いつも読んでいただき、ありがとうございます!

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