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勇者だったのかもしれない  作者: ぷっくん
世界樹と黒いヤツ
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主人公と剣の目的

 船に乗る最終日の夜、俺は勇者君とクロムとの相部屋(多分3人とも小さいからって理由で詰め込まれた)のハンモックの上で、ブラブラ揺れていた。

 結局、船が西国の港に着くまでの2日間、勇者君の問いに、答えを出すことが出来なかった。


 この夜が終われば、すぐに港につく時間になるだろう。

 俺の旅の目的。


 最初は、黒蹴を元の世界に戻すために、大精霊達から情報を集めようという事だった。

 黒蹴や皆は、世界樹の石碑への≪登録≫後に話を聞いていたが、今の所、重要な話は出てきていない為、その目的は今でも変わっていない。

 とりあえず、それが4人の共通の目標だな。

 じゃあ、1人1人ではどうなんだろう。


 黒蹴はもちろん、元の世界に帰って、一緒にトラックに轢かれた妹の無事を確かめる事。

 ピンキーは、なんだろう。ピンキージュエルに似た女の子を探しつつ、この世界を楽しむこと、なのか?

 銀は・・・、まったく分からないが、強くなる事自体が目的になっているように感じる。


 じゃあ俺は・・・?

 声を取り戻す・・・のは、まあ制限無しに喋れれば嬉しいし便利だろうけど、ぶっちゃけ今でもそんなに不便を感じない。

 ま、周りの皆の助けがあるからなんだけどね。

 PTの皆と、東の過保護な王様と、気の良い城の皆と、もちろんシルフの2人。(2人って言うのはおかしいかな?)

 じゃあ他にやりたい事は? と聞かれても、特には思いつかない。

 強いて言えば、≪皆と旅をしている今が楽しい≫という事しかない。

 これ、旅の目的か?


 ・・・ぶっちゃけ目的が無かったことに気付いて、ちょっと悩んだ。


『ふう・・・』

「・・・おい、そこのアンニュイマフラー野郎」


 誰かが俺を呼んでいる。このザラついた声は勇者君の持つ剣だな。


『なんだ』


 小さな声で返事をする。

 ま、声量の調節とか考えなくても、俺の声は聞かせたい人にだけ運べるんだけどね。シルフ君達のおかげで。


「お前にだけ、教えておきたいことがある」

『なんだ』

「返事のレパートリー増やそうぜ?

・・・まあいっか。おれな、おれにもな、旅の目的ってのがあってな。

・・・相棒を探してるんだ。一緒に作られた、兄弟の様な武器。

 これはコイツにも言ってない事なんだぜ」

『なんで勇者君にも言ってない様な事、俺に言うんだ?』

「さあ、なんでだろうな。

 なんとなく、お前からその武器の気配がしたような気がしてな」

『そっか・・・。どんな武器かは分からないのか?』

「ひゃはは、協力してくれる、ってのか?

 ありがたいが、姿も、ソイツにおれのような意識があるのかも分からないんだ。

 ただ、おれの覚えてる最初の、戦い以外の記憶が『ソイツが一緒に作られた』って事でな。

 会ってみたくなった、ってだけなんだ・・・」

『・・・似たような武器があったら、教えてやるよ』

「おう、ありがとうな」


 会話が始まった頃からフーちゃんが気を利かせて、剣の声も俺にだけ聞こえる様にしてくれていた。

 こういう細かい所はフーちゃんが上手いな。

 シー君はシルフの仲間を集める事と、広範囲に音を広めるのが上手い。

 そういえば、どうしてこの2人は俺に付いて来てくれるんだろう。


『俺の目的・・・か』


 俺はもう一度ゴロリと寝返りを打ってから、まぶたを閉じた。

 明日は、勇者君達と別れたら直に皆の所に転移しようっと・・・。


 *


「じゃ、見送るから! 船!!!」

『え”』


 うん。

 という訳で俺は今、でかい客船に乗っています。

 行先は、火の国。

 勇者君達が客室の中にまで見送りに来てくれました。

 嬉しいけど!!! 友達が見送ってくれるとか、普通だったら泣いて喜ぶけど!!!

 俺、転移したいんだよね・・・!

 出航前には出てくれるよね? 乗ったフリして転移出来る暇くれるよね!?


「・・・そこで海龍の牙を、ボクがズバァーっと!」

「すごーい、勇者様!」

『メイジさん、一緒に戦って見てたんじゃないんですか?』

「もちろん見てたわよ! でも、勇者様の話を聞くのも好きなんだもん!」

「牙って高いんだよね確か。今潜れば牙拾えるかな!」

『無理じゃないか? クロム。(早く出て行って! 旅立って皆!!! )』


 ぼぉ~~~~~♪


「出航の時間だ。行くぞ、勇者殿」

『残念です(うぉおおおおおぉぉ!! 転移出来なかったぁあ! )』


 結局、船はそのまま出航。

 俺を乗せたまま。

 船に乗ったまま転移したら、確実に騒ぎになるよね・・・?


 船が港を離れる時、大勢の見送りの人がそれぞれの相手に向かって、口々に言葉を叫ぶ。

 祝福の言葉が多いが、たまに呪いの言葉を言ってる人もいるな。何があったんだろう。

 俺は周りを見回す。

 人は多いが、知り合いは居ない。久しぶりの1人だ。

 ・・・少し寂しい・・・かな?


 そう思って空を見る。と、シー君がフワフワと港の方に向かって行った。

 何気なしに目で追った、その先には。

 勇者君が何か叫びながら、ジャンプをして手を振っていた。

 まだ、見送ってくれてたんだ!!!

 俺も甲板から身を乗り出して、手を振った。


「ニルフゥウウ! 次も、ボクらと一緒に冒険しよー!」


 これは勇者君。手をメガホンの様に口に当てて、力いっぱい叫んでいる。

 剣も起きてるようで、「がんばれよ」と言う声が小さく聞こえた。


「ニルフ! 巻き込んじゃってごめんねー!」


 これはクロム。巻き込んだのは俺の方なのに、俺を怒る事は無かった。

 いい奴だったな。毛皮も、ベリーよりモフモフだったし。


「ニルフ君! 勇者様を元気にしてくれて、ありがとうー!」


 メイジさん、俺の事をニルフって呼んだ!?

 ローブが海風でめくれ上がる事も気にせず、俺に向かって大きく手を振ってくれている。

 そして、その横には。


「劣化吟遊詩人では無くなったな、ニルフ」


 そう言って、ニヤリと笑ったファイターさんが見えた。

 普通だったら、こんなに人の声があふれる中、仲間の声とか聞き取れないだろう。

 けど、俺にはシルフ達がいる。

 俺が落ち込んだのが分かったのか、ただの気まぐれなのかは分からないけれど、沈んでいた気持ちが、少し上向きになった。


 皆の姿が見えなくなってから、俺は空に向かって叫ぶ。


『よっっっしゃぁああああ! 脱・劣化吟遊詩じぃぃぃぃぃん!!!』


 俺の後ろを歩いていた金持ちっぽいおじさんが、滑ってこけた。





 携帯食料を飲み込んで、甲板から夕陽を眺める。

 乗り込んだ船は中々に大きく、甲板から海まで大体10mほどはある。

 これなら海の魔物に襲われても、そう簡単には登ってこれないな。

 そう思っていると、近くの扉から酔っぱらいが数人、俺の近くに歩いてきた。

 俺は、その場をソッと離れる。

 男達は、近くの樽の上に座っておしゃべりをしている女性達の元に向かって行った。


 ぶっちゃけこの世界に来てから一人旅をした事は無いが、前の世界の知識にあった一人旅の方法がこの世界でも通用するらしく、今の所トラブルには巻き込まれていない。

 俺の前世界での一人旅知識にあった、一番大切な事。

 それは・・・、一言で言うと、目立たない事!!!


 目立つと、受ける恩恵も大きいだろうがその分トラブルも招きやすい。

 なので、シルフィハープも布で包んで背中に背負っている。

 こんないい夕陽の中、女性に向けてハープを弾かないのは勿体ないが、これも無事に皆の所に戻るためだ。

 せくしぃなおねーさん達の誘惑にも負けないぞ!!!


 何故か、黒蹴の顔が浮かんだ。

 しかも、いつもの呆れたような表情をしつつ「ニルフさんって・・・」っていう声付きで。

 想像の中にまで呆れ顔で出てくるなんて、アイツ中々だな。

 再会したらチョップしたる。



 俺は客室に戻り、ベッドに登る。

 縦5m、横7mの大部屋で、壁沿いには所狭しにベッドが敷き詰められていた。

 柱の上にはハンモックもあり、厳ついおっさんや細いおっさん、若いにーちゃん達が気ままにくつろいでいる。

 パッと見20人くらいいる。酒を持ち込んでる奴もいるな。


「お。お前も飲むか! 酒場にあるような高級な奴じゃないけどな!」

『いや、ちょっと寝るので大丈夫っす。あざっす』

 

 この船は金持ちも一般人も利用しているので、大部屋はもちろん個室もある。

 ま、個室はほとんど金持ち専用の奴だけどね。

 一般人用も少数あるらしいが、俺が乗る時には全て埋まっていた。

 後は独房らしい。船で暴れた奴を放り込む。

 昔は海に捨ててたらしいけどね。超怖い!


 もちろん、俺が取ったのは個室では無く大部屋だ。持ち合わせがあまりなかったからね。

 勇者君が貸してくれるって言っていたけど、いつ再開出来るか分からないし、ぶっちゃけ大部屋の方が何かあった時逃げやすい。

 ムキムキの血の気の多い男達が戦ってる間にこっそり逃げ(げふん


 ま、そのときはきっと俺もタタカウダロウケドネ?


 さて、寝る時も注意が必要だ。

 持ち物を盗まれない様にしっかりと身につけつつ!

 ベッドに寝転んで熟睡すると襲われた時に対応ができないので、座った状態で剣を抱えて寝るのだ!!!

 剣に体重を任せて、後ろの壁に身をもたれさせる。

 

 ふっふっふ、前世界の俺、1人旅慣れていたんだろうな。

 教えられずにこんなことサラッと出来るなんて、俺かっけぇ~♪


 *


「おい、にーちゃん。おーい、起きなって!」

『ふぉえ?』

「やーっと起きたか。よくあの状態で爆睡できたなアンタ」


 乱暴に体を揺すられて顔を軽くビンタされて目を開けると、目の前に厳ついおっさんの顔があった。

 何故か横向き。寝転んでるのか? おっさん。


『誰!?』

「水兵だよ! アンタ周り見ろよ!」


 白い服の厳ついおっさんに促されて周りを見る。

 なぜか血の海。

 壁には戦闘跡。折れた刃物や焦げ跡もある。

 うわ、切断された腕が貫通してる剣が壁に突き刺さってる。


「まったく。海賊にこの部屋襲われたって連絡で急行して生存者探したら、死体と血の海の中でグースカ寝てるやつがいるんだもんよ。

 張り付けにされた死体かと思ったじゃねえか」

『は、はぁ・・・?』

「ほれ、これ見てみ」


 張りつけ? 俺、座って寝てたよな?

 おっさんが取り出した鏡を見てみる。

 ベッドの後ろの壁に尻を付けて、立ったまま前屈してる俺が映っていた。

 ベッドに押し付けられた首が90度に曲がっている。

 尻と足が壁にくっついてるっていうか。


『壁に重力でもかかってます?』

「さあ」


 ちょうど壁に座って、ベッドにもたれてる感じで爆睡していた。

 なんで?

 あ、荷物無事かな。


 



「起きたかにーちゃん!」


 掃除するから出て行くように言われ、甲板に出ると、寝る前に酒を進めてくれたオッサンが居た。

 顔に切り傷があるが、大きな怪我は無いようで安心した。


「大変だったな、昨日! にーちゃんの荷物は無事だったか?」

『あ、はい。全部無事でした』


 荷物は全て背負ってて無事だった。剣(木刀)は抱き枕みたいに、しっかり抱き着いてた。


「おい、そいつか。あの部屋に居たのに爆睡してたって奴」

『え”っ、襲われたのあの部屋だけだったんすか?』

「金持ち狙ってきた海賊の一部が、間違えて俺達の大部屋襲ったんだよ」


 甲板で傷の手当てを受けてる男達が口々に話始める。

 昨日のオッサンが、酒場から酒を持ち出してきた。


「おうよ。一般用の個室や他の大部屋は全て狙われなかったのに、なぜか俺達の部屋だけ間違われてな」

『てことは、ここに居ない他の人達は・・・』


 海賊に殺されて・・・。


「おう!

 全員で海賊ボッコボコにして、海に沈めてやったぜ!」

「「「きゃー! すごーい!」」」


 扉の取れた酒場から、見覚えのある男達が女性達に囲まれて武勇伝を語っているのが見えた。


「皆あそこで飲んでるぞ」

『あ、そうですか』


 怪我人は出たが、全員無事だったらしい。

 

「怪我の手当てが終わったら、俺達も飲むぞおぉお!」


 甲板で手当てをしている男達が叫んでいた。


次回メモ:火


いつも読んでいただき、ありがとうございます!!!

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